8
南の空に光が見える。春や秋は数日に一度は見えるらしい。とても低空に。到底飛行機とは思えないほど低空に。だからそれは飛行機じゃない。
テツの執事はルカにそう教えたらしい。
ルカから聞いた話だからどこまで正確なのかは分からないが、とにかく南に何かがあるって事だった。
テツの執事が「UFO」って言葉を使ったかどうかは分からないが、ルカはその光を完全にUFOだと確信してる。
そんな訳がないのに、そう思い込んでる。
別荘地だからか、外は暗かった。
何人かの金持ちが来てるとはいっても、建ってる別荘の半分にも満たない上に、時間も時間だからみんな寝ているらしく、明かりが点いてる別荘はどこにもない。
シーズンオフじゃなきゃもう少し雰囲気も違ったりするんだろうが、今は家すら殆ど建ってない物凄い田舎に来てるって感じだった。
別荘が建ち並ぶ通りに一応外灯はあるものの、ポツンポツンとしかない。
外灯から外灯の間に光が届かない真っ暗な空間が出来てる。
その道を、ルカが南へと歩いていく。
正にパーティーの時に執事が指を指してた方向に歩いていく。
誰にも秘密という外出は、否応なしに「徒歩」での移動を余儀なくされた。
せめてタクシーでも呼んで欲しかった。
どれくらい歩いたか分からない。
多分三十分は歩いたと思う。
別荘地の、どの方角が奥か手前か定かじゃないが、どうにも南は奥だったらしく、歩くにつれて別荘や外灯がどんどん少なくなっていき、いよいよ周りに何もなくなった。
多分、道の周りには野原だとか畑だとかがあるんだろうが、暗くて確認出来ない。
もしかしたら別荘が一軒二軒建ってるのかもしれないが、その輪郭すら確認出来ない。
とにかく、暗い。
空を見上げると星も月もなかった。
その夜の暗闇の中、確かに何かが光ってた。
距離があるのか小さいのか分からないが、先の方に光がある。
ボヤッと明るい。
暗闇の中に、僅かな範囲の一部分だけ明るい場所がある。
その光はテツの執事が言ってたように、飛行機じゃない低さにある。
あれは――何だ。
思わず足を止めてその光の方を見ていると、ルカも同じように立ち止まって、「あっ! あれだ! 光だ!」と言った。
それを探しにきたくせに、俺より見つけるのが遅いっていうのはどうなんだと思ったが、面倒臭いからその突っ込みはしないでおいた。
「ハチ公特別捜査官、見えるか!? あの光が見えるか!?」
思いっきりそっちの方向を見てる俺にそう聞いてきたルカは、
「何だ、あれは!」
物凄く期待に満ちた声を出す。
何て言って欲しいか手に取るように分かるだけに面倒臭いったらなかった。
「さあな。何だろうな」
ルカの期待通りの言葉を言ってやるのが癪だったから、適当な感じを全面に出してそう答えると、ルカは思いっきり舌打ちをした。
そして。
「そう強がっていられるのも今のうちだけだ!」
などという、訳の分からない事を言ってまた南へと歩き出した。
光の正体が分かったのは、それから間もなくの事だった。
五分も歩かないうちに、俺はその光の正体がほぼ確信的に分かった。
ただ分かったのは俺だけだった。
光を見つけてから暫く歩くと、左手の方に丘のようなものがあった。
丘っていうより小さい山って感じだろうか。
この暗さじゃここまで近付かないと分からなかったのが、一時間弱もあれば余裕で向こう側に行けそうなくらい、小さい山――若しくは丘――がある。
その山だか丘の中腹辺りに光がある。
思うに、車のヘッドライトだ。
ここにいても光ってるって思うくらいだから一台や二台じゃない。
何台もの車のヘッドライトが点いてる。
そうなると、地元の若者どもが集って良からぬ事をしてる可能性が高い。
こんな時間に起きてるなんてのは若い奴らしかいないだろうし、山に集うなんてのはロクでもない事をしてるとしか思えない。
レースをしてるか、クスリ的なものをしてるか、最悪の場合は女でも拉致って来てるか。
酒でも飲んで愉快に喋ってるだけならいいが、そうじゃなかった場合は困る。
俺ひとりなら逃げ切れても、ルカが一緒じゃそりゃ無理だ。
近付かない方がいい。
近付いたら負けだ。
「おい、ルカ」
「…………」
「ルカ特別捜査官」
「何だ」
「ありゃ、UFOじゃねえ。宇宙人でもねえ。人間の集まりだ。行くだけ無駄だ」
「何で分かる?」
「昔、似たような事をやった事があるからだ」
「どんな事?」
「人が来ねえような場所で、夜中に仲間と集まって良からぬ事をした。俺の場合は廃ビルとかだけど、ここじゃそんなもんねえだろ。だから、あんな場所なんだろうよ」
「良からぬ事って何だ?」
「それはまあ――色々だ。とにかく、あれはUFOでも宇宙人でもねえ。執事が教えてくれたのはあの光の事だろうけど、執事も山の中が光ってるとは思わなかったんだろ。夜、遠くから見ただけじゃ空との区別がつかなかったんだろうよ」
「行ってみなきゃ分からないだろう」
「は?」
「UFOが着陸してるのかもしれないし、宇宙人がわんさかいるかもしれない」
「だからいねえって!」
「見たのか?」
「あ?」
「見てないだろ? ただの予想だろ? そんなものは当てにならない。だから行く!」
行くしかない――と大きな声を出して、ルカは山だか丘に向かっていった。
説得するのは無理な雰囲気しかなかった。
説得出来る自信なんて全くなかった。
抱えて強制的に連れて帰る事も出来なくはないが、体力的に厳しい気がした。
そして何より、ルカに「宇宙人はいない」って事を納得してもらわないと困る。
そうじゃないと俺はずっと別荘にいる羽目になる。
今強制的に別荘に連れて帰ったとしても、家には帰れない。
それならあれが宇宙人じゃない事をその目で見てもらって、宇宙人はいないって事を納得してもらうしかない。
だから俺がすべき事は、説得する事でも強制的に連れて帰る事でもなく、
――相手に見つからなきゃいい。
あの光ってる場所に集まってる奴らに見つからずに様子を窺う事。
それくらいなら俺にも出来る。――はず。
意気揚々と歩いていくルカの後ろをついて行きながら、環兄ちゃんに変な仕事を紹介されたとつくづく思った。
ルカみたいなヘンテコな奴、他にはいない。
そりゃこいつの「犬」なんて仕事をしてたら、恩恵が貰えて当然だ。
その内容の善し悪しは抜きにして。
「なあ、ルカ」
「…………」
「ルカ特別捜査官」
「何だ?」
「お前、何で人の名前を覚えない?」
俺のその問い掛けに、ルカは歩きながら後ろに振り返った。
いい加減夜の闇に慣れてた目が捉えたのは、訝しげな表情だった。
眉を顰め、目を少し細めるルカは、
「覚えてる」
心外だという口振りでそう言うと、前に向き直った。
その対応こそが、俺には心外だ。
「全然覚えてねえだろ。谷林哲とか」
「タニバヤシって誰だ!」
「ほら見ろ、覚えてねえじゃねえか。谷林ってのは数時間前に行ったのパーティーの主催者だぞ。朝、カフェで会っただろ。色々話しただろ。まさかカフェで会った事、忘れてねえよな?」
足早に追い付き、ルカの隣に並んでそう言葉を吐くと、ルカは目だけを俺に向けて、やっぱり訝しげな顔をする。
既に山道に入っていて、更に外灯の数も減り、夜の闇は増したけど、それでもはっきりと分かるほど訝しげな表情だった。
その表情で、
「バカにするな。会った事は覚えてる」
ルカは表情と同じような声を出す。
「何話したかも覚えてるか?」
「挨拶をした」
バカにするしかないような事しか言わないくせに。
「挨拶以外にも向こうが色々喋ってただろ。その内容、覚えてねえのかよ」
「全く聞いてなかった」
「そうだろうな。そうだろうとは思ってたけど、やっぱりそうだったんだな。でもいい。本当は人として全然よくねえけど、今はまあそれでもいい。とにかくそのカフェで会ったのが谷林哲だ。パーティーの主催者だ。カフェで会った奴とパーティーの主催者が同じ奴だって事は分かってたんだな?」
「行ったから知ってる。主催者だと紹介された」
「行かなかったら知らなかったって事か。って事は顔は覚えられるって事だな?」
「バカにするなと言ってるだろ。覚えられるに決まってる。あたしは記憶力がいい」
「じゃあ、今日のパーティーで挨拶した奴らの名前、お前一体何人言える? ひとりも言えねえだろ。知らねえんだろ」
「顔は皆知ってる」
「顔の事を言ってんじゃねえよ。名前知ってんのかって聞いてんだよ。挨拶しに来てくれてた奴の名前、ちゃんと覚えたのか?」
「ハチ公」
ルカは俺を「ハチ公特別捜査官」ではなく、「ハチ公」と呼んだ。
今までの事から推測するに、「特別捜査官」と付くのは宇宙人関係の何かをしてる時のみ。
つまり今ルカは「普通に会話」してるつもりでいるんだと思う。
ただルカの「普通の会話」は、
「どうして皆があたしの名前を知ってると思う?」
「……は?」
酷く意味が分かり辛い。
「今日会った者たち皆があたしを名前を知ってる理由だ」
「理由って何だよ。ちゃんと覚えてるから知ってるんだろ」
「なら、ハチ公が他人の名前を覚える理由は何だ?」
「質問の意図が分かんねえ」
「お前は、街ですれ違う人間の名前を皆知ってるか?」
「話の次元がおかしいぞ、おい」
「おかしくない。同じ次元の話だ」
そう言ったルカは少しだけ歩く速度を下げた。
坂道を上るのがキツくなってきたらしい。
少し息も切れ始めてる。
「あたしを含め、ハチ公も今夜会った者たちも、皆が皆自分に関係ある者の名前しか覚えない。無関係の人間の名前を覚えてる者は誰もいない。そういう事だ」
「そういう事だって、どういう事だよ。筋が通ってねえじゃねえか。今夜会った奴らは無関係じゃねえだろ。挨拶してくるって事は関係あんだろ。だったら――」
「今夜会った者たちは、あたしには何ら関係のない者たちだ」
「――は?」
「あの者たちがあたしの名前を知ってるのは、あたしが『成宮瑠花』だからだ」
「あん?」
「あの者たちはあたしに興味がある訳じゃない。あたしには微塵の関心も寄せていない。あの者たちが関係を築きたいと思い、関心を寄せ、興味を持ってるのは『成宮』だ。あたしじゃない」
「だからお前には関係ない奴らだと?」
「さっきからそう言ってる」
「それが理由で名前を覚えないのか?」
「覚えても意味がない。覚えようとも思わない」
「そこまで思ってんのに、パーティーに出向いて挨拶してくる奴らに笑顔で対応すんのか?」
「そういうものだと教えられてる」
「教え……?」
「招待された時は出向く。顔を知ってる者に会った時は、ただ笑って頷いていればいい。そう教えられた。話を聞く必要はないと」
「誰に?」
「お爺様にもお父様にも兄にもそう教えられた。『成宮瑠花』としてするべき事はちゃんと理解してる」
何だそれ――という言葉が、もうすぐそこまで出かかった。
一旦唇を閉じて、その言葉を呑み込んだ。
ルカの言ってる事は金持ちにしたら当たり前の事なのかもしれない。
ご令嬢だのご令息だのってのはそういうもんなのかもしれない。
俺みたいな一般人には分からない、社交界ってもんに、当たり前に生息する常識なのかもしれない。
そう思った。
そういうもんなんだって思った。
でもいくらそう思ってもルカが可哀想に思えた。
どうしようもねえバカだし、訳の分かんねえ事ばっか言いやがるし、今なんて選りにも選って宇宙人を捕まえようとしてるけど、可哀想な奴だと思う。
ルカ個人に全く興味のない奴らに囲まれて、それでも愛想を振り撒いて、きっと聞いててもつまんねえだろう話を延々と聞かされる。
まだこいつは十六歳のガキなのに、大人の事情に巻き込まれて、利用されてる。
今日のパーティーにいた奴らの中に、ルカに会いたい奴は誰ひとりいなかった。
奴らが会いたかったのは、「成宮」家のご令嬢であってルカじゃない。
ルカが「成宮」でなかったら、誰も見向きもしない。
そう考えて、初めてルカに同情した。
周りにいる奴らの誰ひとり、自分に興味を示さないってどういう気持ちなんだろうかと考えて可哀想だと思った。
何も分からず周りにチヤホヤされて嬉しいのは最初のうちだけだろう。
そのうち誰も自分に興味がないと分かって傷付くんだろうか。
そしてそれが当たり前の事になる。
名前を覚える意味は――ない。
ルカの歩く速度がまた更に落ちた。
息も随分と切れてきてる。
どうしてこんな事をしてまで宇宙人を探したいのかは依然謎のまま。
それでもさっきまでより随分とルカの思考が分かる気がして、距離が縮まったように思える。
「今日会った奴らってよく会うのか?」
「たまに」
「今日みたいなパーティーってよくあんのか? お前が出るようなやつ」
「月に一度あるかないか」
「それに来てる奴らの中でお前と同じ年くらいの奴っていねえの?」
「いるだろうな」
「その中に友達いねえの?」
「いない」
「名前か苗字覚えてる奴は?」
「いない」
「ひとりも?」
「いない」
だからか――と思った。
こうして宇宙人を捕まえるなんて突拍子もない事を言い出すのは、生きてる世界に「友達」がいないからなんだろう。
これはひとり遊びの延長だ。
ひとりでいるからつまんねえんだ。
それで宇宙人を捕まえるなんてバカな事を思い付くんだ。
なまじ権力と金があるから、行動に移せるんだ。
「お前、高校行けば?」
「何故だ」
「暇じゃなくなるからだよ」
「別にあたしは暇じゃない。今だって宇宙人を捕まえるのに忙しい」
「んでも学校行けばもっと違う忙しさがあったりするぞ? もっと現実的な忙しさと出会える」
「今も現実的に非常に忙しい」
「暇だから宇宙人捕まえようと思ってんだろ。高校行って友達作れよ。小学校中学校って行ってたろ。そん時は友達いたろ。つーか、そん時の友達どうしたんだよ。何でそいつらと遊ばねえんだよ。そいつらと遊べ、そいつらと。もっと現実的な、例えば買い物に行くだとか、カラオケに行くだとか、ただ集まってくだらねえ事喋るだとか――」
「行ってない」
「――は?」
「小学校にも中学校にも行ってない」
「……はあ? 何言ってんだ? 義務教育だぞ、義務教育。行ってねえ訳ねえだろうが」
「行ってない。義務教育は家で受けた」
「そんな訳ねえだろ。そんな事出来る訳――出来るのか?」
「どうして出来ないと思うのかが分からない」
ルカはそう言って徐に足を止めた。
いい加減疲れてきたんだろうと思った。
けど実際は疲れの所為じゃなく、
「何か聞こえるぞ、ハチ公特別捜査官!」
音に気付いたからだった。
車一台分くらいしかない山道を歩き続けて数十分。
数十メートル先にある木々の間に光が見える。
話をしながらだったお陰で然程距離を気にせず歩く事は出来て、いよいよ光が発せられてる場所に近付いたらしい。
そして聞こえてくる音は、どこからどう聞いたってエンジン音。
改造車であるらしく、普通の車の何倍もの音がする。
それと、カーステレオから流れてるんであろう、音量がフルっぽい音楽。
改造車だと予想出来るくらいだから、エンジン音ってのは当然「車の」なんだが、
「エンジン音だな」
「UFOのか!」
未だルカはUFO説をごり押しする。
「UFOにエンジンはねえだろ」
「どうしてないと言い切れる!」
「UFOってのは宇宙から来てんだろ!? 何で地球のエンジンが搭載されてんだよ!」
「地球と同じような技術なんだ、きっと!」
「UFO作っちまう時点で同じような技術じゃねえよ。メチャクチャ最先端だ、バカタレ」
「最先端のエンジンか!」
「もういい。分かった。その目でちゃんと現実を見やがれ」
何を言ってもどうしてもルカがUFO説を諦めないから、見せて納得させて連れて帰る事にした。
それでもこのまま道を歩いて光の場所に行くのは絶対に見つかるから、木々が生い茂る森の斜面に足を踏み入れた。
おうおうおう――と、訳の分からん声を出してルカはついて来る。
本人も一応真っ直ぐ突き進むのは危険だと判断したらしい。
まあ、実際本当にUFOがあって宇宙人がいたとしたら、見つかって捕まる訳だから、慎重にもなるんだろう。
身を屈め、足音を忍ばせて光に近付いた。
振り返って様子を見ると、ついて来るルカも同じ感じだった。
光に近付くにつれて、音楽に混じって声も聞こえてくる。
男数人が集まって、喋って、笑って、騒いでる声。
聞こえてくる感じからして、酒を飲んでるか、クスリをやってる感じだった。
だから出来ればこれ以上は近付きたくなくて、ルカに振り返った。
「ほらみろ、人間の話し声だろうが」
「宇宙人の話し声だな」
思いっきり無駄だったんだけども。
「静かについて来いよ?」
忠告をして前に向き直り、更に光に近付いた。
急な斜面をほぼ四つん這いで上っていく姿勢だったから、手も足も散々汚れた。
それでもルカは文句も言わずについて来る。
ようやく光を発する場所が見える位置に着き、大きな木の陰に隠れて、下手から少し見上げる感じでそちらに目を向けた。
ちょうど道が大きなカーブになってる場所に、空き地って言っていいほど広い路肩がある。
そこに四台車が停めてあって、十人ほどの男達が車の周りで騒いでる。
車はどれもがエンジンが掛かった状態でライトを照らしてる。
男達は酒を飲んでるらしく、缶ビールの空き缶がそこら辺に転がってた。
予想通りというか、案の定というか、何の捻りもない結果。
こんな事だろうと思ったっていうより、こんな事でしかないだろうと思ったって結果。
その結果を、後ろからついて来てたルカが隣まで来て眺めてる。
深夜にバカみたいに歩いた挙句、俺の言った通りの結果を見て、ルカが何を言うかがちょっと楽しみだった。
ざまあみろ的な楽しみだけど。
「ほら見ろ、言った通りだろうが」
「…………ふむ」
細心の注意を払い男達の目を向けたまま、囁くような小さな声で勝ち誇った言い方をすると、ルカは素直に返事をした。
思いの外素直だったから肩透かしを食らった気分になったけど、まあ目の前にこんな結果を見せられちゃゴネる事も出来ねえだろう。
「大体、宇宙人なんかいる訳ねえんだよ」
「…………」
「光があったと思ったら、まずそこには人がいるんだと思え」
「…………」
「いきなり宇宙人がいるだの、UFOがあるだのって思うんじゃねえ」
「…………」
「何が不思議な光だ。車の光だ、バカタレ。ただ酔ってる若い奴らが集まってるだけだ」
「…………」
「いいか、今後一切俺の前で宇宙人だのUFOだのと――」
ぐう――と、鼾が聞こえてくる前に、思いっきり寄り掛かられて、バカが寝てる事に気が付いた。
人が説教垂れてる時に大バカ者は寝てやがった。
散々歩いて疲れたのか、それともご令嬢様のお休みの時間なのか知らねえけど、説教も聞かずに寝やがった。
しかも。
「んがっ」
ブタ鼻までお見舞いしてきやがる。
最悪だ。
最悪すぎる。
五万歩譲って寝ちまったのはいいとしても、それで俺にどうしろっていうんだって話だ。
こんな所で寝られたらどうしようもねえ。
担いで帰るにしても、ヘタに動いて酔ってる若者どもに見つかったら困る。
あんな人数相手にしてルカを守れる自信は全くない。
つまりは動くに動けねえって事。
若者どもが帰るまで、ここに隠れてなきゃいけねえって事。
「……マジ最悪だ……」
溜息を吐いて体を反転させて仰向けになって寝転んだ。
これでルカが起きりゃいいのにと思ったけど、ブタ鼻っ子は起きなかった。
それどころか、ブタ鼻っ子は仰向けに寝転がった俺の体の上に、上半身を載せて完全な熟睡体制に入った。
騒々しい音楽と、騒いでる若者どもの声を聞きながら、頼むから陽が昇るまでには帰ってくれよと願った。
願いながら、ズリ落ちていきそうなルカの体を、腕で抱き寄せて支え、夜空に目を向けた。
木々の隙間から見える夜空は月も星もない。
ただ夜の闇だけがある。
何だか吸い込まれそうな気持ちになった――その時、夜空で何かが光った。
丸い、赤い光。
その光は、右へ左へと上へ下へと不規則な動きをする。
目の錯覚かと瞬きをした直後、その光は忽然と消えた。
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