第三十二話「それぞれの決意」

「そうですか……ゆきちゃんも……そう考えてるんですね……」


「てことは、ころねっちも?」


「はい……。振られることは分かりきってるますが、なんだか……今を逃したら二度と春太郎さんに告白することができないような気がして……。だから私は明日、この十年間秘めていた想いを、春太郎さんに告げるつもりです」


「ころねっち……応援するよっ」


「私もですっ」


 二人は互いに覚悟の決まった瞳を見つめ合った。


「できれば二人の恋が実るように」


「ですですっ!」


「ころねっちはどんなチョコを作ろうと思ってるの?」


「定番ですが、ピンク色のハート型のチョコを作ろうと思っているです」


 そう言ってころねはいちご味のピンク色のチョコレートと、ハートの型を取り出した。


「うん、ストレートで、ころねっちらしくていいと思う」


「ホントですか?」


「うん、ホント」


「ゆきちゃんはどうするんです?」


「……私は、自分の名前にちなんで、雪の結晶を模して作ろうと思ってたんだ。そのために、こうして型も買ったんだ」


 ゆきは雪の結晶の型を取り出してころねに見せた。


「わぁっすごいですっ」


「これにホワイトチョコを溶かして作ろうと思うんだ」


「すごくいいと思いますっ」


「そ、そうかな?」


「はいっ」


「で……でもさ……」


 いいアイデアだと思うころねに、当の本人であるゆきは急にもじもじとしだす。


「そ……その……変な意味に取られないかな……?」


 ゆきの思いがけない言葉にころねが眉をひそめる。


「どっ、どういうことですか?」


「う……うん……」


 もじもじしながら、なにやら言いにくいように頬を少し赤らめながらゆき。


「そ、その……ゆきが、雪を模したチョコを渡すんだよ? そ、その……私を食べて。み、みたいなこと思われないかなって……」


 その言葉にソレを想像したころねは一瞬で顔がボッと赤くなった。


「なっなな、なに言ってるですかっゆきちゃんっ?! そっ、そんなの、おっ、おじさんの考えですっ! セ、セクハラですよっ?!」


「しっ、仕方ないだろう?! そう思っちゃったんだからっ! だって告白に成功したらどっちみちそうなるってことじゃない?!」


「ななっ、なんてこと言うんですか?! はっ破廉恥ですっ!!」


 初心な二人は顔を真っ赤にしてわちゃわちゃとしあった。


「と、とにかく、チョコを作りましょうっ」

「そ、そうだね……」


 二人は互いに想いを込めてチョコレートを作り始めた。



 同時刻・桜司家――



 桜司家では、ゆのはと五月の姿があった。


「ゆのははどんなチョコを作るつもりなんだ?」


「私はね、桜の花びらの形のチョコを作ろうと思ってるんだ」


 そう言ってゆのはがピンク色のチョコレートと、型を台の上に置いた。


「五月ちゃんは?」


「私はもちろん、この気持ちと情熱がドストレートで伝われように、真っ赤なハート型のチョコを作るつもりだ!」


 そう言って五月は真っ赤なチョコレートを台の上に置いた。


「ふふっ、真っ直ぐな五月ちゃんらしいね」


「だろう? 私はいつでもまっすぐだ」


「もう何回も振られてるのに、春太郎くんを諦められないの?」


 それは嫌味ではなく、ゆのはなりの気遣いだった。表面上はなんともないように振舞ってはいるが、五月は振られる毎に傷つき、人知れず涙を流していた。


 ゆのははそんな五月の傷つく姿を見るのが忍びなかった。そして、春太郎を幼い頃から知り、その人となりや性格を知っているゆのはは、五月の恋が絶対に実らないことも理解していたからだ。


「もちろんだ! 春太郎くんに恋人ができれば私はスッパリと諦めるが、そうじゃないのなら決して諦めない! 一念岩をも通す! それが私だ!」


 力強い言葉にゆのはは関心した。親友である五月は強く、根気があり、それでいて潔い人間であると。


「すごいね五月ちゃん……私は、そんなにキッパリ割り切れないかも……」


 もし誠が自分ではなく、春児やゆきを選んだとき、自分は五月のように振舞えるだろうか? ゆのははその自信がなかった。


「なに、ゆのはは好意的に解釈してくれているが、実質ただのストーカーのようなものだ! だからゆのはの想いと私の想いを同列に考えるな!」


「五月ちゃん……」


 五月の言葉にゆのはは心打たれるような心地であった。振られても諦めない五月と、告白すらしていないのに尻込みしている自分を恥じ入るように。


「とにかく、喋っていても始まらん、作ろうか!」


「ふふっ、そうだね」


 笑い合い、ゆのはと五月もチョコレートを作り始めた――

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