第九話「幼馴染」
「……さて、それじゃぁ春太郎、ゆのはさんとゆきを、私から大事な話があると言って呼んでくれるかい?」
昼食を終えられた春児様がそうおっしゃった。春児様がなにを考えておられるのか、二人を呼んでなにをされようとしていらっしゃるのかすぐに理解する。
「春児様……正々堂々と、王道を行かれるのですね」
「うん。私は決めたからには真っ直ぐに行く。コソコソとするような真似や不意打ちは好かないんだ」
「ご立派でございます」
頭を下げ、春児様の代理でゆのはさんとゆきちゃんに連絡をとった。
ちょうど二人とも時間が空いていたらしく、一時間もしない内に屋敷に来てくれることになった。
「春兄さん、急に呼び出したりしていったいなんの用事なんですか?」
大きな胸が強調される白いワイシャツに黒いジーンズといったラフな格好で、一番先に来たゆきちゃんが応対に出たボクへそう口にした。
前髪が目元まで、後ろ髪は腰近くまである長い黒髪で、いつも何本かの髪がツンツンと跳ねている。ややツリ目の切れ長の二重に、細い怒り眉、鼻筋は通って高く、口は広い美人さんだ。
「急にごめんねゆきちゃん。でも、その用事は春児様がおっしゃられるから、ボクからは言えないんだ」
「まぁ、そうでしょうけど……。そういえば春兄さん、また男に告白されたって本当ですか?」
「……なんの話かな?」
「オッケーしたんです?」
「しないよ。ボクには好きな人がいるからね」
「もう教えてくれてもいいでしょう? 誰が好きなんです?」
「誰だろうね?」
「やっぱり春児さん?」
「春児様は敬愛するご主人様だよ」
「じゃあゆのはさん?」
「ゆのはさんはお姉さんみたいな存在かな」
「ころねっち?」
「ころねちゃんは可愛い妹みたいな存在」
「……私?」
「ゆきちゃんも可愛い妹だよ」
「五月先輩?」
「五月さんはお友達」
「誠先輩……?」
「……なんで誠の名前が出てくるの? ボクの好きな人の話だよね……?」
そんな話をしつつゆきちゃんを春児様がお待ちするガゼボへ案内すると、ゆのはさんところねちゃんが一緒に現れた。
「こんにちは春太郎くん」
「こんにちはです春太郎さん」
「こんにちはゆのはさん、ころねちゃん」
「私だけ呼ばれたみたいだけど、大事な話って聞いたから、ころねも一緒のほうがいいかと思って」
「ダメならすぐに帰りますから、安心してください」
「ううん。大丈夫だと思うよ」
ゆのはさんところねちゃんを案内し、ガゼボに春児様、ゆのはさん、ゆきちゃん、ころねちゃんという、並木高校の四大美人、そしてボクを含めた昔からの幼馴染が全員と、誠のことを好きな三人が揃った。
ボクは四人に紅茶とクッキーをお出しして春児様の後ろへと控える。
「さて……まずは、急な呼び出しにも関わらず、集まってくれた皆に礼を言いたい。ありがとう」
「暇でしたからね、構いませんよ」
「私も。むしろお父さんたちのお手伝いをサボれる口実ができて、少しラッキーかも」
「私は勝手について来ただけですから、お礼は不用です」
三人からの返答に頷き微笑まれた春児様は、ゆのはさんとゆきちゃんの瞳をしっかりお見つめになった。
「薄々感づいていると思うけれど、今日ゆのはさんとゆきを呼んだのは他でもない、誠に関することだよ」
そのお言葉に、ゆのさんとゆきちゃんの雰囲気が緊張を帯びたものに変わる。
「そう……春児ちゃんは、決めたんだね」
「うん。そうだ」
「それを、私たちに言うために?」
「ああ。そのとおりだよ」
ここにいる四人はボクがお屋敷に引き取られる前からの、物心付いたときからの付き合いだ。だから、ゆのはさんもゆきちゃんも、そして黙っているが、ころねちゃんも春児様がこれからなにおっしゃろうとしているかを理解しているようであった。
「私は誠が好きだ。その恋心を、春太郎のおかげもあって今日改めて自覚した。今日をもって、私は誠に振り向いてもらえるように行動することを決意した。だから二人を呼んだんだ」
「ふふっ、春児ちゃんらしいね」
「ですね……」
ゆのはさんにゆきちゃんは、打ち明けてもらえて嬉しいといったように、そして覚悟を決めたように笑顔を浮かべた。
「だから、ゆのはさん、ゆき、二人に聞くよ。二人は、誠のことが好きだね?」
「うん……好きだよ」
「はい、好きです」
ゆのはさんとゆきちゃんはしっかりと春児様の目を見て頷いた。
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