第13話
そのあと、僕と二心はソファーに並んで座らされ、対面に座る笑顔の姉と険しい表情の母から取り調べを受けることとなった。その間の僕は、女装している姿をこの二人に見られていることが耐えられず『とりあえず着替えてきていい?』と確認したいところだったのだが、今の母にはとてもそんなことを言える状況ではない。なぜなら母は、二心が僕に無理矢理女装させたと踏んでいたようで、それが許せずに怒っているように見えたからだ。おそらくだが、いじめの一件があったばかりの僕を心配してくれていたのだろう。
結果、僕にはなにも聞かず二心にだけ厳しく問いただすのであった――。
「二心。黙ったままだとわからないでしょう? あなたが三郎にやらせたの? 違うなら違うで、こんなことをしていた理由をわかるように説明しなさい」
「そ、それは……」
委縮してなにを聞かれても答えることができない二心。それはいつもの僕に対する横柄な態度からは想像できない姿だったが、そうなるのは必然だった。なぜなら彼女にとって世界一怖い存在が母なのだから。
そんな母からのお説教は良い薬になるだろうと、最初は黙って聞いていた僕だったのだが、次第に二心のことが不憫に思えてきた。
(ちょっと悪い事したかな……。今日女装することになったきっかけは僕のお願いからだったしな。僕にも責任はあるだろうし、助けてあげるか――)
そう覚悟を決め、口を開こうと思った矢先だった。
はっとなにかが閃いたかのように顔を上げる二心が目に入る。そして彼女は、とんでもないことを言い始めるのだった――。
「お母様! もう、すべて話すわ!」
「そ、そうなの? どうしたの? 突然」
「本当は機が熟すまでお母様には秘密にしておこうと思ってたんだけど……。いい機会だから発表します」
「な、なにかしら……(ごくり)」
「実はね……。これは私が発案したプロジェクトなの」
「「「プロジェクト?」」」
「サブは、うちのモデル事務所の秘密兵器になるわ!」
「「「……はい?」」」
皆がぽかんと口を開けて固まっている中、お構いなしに説明を続ける二心。
「このサブの姿をよく見て! 私と瓜二つでしょ?! どう、この逸材! うまく使えばニュースになると思わない?! どこかのタイミングで二心が双子だったと公表して、実はもう一人は弟だった……ってな感じのプロジェクトよ!」
(なんだそれは。そんな今思いついたような言い訳、母さんが信じるわけないでしょ――)
そう思いながら呆れてため息をついたとき、母がとんでもないこと言い始める。
「甘いわよ……。二心」
「お、お母様……?」
「その企画、面白いけど詰め甘いわ! 正体を明かすタイミングが早すぎる!」
「そ、それって、どういう意味――」
「まず、最初は『双子の妹』設定で売り出すのよ。名前はそうねぇ。『三心(みこ)』でどうかしら。そしてここぞとういうタイミングで『実は弟でした』と公表するのよ。これなら、二度おいしい!」
「な、なるほど! さすがお母様!」
「最初はそうねぇ。まずはうちのファッションショーで、三心を二心としてランウェイ歩かせるのも面白いわね……。そこにサプライズで『二心ご本人様登場』パターンもありだわ。それで、そのツーショットを見せて双子の姉妹だったと公表するのよ」
「面白い! みんな驚くわ!」
「ええ。間違いなくニュースになるわね。それで軌道に乗って、三心もモデルとして独り立ちできたら、二心一人でさばけなかった仕事も受けれるようになるし……。それで世間も落ち着いた頃に『実は妹は弟でした』と公表しましょう。タイミグはそうねぇ……。新作発表の時期と合わせましょうか。うん。見えた」
「お母様、すごいわ! 見えた!」
話がとんでもない方向へと進み始めたので、慌てて二人を止める僕。
「いやいや、見えてないから! 母さんも、さっきからなに言ってるの?!」
「なにって、あなたの売り出し方の話じゃない」
「僕は別に売り出されたくないから!」
しかし暴走列車となった二人を僕一人では止めることはできなかった。その場で企画会議が始まってしまい、当の本人である僕の声など耳に入らなくなってしまったのだ。
するとずっと黙って聞いていた一蓮姉さんが微笑みながら、『落ち着いて』と暖かいお茶を入れてくれた。やはり僕の気持ちをわかってくれるのは、優しい姉さんだけなのだ。一蓮姉さんなら僕を助けてくれるはず――。
「よかったですね。三心ちゃん」
「僕は三心じゃないから!」
姉は全然わかっていなかった。
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