Episode4 基本はスライムかゴブリンだよね

 獣道をしばらく進むと、やがて背が高い草木が生い茂る場所に出たことでボクは獣道がどう続いているのか分からなくなり、ひとまず勘を頼りに適当に道なき道を進んで行くことにする。

 そして30分ほど歩いたところでそれなりに開けた場所に出たボクは、本格的にどこへ向かえばいいのか分からなくなって呆然とその場に立ち尽くする。


(と言うか、普通こういう時ってスライムとかゴブリンとか序盤でお馴染みの敵が出てきて異世界の戦いを実感する、って流れじゃないの!? どうしてさっきから歩けども歩けどもあんまり変わらない景色が続くだけで一向に魔物とエンカウントする気配がないの!?)


 確かに、ボクが住んでいた田舎でも山の中を歩いているからと言ってそう簡単に野生動物に遭遇するわけでもなかったのでこれが普通なのかもしれない。

 だが、ここが本当にゲームのような世界なのならそんな部分だけリアリティを持たせなくても良い気がするが。


(移動している間はほとんどMPが回復してないけど、これだけ歩いてても全然疲れてないからやっぱり魔力で身体能力は大幅に強化されとるんだなぁ。と言うか、やっぱり制服とローファーで森の中は歩きにくいから、スニーカーとかあると良いんだけど……そう言った装備が買えそうな街なんて全然見えてくる気配がないし、たとえ見つけたとしてもこの世界のお金なんてもってなかし、最悪言葉も通じるか怪しいとよねぇ)


 いったん近くに倒れていた木をイス代わりにして休憩を取りながら、ボクはぼんやりとこの世界のことに意識を向ける。

 そもそも、この世界の技術水準が分からないのでよくある中世風ファンタジーなのかSFっぽい世界観なのかで今後の対応がだいぶ変わってくる気がする。

 たぶん装備として大鎌なんて支給されているので剣と魔法のファンタジー路線だとは思うのだが、もしそこら辺で出てくる山賊が空中を浮遊するバイクを乗り回しながらライトセイバーを振り回してビームガンをぶっ放してくるような世界観であった場合、謎の知識で扱えるとは言っても近接戦や中距離戦が主体となる大鎌で対処できる気がしない。

 それに、思ったよりMPの回復も遅いのでそう気安く魔法の練習もできないため、魔術による遠距離戦もある程度場数を熟すまでは当てにできないと思った方が良いだろう。


(そう言えば、最初に目を覚ました祭壇以外で人工物って見ないよね。なんであの祭壇はあんな場所にあったとだろ? もしかして、あの周りを調べてたらもっといろいろ分かったとかかなぁ。でも、今更戻るのも……と言うか、どう進んできたのか覚えてないから戻れる気がせんなぁ)


 そんなことを考えながら視線を空に彷徨わせ、最初に見た時よりも若干太陽が低い位置に移動している気がするので今は昼過ぎぐらいの時間なんだろうと予想を付ける。

 そして、そんな時間だと認識すると途端に空腹を覚えた気がしてボクは思わずため息と同時に愚痴を漏らす。


「はぁ~。本当だったら今頃、昼の弁当を食べてレクリエーションやって、夜のカレーを作るための準備をしとったはずなのに……。カレー、食べたいなぁ」


 そんなボクの嘆きに答えるように、突如【天地創造ジ・クリエイション】の発動する気配と必要な情報がボクの脳裏に浮かび上がる。


・カレー(具無し・ルーのみ) 消費MP50~

・カレーライス(具無し) 消費MP100~

・ポークカレー 消費MP140~

※その他多数のラインナップが名を連ね、食材が豪華になるほど消費MPが大きくなり、同じメニューでも消費MPを増やせば美味しくなる仕組みのようだった。



「……………え?」


 予想外の展開に一瞬思考が止まり、ボクは頭に浮かぶ数々のメニューが何を意味するのかすぐには理解できなかった。

 だが—―


「食材を確保する必要なんてないじゃん!!」


 やがて現実を受け止めたボクは、柄にもなく思わず大きな声で一人誰にともなくツッコミを入れる。


「え? ええ?? ちょっと待って! ちょっと待って!! もしかして……和食!」


 ボクの声に反応するようにたくあんから懐石料理のコースまで様々な和食のメニューが脳裏に浮かぶ。


「中華!」


 中華スープからツバメの巣を使った —以下略―


「洋食!」


 ハンバーガー ―以下略—


「これ、鑑定用のアイテム作る必要ないじゃん!!?」


 驚愕の事実にボクは思わず声を荒げながら、『だったら、もしかして装備とかもこれで作れたり……』と言う発想を検証してみると、ほとんど魔力が足りずに生成不可能だが問題なく【天地創造ジ・クリエイション】で生成可能であることを確認する。


(ちょっと待って。これ、【勇者】とか【魔王】とかのスキルに目が行って便利な生産職系のスキル程度でしか認識してなかったけど、真のチートスキル、と言うか壊れスキルはこっちの方だった、ってこと!? と言うか、ここまで来ると逆に何ができないの??)


 その疑問を解消すべく、ボクは次から次へとあらゆる可能性を検証していく。

 その結果、ボクが得た結論は『【天地創造ジ・クリエイション】に生成できない物はほとんど存在しないのではないか』というものだった。

 基本的に『天地創造』なんて大層な字を使っていても本当に天地を創造するなんて不可能だと決めつけていたのだが、ゼロがいくつ付いているのかも分からないほどの膨大なMPを使えば一応作れるみたいだし、何だったら同じように途方もないMPを消費して元の世界に戻るゲートや乗り物だって作成可能だった。

 それに、いろいろと試しているうちに選択肢として提示されるアイテム以外にも自分が望む効果を持ったアイテムを新たに作り出せることに気付き、SPや補正値を増加させるアイテムは作れないなどの一定のルールはあるものの基礎値を上げるアイテムは生成可能(1万くらいMPが必要だが)なのである程度レベルが上がればどこかに引きこもってひたすら基礎値を上げるアイテムを作り続けるのも一つの手かもしれないと思い至る。

 さらに、魔物や人間などの生命すら作り出すことが可能だと判明したが、最も消費MPが低いスライムを作り出すのにも7桁のMPが必要なのでわざわざ使うことは無いだろう。

 あと一応一時的にMPを増やしたり回復させる、もしくは回復を早める効果を持ったアイテムも作れるようなのだが、消費MPがかなり多いのでひたすら回復と生成を繰り返すと言った手段は取れそうもなく、そんな無駄なことをするくらいだったら魔力回復量を増やす、または回復速度を上げる装備を作って身に着ける方が効率が良さそうだった。


(……………とりあえず、カレー食べよ)


 もはや考えるのが面倒くさくなってきたボクは思考を放棄すると、MPを300ほど消費してカレーとサラダ、それにウーロン茶を作り出し(それぞれ弁当屋でよく見るプラスチックの容器に入っていた)、ちょっと遅めの昼食を取ることにする。

 それからドレッシングは追加のMP消費を要求してきたのでカレーのルーをドレッシング代わりに思いの外鮮度の良い野菜をさすがにサービスで付いてきた割りばしで食べながら、思いの外おいしいカレーの味に驚きつつも黙々と遅めの昼食を進めていく。

 そして、半分ほど食べ終えた時点でそれは突然現れた。


「オンナ! メシ! ウバウ!」


「ニオイ! ウマソウ!」


 そんな片言の日本語で会話を交わしながら現れたのは、序盤の雑魚敵としてお馴染みの緑色の肌をした醜い顔の小鬼、ゴブリンだった。

 ただ、よく見るこん棒にボロ布を腰に巻いただけと言う貧相な装備でなく、駆け出し冒険者などが装備していそうな布の鎧に短剣を装備しているので相応にレベルが高い個体なのかもしれない。


(えっ!? もしかして、カレーの臭いに釣られて来ちゃった感じ!? ど、どぎゃんしよう! まだ食べ終わってない!!)


 思わずそう焦りを覚えたボクは、左手に持ったカレーの容器(サラダの容器は腰掛けている倒木に置いていた)を守るように右手を突き出す。

 そして、逃げる準備として軽く腰を浮かしながら後先考えずに残っていたMP全てをつぎ込んでありったけの光と闇の魔力弾(合計で20個くらい?)を2匹のゴブリンに打ち込む。

 すると、短剣を構えてこちらに駆け寄ろうとしていた2匹にそれぞれ2発ずつほど魔力弾がヒットし、思い他威力が強すぎたのかゴブリンの体は跡形もなく消し飛んでしまった。


「……………もしかして、思ったより魔法って威力が高い?」


 そんな呟きを漏らした直後、突然頭の中に『経験値を520獲得しました。レベルが6に上がりました』と言うアナウンスが響くと同時に視界の端に見えていたMPゲージの最大値が2,873まで跳ね上がるのを確認するのだった。

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よくある異世界チートのような 赤葉響谷 @KyouyaAkaba

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