第6話:変わりゆく絆

美咲にすべてを打ち明けたその夜、僕の中で重い感情が渦巻いていた。彼女は驚き、混乱しながらも、僕の言葉を信じようとしてくれた。それでも、彼女が感じている不安や迷いは手に取るように分かった。彼女がこの真実をどう受け止めてくれるのか、僕たちの関係が今後どう変わっていくのか、それはまだ誰にも分からない。


夜が明けても、胸の中に残るその不安感は消えることはなかった。いつものように朝が来て、いつものように仕事に向かう日常が続いていたが、その裏側には、僕たちの関係が大きく変わり始めたという確信があった。


美咲との連絡はしばらくの間、少しぎこちないものとなっていた。彼女は自分の気持ちを整理しているのだろう。僕もまた、彼女の反応にどう向き合えばいいのか迷っていた。僕たちは真実を共有したが、その後の未来がどのように進んでいくのか、まだ手探りの状態だった。


数日が経ったある日、僕は美咲からメッセージを受け取った。


「今日は会えるかな?少し話したいことがあるの。」


その言葉に、胸が高鳴った。彼女が再び僕と向き合ってくれる気持ちになったのかもしれない。それとも、何か別の話をしたいのだろうか。僕はすぐに返事をして、彼女と会う時間を約束した。


待ち合わせの場所は、いつも通りのカフェではなく、彼女の希望で公園だった。自然の中でゆっくりと話したいという彼女の意向に、僕は静かにうなずいた。僕たちは静かな時間を過ごすことで、心の整理をつけていくことができるかもしれない。


公園に到着すると、美咲はすでにベンチに座って僕を待っていた。彼女は少し遠くを見つめていて、その横顔は穏やかでありながらも、どこか複雑な感情が隠されているようだった。


「お待たせ。」


僕がそう声をかけると、美咲は微笑んで僕の方を見た。その笑顔は以前と同じように優しかったが、何かが変わっているのを感じた。


「優斗さん、ありがとう。来てくれて。」


彼女の声は静かで、落ち着いていた。僕は隣に座り、彼女の話を聞く準備を整えた。


「この前の話……過去のこと、運命を変えたっていう話、信じられない気持ちがまだあるの。でも、優斗さんが嘘をついているとは思えない。だから、これからどうやって向き合っていくか考えていたの。」


彼女の言葉に、僕は深くうなずいた。彼女が真実を受け入れるために時間を必要としていることは分かっていた。それでも、僕が最も恐れていたのは、彼女が僕を拒絶することだった。


「美咲……君に全部話して、正直ホッとしてるんだ。ずっと君に嘘をついているようで辛かったから。でも、君がどう思っているのか、僕も不安だった。」


僕は彼女に向かって素直に気持ちを伝えた。すると、美咲は少し笑顔を浮かべ、僕を見つめ返した。


「私も、実はずっと不安だったの。優斗さんが私に対して何か大きな秘密を持っているんじゃないかって感じていたから。でも、今は少しだけ安心してる。だって、優斗さんが私のために過去を変えてくれたって知ったから。」


彼女のその言葉に、胸の奥で何かが解けるような感覚が広がった。美咲が僕を信じてくれた。それが僕にとって何よりも大きな救いだった。


「ありがとう、美咲……君が僕を信じてくれて、本当に感謝してる。」


僕は彼女の手をそっと取った。彼女はその手を握り返し、少しだけ微笑んだ。


「でもね、優斗さん。まだ私には一つだけ不安なことがあるの。」


彼女が真剣な表情を浮かべた瞬間、僕の胸がまた少しだけ重くなった。彼女の不安を取り除くために、僕はすべてを話したつもりだった。それでも、まだ何かが残っているのだろうか。


「何だろう?話してくれていいんだよ。」


僕はできるだけ優しく、彼女に寄り添う気持ちで問いかけた。美咲は少し考え込むようにしてから、ゆっくりと話し始めた。


「もし、また何かが起こって、優斗さんが過去を変えようとしたら……私は今度こそ、あなたを失うんじゃないかって怖いの。」


その言葉に、僕の心臓は大きく跳ねた。彼女の不安は、僕が過去に戻ることによって再び何かが変わってしまうことだった。彼女が感じている恐怖は、僕が今後どうするかにかかっている。


「美咲、約束する。もう二度と過去を変えることはしない。君との今を大切にする。それが僕にとって一番大事なことだから。」


僕は真剣な表情で彼女に言い切った。彼女の不安を取り除くために、僕は過去に戻ることを選ばないと誓った。過去を変えることで失ったものの大きさを、僕はもう十分に理解していた。


「ありがとう……」


美咲はそう言って、僕に微笑んだ。その笑顔には、まだ少しの迷いが残っているかもしれないが、それでも僕たちはお互いに信じ合っている。僕たちの関係は確かに変わった。だが、それは決して悪い方向に進んだわけではない。僕たちは今、真実を共有しながら、再び未来を見つめ直すことができる。


その後も、僕たちは何度も会い、時間を共に過ごした。美咲との関係は、少しずつ以前のような親しみを取り戻しながらも、どこか新しい絆が生まれつつあった。彼女との会話は、より深く、より率直なものになっていった。


一方で、僕の心の奥底には、今度は美咲を守るために何ができるかという新たな決意が生まれていた。過去に戻ることを選ばないと決めた以上、僕は今を生き、彼女との未来を自分の力で守り抜く覚悟を持たなければならない。


そんなある日、僕は再び神崎からメッセージを受け取った。それは、再び僕の運命に介入しようとするものだった。


「過去を変えないと誓ったようだな。それで本当に君は幸せになれるのか?」


神崎のメッセージは、僕の胸に新たな不安を呼び起こした。彼が何を意図しているのかはわからない。だが、彼の言葉はまるで僕に別の選択肢があるかのように感じさせるものだった。


僕はそのメッセージを無視することに決めた。もう二度と、彼に惑わされることはない。僕は自分の意思で美咲との未来を守り抜くのだ。過去を変えないことで、どんな困難が待ち受けていようとも、僕はその運命に向き合っていくしかない。


しかし、僕の決意とは裏腹に、数日後、運命の輪は再び僕たちを試すような出来事を引き起こした。


その日は普通の平日だった。仕事を終えて家に帰ろうとしていたとき、突然携帯が鳴った。美咲からの電話だった。だが、電話に出た瞬間、彼女の声は恐怖に震えていた。


「優斗さん……助けて……」


その一言を聞いた瞬間、僕の心は凍りついた。何が起こったのか、すぐには理解できなかった。だが、彼女が危険な状況に陥っていることは明らかだった。


「美咲、今どこにいるんだ?すぐに行くから、場所を教えて!」


僕は焦りながら彼女に問いかけた。美咲は震える声で、なんとか自分がいる場所を伝えてくれた。それは、いつも僕たちが会っているカフェの近くだった。


すぐに車を飛ばし、彼女の元へと急いだ。胸の中には、焦りと不安が渦巻いていた。何が起こっているのか、考える余裕もなかった。ただ彼女を守りたい一心で、僕はアクセルを踏み込んだ。


カフェの近くに到着すると、美咲は路地の角に倒れ込むようにして座り込んでいた。彼女の顔には明らかな恐怖が浮かんでいた。僕は急いで車を降り、彼女に駆け寄った。


「美咲、大丈夫か!?何があったんだ!」


僕は彼女を抱きしめながら、必死に問いかけた。美咲は震えた声で答えた。


「誰かに追いかけられて……怖くて……」


彼女は恐怖に震えていた。その瞬間、僕は再び運命が僕たちを試しているのだと感じた。過去を変えることを選ばずに生きることが、どれほど困難なものかを痛感させられた。


「もう大丈夫だ、僕がいるから。」


僕は彼女をしっかりと抱きしめ、そう言い聞かせた。だが、心の中では再び神崎の言葉が浮かんでいた。


「過去を変えないと誓ったようだな。それで本当に君は幸せになれるのか?」


運命は再び僕たちを試しているのかもしれない。だが、僕はこの道を選んだ以上、すべてを受け入れ、乗り越えていかなければならない。それが、僕の選んだ未来だ。

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