第5話:告白の瞬間
美咲に「話がある」とメッセージを送った後、僕の心は静かに波立っていた。ついに、すべてを彼女に打ち明ける時が来たのだ。この瞬間を避けようとしていたわけではないが、怖れていたことも確かだ。美咲に真実を告げたら、僕たちの関係はどうなるのか。彼女は僕を理解してくれるだろうか。それとも、拒絶されてしまうのだろうか。
自分がどれだけ彼女に依存していたのか、改めて自覚した。僕にとって、彼女との未来がすべてだった。そして、その未来を守るために、過去を変えることを選び、彼女を失う道を一度選んだ。その罪を背負いながら、彼女との再会がどれほど奇跡的だったかを今痛感している。
美咲に会う約束の時間が近づくにつれ、心の中に沸き上がる感情は、緊張と不安の入り混じったものだった。僕がこれからすべきことは、彼女にとって信じがたい話だ。それでも、すべてを話さなければ、彼女との未来を守ることはできない。神崎の言葉が、今でも頭の中で響いている。
「真実を告げなければ、君たちは再び引き離される。」
この選択が、僕たちの運命を決定づけるのだ。
美咲との約束の場所は、いつものカフェだった。僕たちが何度も訪れ、運命的な再会を果たした場所。あの日のことを思い出しながら、僕は席に座って彼女を待った。心の中は波立っているのに、外見はできるだけ落ち着いて見せようとした。
美咲がカフェの扉を開けて入ってきた時、僕の胸の中がまた激しく高鳴った。彼女はいつもと変わらない笑顔を浮かべ、僕に向かって手を振った。だが、その笑顔が今日はどこかかすかに不安げに見えた。彼女も何かを感じ取っているのだろうか。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
そう言って美咲が席に着いた時、僕は彼女に向かって微笑もうとしたが、うまくいかなかった。彼女も僕の表情の変化に気づいたようで、少しだけ眉をひそめた。
「優斗さん……今日は何か、いつもと違う気がする。」
彼女の言葉に、僕は静かにうなずいた。そうだ、今日は違う。僕たちの未来を決定づける日だ。そして、僕はもう後戻りすることができない。
「美咲、今日は大事な話があるんだ。」
僕は慎重に言葉を選びながら話し始めた。彼女は僕の顔を見つめ、次に来る言葉を待っている。心臓の鼓動が早まるのを感じながら、僕は息を吸い込んで続けた。
「僕たちは再び出会ったけど、それは偶然じゃない。実は、君との関係には……過去があるんだ。君が覚えていない過去が。」
その言葉を聞いた瞬間、美咲の表情が一瞬硬直した。彼女は黙ったまま僕の言葉を待っている。僕はその瞳に見つめられながら、続きを話さなければならないことを感じた。
「君は覚えていないかもしれないけど、僕たちは以前に出会っていた。僕たちは、過去に一緒に時間を過ごして、深い関係を築いていたんだ。」
美咲は驚きの表情を浮かべたまま、言葉を発することができないでいる。彼女は僕が何を言っているのか理解しようと必死に頭の中で整理しているのだろう。
「でも、僕は……過去を変えたんだ。ある出来事が起きて、僕は君との関係を失う代わりに、別の選択をしたんだ。そして、その結果、君は僕との過去をすべて忘れてしまった。」
自分の言葉が彼女にどれほど衝撃を与えているのか、僕にもわかっていた。彼女の顔からは、信じられないという表情が浮かんでいる。彼女はカップを握る手を少し震わせながら、僕の話をじっと聞いていた。
「そんなこと……あり得るの?過去を変えるなんて……どうやって?」
彼女の声は震えていた。僕は彼女の質問に答えるべきか迷ったが、すべてを話すと決めた以上、隠すわけにはいかない。
「神崎という男がいて、彼から過去を変える力を与えられたんだ。家族を救うために、僕はその力を使って過去を変えた。その結果、君との出会いも消えたんだ。」
彼女の表情はますます困惑し、信じられないという様子だった。そんな彼女の気持ちは痛いほどわかる。僕自身も、こんな話をされれば簡単には信じられないだろう。
「でも、どうしてそんなことを……どうして私との関係を捨ててまで、過去を変えたの?」
彼女の問いは、僕の心に深く刺さった。僕は彼女との未来を守るために過去を変えたはずだったが、その選択がどれほど大きな代償を伴うものであったか、今になって改めて痛感していた。
「家族を守るためだったんだ……あの時、君を失うことが僕にとっては辛すぎたけど、それしか方法がなかった。でも、最終的には君との関係を取り戻そうと何度も過去を変えたんだ。」
美咲は黙ったまま僕の話を聞いていた。彼女がどれほどの混乱を感じているか、僕にも手に取るように分かる。こんな話を受け入れられるはずがない。でも、僕は彼女に真実を話さなければならなかった。
「最終的に、僕たちは再び出会ったんだ。でも、その結果、君は僕との過去を覚えていない。すべてが新しいスタートだったんだ。」
僕の言葉が終わると、カフェの中は静寂に包まれた。美咲はカップを握りしめたまま、視線をテーブルの上に落としている。彼女の目には涙が浮かんでいるのが見えた。その涙が、僕の心を締め付けた。
「……信じられない……でも、なぜか、あなたの言葉に嘘は感じない。」
彼女の声は震えていたが、静かに話していた。彼女の中で何かが揺れ動いているのだろう。真実を告げたことで、彼女がどう感じているのかはわからない。だが、僕は彼女を失いたくない一心で、ただ静かに彼女の反応を待った。
しばらくの沈黙が続いた後、美咲はようやく口を開いた。
「優斗さん……あなたが私を守ろうとして、過去を変えたことは理解できた。でも、今の私たちの関係がどうなるのか……それがすごく怖いの。」
その言葉に、僕は思わず手を握りしめた。彼女を傷つけたくない。彼女との未来を守りたい。それなのに、僕の選択が彼女を不安にさせている。
「僕も怖いんだ、でも、もう君に嘘をつきたくなかったんだ。すべてを話して、君と一緒に未来を歩んでいきたかった。」
美咲は僕の言葉を静かに聞いていた。彼女の中で葛藤しているのは明らかだったが、僕は彼女の目を見つめながら、次の言葉を待った。
「……もう一度、信じてみてもいいのかな。優斗さんのこと……そして、私たちの未来を。」
彼女のその言葉を聞いた瞬間、僕の胸の奥で何かがはじけるような感覚が広がった。彼女はまだ僕を信じてくれている。彼女が僕と共に未来を歩んでくれると言ってくれたのだ。
「ありがとう、美咲……僕は絶対に君を失わないようにするよ。今度こそ、すべてを守ってみせる。」
僕は彼女の手を取り、強く握りしめた。美咲は少しだけ微笑んでくれたが、その笑顔にはまだ迷いが残っているように見えた。それでも、彼女が僕を信じてくれたことに感謝している。
その夜、僕は家に帰ってからも、美咲との会話の余韻が心の中に残っていた。真実を話したことで、僕たちの関係は確実に変わった。これから先、どう進むのかはまだ分からない。だが、僕は彼女との未来を大切にしたいという強い気持ちがあった。
これから僕たちがどんな試練に直面するのかは分からないが、僕はもう後戻りするつもりはなかった。彼女との関係を守り、未来を一緒に切り開いていく。それが、僕の選んだ道なのだ。
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