Episode9 動き出した運命は止まらない
どうしてこんなことになったのだろう。
紫藤さんを洞窟まで運び、日が落ち切る前に残りの魔力を使って簡素なベッドと侵入者を防ぐための使い捨て結界魔道具(効果時間は約24時間だが、消費魔力が少ない分途中で結界を解除すると再展開が不可能な消耗品)、それに夜でも問題なく過ごせるようにランプを作成した後(ついでに余った魔力で簡易トイレもこっそり洞窟の隅に準備している)、怒涛の展開で疲れていたのか気付いたら転寝をしていていたらしく、目が覚めると茜色に染まっていたはずの空はすっかり闇と満点の星に覆われていた。
それが何時ごろの事だったのかは不明だが、まだ紫藤さんも目を覚ましていなかったのに加えてボクの魔力も1,200くらいまでは回復していたので、手頃な魔力消費で生成できる某ファストフード店のハンバーガーセット(ドリンク付き)を創り出し、晩ご飯を食べ始めた時点でようやく紫藤さんが目を覚ました。
その後、慣れない会話に緊張しながらなんとか順調に話を進め、自分の限界を超えそうになっていたところで運良く紫藤さんのお腹が鳴ったのでボクと同じ食事を【
(それにしても、こうして頬を染めながら食事を受け取とる姿を見て思ったけど、紫藤さんって美人なだけじゃなくて可愛らしい一面もあるんだなぁ。やっぱり、どう考えても主人公かヒロインみたいなメインキャラタイプよね。もしかしたら、このまま紫藤さんと同じパーティーとして同行できたら妙なボスキャラポジションに据えられたり、世界を救うために先頭に立って戦わされたりしなくて済むんじゃ……)
ファストフード店の紙袋を手渡しながらそんなことを考えるが、『でもよく考えると、ボクみたいに初期から能力値が高いキャラって仲間化してもたいてい中盤から終盤で現れた強敵と戦って死んじゃうような……』なんて思考が浮かび、そこから軽い気持ちで『だったら、魔王らしく眷属として使役する、とか?』なんてことを考えながら紫藤さんがその小さな口でハンバーガーに齧り付くのを眺めていた。
『【勇者一行】の称号を得ました。【眷属使役】のスキルを習得しました』
「「えっ!?」」
おそらく紫藤さんにもボクと同じく何らかの変化があったのだろう。
同時に驚きの声を漏らしながら慌ててステータス画面の確認を始めた(ステータスのウインドウは見えるのだが、半透明のディスプレイなのに映し出されてる文字は反対側からは見えなくなっている)紫藤さんを横目に、もはや想定外の事態に慣れつつあるボクも一応自身のステータスを確認してみる。
【ステータス】
・芹川優璃 Lv.15 EXP:4,927(次のレベルまで:353)
・SP :142/232
・MP :1,689/8,914
・攻撃力:3,324(+340)
・防御力:3,448(+5)
・魔攻力:4,071(+460)
・魔防力:3,822
・素早さ:3,573(+305)
【装備】
・殲滅の大鎌『タナトス』(覚醒)(攻撃力:+340、魔攻力:+460、素早さ:+300)
・白波高等学校の制服(防御力:+5)
・ローファー(素早さ:+5)
【獲得称号】
・神に叛きし者
・勇者覚醒者
・魔王覚醒者
・勇者一行
・七元徳
・七大罪
・英雄
【習得スキル】
(基礎能力向上系)
・基礎MP向上LV1(獲得時消費SP:10)
(ステータス補正値向上系)
・MP上昇(小)(獲得時消費SP:5)
・MP上昇(中)(獲得時消費SP:10)
・MP上昇(大)(獲得時消費SP:15)
・MP上昇(極)(獲得時消費SP:20)
・賢者 (獲得時消費SP:30)
(効果及び技能習得系)
・能力看破(獲得時消費SP:―) Lv.10(次のレベルまで:―回)
・極光の賢者(獲得時消費SP:―) Lv.3(次のレベルまで:31回)
・漆黒の賢者(獲得時消費SP:―) Lv.3(次のレベルまで:31回)
(特殊系)
・勇者(獲得時消費SP:―)
・魔王(獲得時消費SP:―)
・純潔(獲得時消費SP:―)
・寛容(獲得時消費SP:―)
・節制(獲得時消費SP:―)
・慈愛(獲得時消費SP:―)
・勤勉(獲得時消費SP:―)
・忠義(獲得時消費SP:―)
・分別(獲得時消費SP:―)
・色欲(獲得時消費SP:―)
・憤怒(獲得時消費SP:―)
・暴食(獲得時消費SP:―)
・嫉妬(獲得時消費SP:―)
・怠惰(獲得時消費SP:―)
・傲慢(獲得時消費SP:―)
・強欲(獲得時消費SP:―)
・虚無(獲得時消費SP:―)
・
・眷属使役(獲得時消費SP:―)
【パーティーメンバー】
・紫藤亞梨子 Lv.13 MP:1,804/1,804 【ステータスを確認する】
(15レベルに上がってからちゃんとステータスを確認しとらんかったし、いまいち変化が分からん……。まあ、少なくともMPが上がってるのは確かだし、いくつかのステータスが上がってる感じ、かな? というか、ちゃんと見てなかったから今気付いたけど、いつの間にか【パーティーメンバー】の項目が増えて紫藤さんの名前が記載されてる……。しかも、ステータスも確認できるみたいだけど……)
どの程度の情報が開示されているのか確認すべく、ボクは紫藤さんのステータス画面を表示してみる。
するとボクのステータスと全く同じ画面が表示され、彼女の保有スキルを含めた全てのステータスを確認することができた。
(というか、なんで紫藤さんのステータスではボクの名前の横に星印が付いてるんだろ? ボクが紫藤さんを使役したから? そうなると、ボクが紫藤さんのステータスを見れるのもボクがマスターになったからで、紫藤さん側からはボクのステータスは見れないって可能性もあるのかぁ。それに、なんとなく予想できたけど紫藤さんも【勇者】かぁ……。やっぱりこれってクラス全員が【勇者】か【魔王】のどちらかのスキルを所持してて、それぞれのチームで生き残りをかけて戦うってパターンだったんじゃ……いや、それだと【勇者】のスキルを持ってる紫藤さんを眷属にできるのはおかしいのかな?)
そんなことを考えていると紫藤さんが頭を抱えてその場に蹲ってしまったので、もはや考えるのが面倒くさくなっていたボクは食べ掛けだったポテトの容器を手に取り、「とりあえず、お腹が減っていては考えもまとまらない…ですし、先に食事を済ませてしまいません、か? 今はあれこれ考えても結論は出ないでしょうし、いったん落ち着いてから、情報を共有して、二人で一緒に考えませんか?」と声を掛ける。
すると紫藤さんは、驚いた表情を浮かべながらこちらに視線を向けて固まってしまう。
(ちょっと無理やり過ぎたかなぁ……。こんな時、なんて声を掛けたらいいか分かんないし、適当に最近読んだマンガで似たようなシチュエーションのセリフでも言ってみる?)
そう考えたボクは、ここ最近読んだ無人島サバイバル系のマンガで物語開始直後、今いる島が無人島だと気付いてパニックを起こしたヒロインに主人公が告げたセリフを漠然と思い出しながら口にしてみる。
「絶望し、足を止めたところで動き出した運命は止まらない…です。だから、この状況を少しでも良い方向に持って行くには、ボク達が力を合わせてできることをやっていくしかない、です」
マンガのセリフではもっと力強い言い方だったし、何ならこの後に『お前のことはこの先何があろうと、絶対に俺が一生守ってみせるから!』的なセリフが続き、それを聞いたヒロインが『もお、何なの? こんな状態でプロポーズ?』といった感じの軽口を涙混じりの笑顔を浮かべながら返すというやり取りもあるのだが、今日初めてまともな会話を交わした相手、しかも同性のクラスメイトにそんなセリフを告げても仕方ないので当然ながら口にすることは無かった。
そして、物語の主人公を務めるほどの人物が発したセリフだけあってボクが引用してもそれなりの効果があったのか、紫藤さんは一瞬キョトンとした表情を浮かべた後に少しだけ表情を和らげ、「確かに。それもそうね」と返事を返すと先ほど食べ掛けだったハンバーガーを手に取り、再び口に運ぶのだった。
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