第十話「誓い」
「なら、二人さえ良かったら、ここに誓いを立てないかい?」
「誓い?」
「なんの誓いです?」
春児様の提案に二人が首を傾げる。
「誰が誠と付き合っても恨みっこなし。私たちは恋のライバルであると同時に、友でもあるという誓いだよ。誠がここにいる誰と付き合っても、ここにいない誰かと付き合ったとしても、その人を恨まない。心で泣いても顔で笑って祝福する。そういった誓いだ」
「うん……いいよ春児ちゃん、私も負けないからね」
「私も、裏でギスギスするより、そうしてくれたほうがよっぽど気持ちがいいです」
「では、カップを」
春児様は席をお立ちになってティーカップを掲げられ、ゆのはさんとゆきちゃんもそれに倣って立ち上がりティーカップを掲げた。
「私たち三人は、この庭に咲き誇る桜たちに、そして、桜と私たちをお守りくださっている、常春之神様に申し上げます――」
そう春児様が宣言なされ――
「私たちの誰が誠くんと恋人になっても、そして誰も選ばれず他の誰かが選ばれたとしても、恨まないことを、自分の恋が散ったときは潔く諦め、恋実った二人を祝福すること」
ゆのはさんが続け――
「謹んで誓い奉ります!」
最後にゆきちゃんが締め、三人はティーカップを軽くぶつけあってその中身を飲み干した。
「……これでいいんですか春太郎さん?」
その様子を眺めていたころねちゃんが小声でボクにそう問いかけた。
「? どういうこと?」
「春児さんが誠さんにとられてしまうことです」
「……ふふっ。ありがとうころねちゃん。ころねちゃんは優しいね。けどこれでいいんだ。だってこの話はボクから春児様に提案したことだから」
カップを置いたころねちゃんが不安そうにボクを見る。
「春太郎さん……。やっぱり……昨日から……どこか変です……」
「そんなことないよ。だって、ゆのはさんは今年で卒業しちゃうし、誠も来年は島外に行ってしまうかもしれない。そうしたら、今誰が結ばれても、一年程度しか一緒にいられないんだよ? そう思ったらボクも黙っていられなかったんだ」
「そうですか……?」
「うん。そうだよ」
そう言って笑顔を浮かべ、ころねちゃんの頭を撫でた。
「~っ。そんなんじゃ誤魔化されないですー!」
「誤魔化してないよ。心配してくれるころねちゃんの気持ちが嬉しくて」
「……ならいいですけど」
恥ずかしそうに視線を逸らすころねちゃん。
「あっ! ちょっと待ってください、春兄さんはどうするんですかっ?」
しまった! というようにゆきちゃんがボクを指差して声をあげた。
「どういうこと? ゆきちゃん?」
ころねちゃんの頭を撫でる手を止めてゆきちゃんを見ると、ゆのはさんもハッとした表情を浮かべる。
「! ゆきちゃんの言うとおりだよ! 春太郎くんは誰の応援をするのっ?」
「お二人には申し訳ありませんが、ボクは春児様を応援させていただきます」
「それはずるいですよ春児さんっ。春兄さんと誠先輩は親友同士……いや、もっと深い関係かもしれないのにっ!」
「ゆきちゃん、そんなわけないでしょ? めっ! だよ?」
「すっ、すみません春兄さん……」
「でっ、でもゆきちゃんの言うとおりだよ……! 誠くんの親友の春太郎くんがいる時点で、春児ちゃんには大きなアドバンテージが……」
「ま、春太郎は私の従者……いや、私の身体の一部のようなものだからね。二人には諦めてもらうしかないよ」
「さすがに酷いのでは?」
「それはズルいよ〜」
「なにを言うんだい? ゆのはさんは私にない包容力と優しさ、人を安心させる雰囲気があるし、ゆきは……なんだいそのけしからん体は? その顔と体で迫られて落ちない人間はそういないだろう。それに比べて私はなにもない。春太郎くらいいいじゃないか」
「そ……そんなことないよ?」
「春児さん、それセクハラですよ?」
二人の言葉を聞き流すように春児様は涼やかなお顔で紅茶を口にされると、カップを置きながら小さく肩をすくめられた。
「ま、なら、二人も春太郎を頼ればいいだろう?」
「「えっ?」」
二人は揃って驚きの声を上げ、春児様を見た。
「二人も知ってるとは思うが、春太郎はゆのはさんやゆきを姉や妹のように思っている。頼まれたらイヤとは言わないさ」
「そっ、それはそうだけど……いいの? 春太郎くん?」
「そうですよ、春兄さん。春兄さんは春児さんに結ばれて欲しいんでしょう?」
「確かに、ボクは春児様を応援しています。けれども、春児様がいいとおっしゃるのなら、二人のお手伝いもしますよ」
「いっ、いいの?」
「はい。なにせ最終的に誰を選ぶのかは誠ですから」
「なっ、なら、いいんですかね……?」
「私も姉さんとゆきちゃんを応援しますよ! もちろん春児さんも!」
「ころねちゃん……」
「ころねっち……」
「ありがとうころね。今のころねの言葉もそうだが、私と春太郎のことばかり二人は言うけれど、ゆのはさんには
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