Episode3 情報と方針②
(そう言えば、ステータスにMPの項目はあったけどHPとか表記がなかったような? と言うことは、もしかしてゲームみたいに可視化された体力が設定されてるタイプじゃなくて防御力や魔防力を超えた攻撃を受けると傷を負うからどれだけ耐えられるかは自分の気合次第、ってことなんかなぁ)
だとすると、痛いのとか苦しいのとか得意じゃない(得意な方が少数派だろうが)ボクは少しのダメージでも動けなくなってどれだけ恵まれたステータスがあろうとあっという間にやられてしまう自信がある。
そうなると、今回のスキル習得とレベルアップで十分なMPを確保できたのならば今後は攻撃を受けないように素早さを重点的に上げる方針を取っても良いのかも知れない。
(それに、レベルを上げるには絶対モンスターや盗賊なんかの悪人を倒さんとダメとは思うけど、その時って絶対命を奪わないと経験値を貰えん感じとかな? 最悪モンスターなんかは割り切ってどうにかなるかも知れんけど、人相手に覚悟を決められるかと言われると難しい気がするなぁ……)
そんなことを考えていると、毎度おなじみ謎の声が脳裏に響く。
『戦闘と経験値についてのヘルプを参照します』
もはや二度目ともなると慣れたもので、ボクは流れ込む知識から今後の方針を決定するために要点をまとめていく。
(要するに、この世界ではMPがHPの役割を兼任するって考えで良さそうね。常に肉体は魔力に覆われて守られている状態で、相手の攻撃を受ければそのダメージに応じてMPが減少することで肉体へのダメージを最小限に抑え、MPが尽きた状態で攻撃を受ければ一切の減衰なしにダメージを受けるから運が良ければ致命傷を避けられるけど、基本的に魔力によって強化された攻撃を生身で受ければほとんど即死、って感じかぁ。それに、魔力による防御が発生するのは戦闘態勢に入って魔力が活性化しているときだけだから、もし魔力が活性化状態になってない時に不意打ちを受ければ一撃でやられちゃう場合もある、って事みたいね。それと、基本的に経験値は戦闘によって削ったMPの残滓を戦闘終了後に吸収することで得るみたいだから、相手が逃走したことによって戦闘が終了したとしても終了時にそれまで削ったMPに応じて経験値が入るから無理して止めを刺す必要はない、ってことみたいね。因みに、暗殺なんかで一切MPを削らず勝利すると一切経験値が入らんみたいだし、気付かれんように魔物に近づいて倒して回るって戦法でドロップアイテムを集めることはできても経験値を稼ぐのは無理、ってことかぁ)
そこまで思考を進めたところで、ふとボクはステータスを確認した時に気になったもう一つの事項について思考を向ける。
(そう言えば、殲滅の大鎌『タナトス』とかいう武器を装備してる扱いになっとったけど、その武器はどこにあるんだろ? ……念じたら出てくるのかと思ったけど何の反応も無いし、それも謎の声が教えてくれるのかな?)
そう思考を向けてみたものの、一向に謎の声が響いて来ることは無かった。
(と言うことは、ボクが気付いて無いだけで見える場所に既に武器が存在する、って可能性が高いのかな? 物を収納できるスペースなんてスカートのポケットくらいだけど……スマホや財布がなくなってるのに気付いた時に何も入ってないのを確認しとるし、そもそも大鎌ってくらいだからそこまでコンパクトに収納はされてないか。まあ、魔法がある世界で大きさや形状なんてどうにでもなるとだろうけど)
その時、『形状など魔法でどうとでもなるんじゃないか』という発想から、『実は武器と認識できない形状で身に着けているんじゃないか』と気付いたボクは改めて自身の身体に目を向ける。
そして、今更ながら右腕に見覚えの無いブレスレットを着けている事に気付いた。
(うん、多分これだ! ……でもこれ、どうやって武器の状態に変形させるんだろ?)
どこかにボタンでも付いてないかと様々な角度から腕輪を確認してみるが、ボタンどころか繋ぎ目すら見つからないのでそもそもどうやってこれをボクの右腕に装着させたのかさえ分からない。
(こう言う場合って基本武器の名前を叫んで取り出すとかなんだろうけど……いちいち戦闘の度に呼ぶとは面倒だし恥ずかしいなぁ。あと定番のパターンと言ったら魔力を込めるとかだけど……そもそも、魔法とかもステータス画面で出て来ないしどうやって【
そんな疑問を頭に思い浮かべると、今度は該当する項目があったのか謎の声が頭に響く。
『MPと魔法についてヘルプを参照します』
(……思い浮かべたイメージを魔力で再現可能なら魔法が発動する、って単純な仕組みみたいね。そんで、魔力の属性変化が本来面倒くさい感じだけど、(効果及び技能習得系)で各属性に対応する【賢者】スキルを習得してるとスキルが自動で魔力の属性変化をやってくれる、と。あとは音声入力、つまり詠唱を利用すると対応する魔法を使えるけど、当然ながら事前に対応する詠唱の文言を暗記する必要があるし複雑な魔法ほど詠唱が長くなってMP消費も多くなり、当たり前だけどMPが不足してると魔法は発動しないけど準備段階でその工程までのMPは消費されるから注意が必要、と。……ボクが今習得しているスキルに【極光の賢者】と【漆黒の賢者】ってのがあるから、光と闇に関しては簡単に魔法が使えるって事みたいだし試しに一度使ってみようかな)
そう考えたボクは試しに右手を前に突き出し少して離れた位置にあった木に向けると、頭の中で薄い光の刃が飛んでいくようなイメージと闇を凝縮した漆黒の弾丸が飛んで行くイメージを浮かべる。
すると、そのイメージに呼応するように体の奥から暖かい何かがあふれて右手から噴き出す感覚を覚え、それと同時に10ほどのMPを消費して光の刃と闇の弾丸が右手から打ち出される。
そして、光の刃によってまるでバターを切るかのようにあっさりと両断された樹木は闇の弾丸によって粉々に打ち砕かれて地面へと落下したのだった。
(結構MPを消費するみたいだし、MPがHPを兼任していることを考えるとそう頻繁に魔法は使わない方が良いかと思ったけど……この程度の消費でこれだけの威力が出るとならある程度の相手には魔法で戦っても良さそうね。それに、さっきの内側からあふれる力が魔力ってことなら、これをブレスレットに向ければ……)
そうしてボクは体の奥からあふれる力を右手のブレスレットに集めるイメージを向けると、案の定ブレスレットは眩い輝きを放ちながらボクの腕を離れ、代わりにボクの右手に全長がボクの身長と変わらないほどの大きさをした巨大な鎌へと姿を変えた。
(やっぱりこれが殲滅の大鎌『タナトス』だったんだ。……不思議とこれを使った戦い方がわかるし、そこらへんも新設設計になっとるみたいね。それに、元の戻し方も—―)
ボクは大鎌に内包された魔力を自分の中に戻すイメージを重ね、再び殲滅の大鎌『タナトス』を元のブレスレット状態に戻した。
(とりあえずこれで武器と魔法については分かったかな。あとは、ここら辺の敵が1レベルのボクでどうにかできる強さか、ってとこだけど……こればっかりは実際にやってみらんと分からんよね。まあ、流石にここまで新設設計の異世界でいきなり適正レベル以上のフィールドに投げ出されてるってことはないと思うけど、案外少し入り込んだ場所に極端に強い敵が出てくる場所がある、ってパターンは十分考えられるから最初の戦闘は相手を見て慎重にいかんとね!)
そう判断を下した後ボクは今迄座っていた祭壇から腰を上げ、とりあえず目の前に見えている獣道に沿って森の中へと足を踏み入れるのだった。
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