第十四話「アプローチは続く」
午前の授業を受け終えた昼休み――
「誠、一緒に昼を食べようじゃないか」
「お、おおう、かまわないが……」
春児様が誠にそうお声をかけると、スパーンと勢いよく教室の扉が開いた。
「誠くんお昼一緒に食べよう!」
「誠先輩、一緒にお昼を食べましょう!」
息を切らせたゆのはさんとゆきちゃんと五月さんところねちゃんが姿を現した。
「おいおいおい、誠の野郎、今朝からいったいどうなってやがんだ?!」
「準五大美人の霞さんまでいるじゃねぇか!!」
「きぃえええええええ!!」
「うるせぇえええええ!!」
教室の中が男子たちの妬みによって阿鼻叫喚の図になったので、ボクたち六人は屋上で昼食をとることになった。
並木学園の屋上は年中開放されており、そこから見える風景もよく、人工芝が植えられベンチも備えつけられた生徒たちの憩いの場の一つでもあった。
「こんなこともあろうかと、ビニールシートを持ってきたんで敷きますね」
ボクは持ってきたビニールシートを芝生の上に敷いた。
「さすが春太郎くん気が効くな。ほら朧月、お前もこういうところをしっかり見習うんだぞ」
そう言ってくれたのは五月さんだった。
ゆのはさんの親友で、三年生。
茶髪のボブカットに黒い横結いの大きなリボンと、首の黒いチョーカーがトレードマークだ。
毎年バレンタインデーにボクは五月さんに告白され、その度にお断りをしているが、五月さんは落ち込みながらも「次は絶対に振り向かせてみせる!」と、諦めることなく、いまだにボクのことを想ってくれている芯の強い人だ。
「へいへい……」
「返事ははいだっ!」
面倒くさそうに返事をした誠を五月さんが一喝する。
「はいっ!」
五月さんは誠への当たりが強い。誠がゆのはのさんの気持ちに気付いていないことへの腹立たしさのためじゃないかと思っている。
「とりあえず座りましょう」
「そうだね春太郎」
シートの上にみんなで車座に座った。
十二時の方向に誠、一時に春児様、五時にころねちゃん、六時にボク、七時に五月さん、九時にゆきちゃん、十一時にゆのはさんだ。
「くっ……またしても遅れをとってしまった……っ!」
誠の横をとれなかったゆきちゃんが悔しそうにしている。
「ほら誠、当家の料理人が腕によりをかけて作った海老の天ぷらだよ。キミの好物だろう?」
春児様が箸でお掴みになった海老天を誠に差し出された。
「えっえっ?」
「ほら、あーんだ」
「あ……あーん……?」
誠は春児様の勢いと状況に流されるように口を開き海老天を口にした。
「どうだい? 美味しいかい?」
「あ、ああ、すごく美味いよ」
「誠くん、私のからあげも食べて、からあげ好きでしょ? 私の手作りだよ……っ」
「えっあっはいっ!」
ゆのはさんにあーんされてからあげを食べる誠。
「どう……? 美味しい?」
「はっ、はいっ、とっても美味しいです」
「ふふっならよかった」
「誠先輩っ、私のちくわの磯辺揚げもどうぞっ! 作ったのは母さんですがっ!」
「もがっ?!」
ゆきちゃんは誠の口の中にちくわの磯辺揚げを突っ込んだ。
「どうです? 美味しいですか?」
「おっおいひいよっ……」
モゴモゴと口を動かしながら答える誠。
三人が火花をバチバチと散らしている光景を見ながらボクはお弁当を食べていた。
「春太郎くん、よかったら私の卵焼きも食べてくれ、今日のは自信作なんだ」
「ありがとうございます。いただきます」
五月さんの言葉にそう答えると、五月さんは自分の箸で卵焼きを掴んでボクに差し出した。
「はい、あーん」
「えっ……ちょっと、それは……」
「……春太郎くん、キミは女の子に恥をかかせる男だったのかい?」
そう言われると断るわけにはいかない。
「あーん」
卵焼きはボクの好きな甘いふわふわとした味と食感だった。
「どうだ? 美味しいかい?」
「はい、とっても美味しいです」
「春太郎さん、だったら私のからあげも食べるですっ!」
「んぐっ!?」
隙間を縫うようにころねちゃんの箸とからあげが口の中に入った。
「これはお姉ちゃんとは別の私の手作りです! どっ、どうですか?」
「うっ、うん、とっても美味しいよ」
ころねちゃんのからあげはとっても美味しかった。柔らかでジューシーで塩加減や甘味もちょうどよいい。
「ごはんが進む味だよ。毎日でも食べたいくらい」
「ッ! ならよかったです……っ!」
「むむっ! 春太郎くん、まだ私も食べてほしいおかずがあるぞっ!」
「ははは……ありがたいですけどそんなに食べられないです……」
そうして昼休みは色々ごちゃごちゃとしながら過ぎていった――
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