1章3話 美人と野外でティータイム
ステラさんの亡くなった仲間のご遺体はしっかり埋葬した。
仮にも騎士の遺体をその辺に埋葬してもいいもんなのかと思ったが、任務中の死は覚悟の上、しかし遺体を獣に食わせるのも忍びないとのことだった。ステラさんは仲間の鎧についた紋章のメダルみたいなものと遺髪を切り取っていた。
それを待ち、ラーダン王都に向けて歩き出した。こんな所でのんびりしている理由もないからな。
ちなみに靴はサイズが合うのがなかったのと、なんか汚い男が履きつぶしたようなものを靴下もなしに履くのは流石に嫌だったので、裸足だ。
人の手があまり入っていないので、硬い草の刈り跡なんかが足に刺さる事もないし、道なんかも人や馬車が通って自然にできた道で、砂利が敷いてあったりはしないので返って歩きやすい。
ラーダンまでは徒歩でおよそ3日ほどらしい。しばらく歩き、休憩後も数時間あるいたが、王都につくにはまだまだかかるそうだ。暗くなる前に野営の準備をするとする。
騎士たちの荷物は回収しておいたし、ステラさんは『必要だから』と言う事でそれの一つを俺にゆずってくれたので、俺の分のシートや毛布もちゃんとある。
食事はその荷物の中にあった干し肉と固パンをかじる。
「ところでヘンリエッタさんは、どうしてあのような所にいたのですか?」と聞いてみた。
ステラさんは少しの沈黙のあと、
「ダンジョンの探索に失敗したんだ」といった。
「もともと私は隣国のファーライト神聖王国から、合同訓練と技術交換の為に訪れたんだ。訓練自体は無事に終ったのだが、帰国の段になって、ラーダン王国に新しいダンジョンが発見された」
「発見された? ここってそれほど王都から離れていませんよね? それがいままで未発見ということはありえるんですか?」
「めったに無い事ではあるが、絶対に無いとは言い切れない。珍しいことではあるが、ダンジョンが自然発生することもある。いずれにしても調査しないと産業化できるのか、それとも消してしまった方がいいのかは判断できない」
「なるほど」
ダンジョンは、そのダンジョンごとに傾向が違い、出て来るモンスターや宝に偏りがあるようだ。労多くて実り少なし、みたいなダンジョンはコアを破壊してしまった方が安全なのだとか。
「本来ダンジョンに潜るのは冒険者の役割ではあるのだが、他国に新しくできたダンジョンだ。政治的にもどのようなバランスになるのか情報が欲しくてな」
「なるほど、でもそういうのって、ラーダン王国としてはなるべく秘密にしておきたいのじゃないですか? もしかして無許可の調査ですか?」
もしそうだとしても僕はいいませんよ。という意味を込めて最後のセリフは小声にする。まあそれでも本当に悪意のある人だったら危ないが、ステラさんなら大丈夫だろう。そう判断してちょっと突っ込んだ質問をしてみる。
案の定、ステラさんは苦笑しただけで次の言葉を紡いだ。
「もちろんそんなわけはない。まあこれが他の国ならありえなかっただろうが、今のラーダンの国王は賢王と名高いラムダ3世だからな。どうせ発見を他国に知られてしまったのなら、わざわざ秘密にして痛くもない腹を探られるよりは、チラ見せだけでもして我が国との同盟を強固なものにしておいた方がいい、という考えなのだろう。そこでラーダンの騎士団と合同調査が行われる事になり、出向していた聖堂騎士団からも選抜で調査隊が組まれたのだ。だが……」
全滅…… と。
「新しいダンジョンは発見されたばかりで、まだ封鎖したりはしていなかったようだから、血気盛んな冒険者などは、すでに入ダンしていたようだな。だが帰還者も、報告もなかった。我々も経験豊富な冒険者を数名雇って先行させたのだが、魔物の数も罠も多くて第一層も踏破するまえに壊滅した。かろうじて逃げ出した数名も、野伏せりにやられてな」
ああ、街道でもないところにいるなんて変な盗賊だなと思ったけど、もしかしたら先に潜っていた冒険者連中だったのかもしれないな。なんの成果も得られなかったところに、潰走している騎士なんかに出会ってしまえば、せめて騎士様の立派な装備でもと思うかもしれない。
それはそうとダンジョンに入る事、入ダンっていうんだ……。
変なところに引っかかっていたら、ステラさんも無口になってなんか微妙な空気になっている。
「ああ、すいません。大丈夫ですよ。わたしは誰にも話しませんし、言う相手もいませんから」
安心させるためにそういう。
「そうだ、少しだけ贅沢をしましょうか、甘いものは好きですか?」
「嫌いではないが」
さっき野営道具のなかに、砂糖が少しはいっているのを見つけたのよね。道中に見つけてもぎっておいた、野生の林檎のようなものを細かく切ると、砂糖と一緒に煮詰めた。即席のジャムみたいなものだ。それに少し濃く淹れた紅茶を注いで飲む。
それとなく聞いてみたが、食べ物関係に致命的な違いはなさそうだった。
異世界ならではの食材とか調理法もあるのかもしれないが、現代にいた頃でさえ、外国の食材などはみたことも聞いたこともないようなものも多かったことだし、異世界というより異文化ということで受け入れていくしかないだろう。
その異世界の野生の林檎のようなものは、見た目や味からしても林檎で間違いないのだろうが、本当の意味で地球の林檎と同じものなのかはわからない。
日本でよく見る林檎より、かなり小振りで酸味も強かったが、砂糖とお茶でよくまとまり、カップの3分の1ほどもジャムで埋めれば、デザートとしても最高だった。
「これは…… 美味しいな」
ステラさんは、とても嬉しそうな顔でこちらをみた。美人の嬉しそうな顔がみれて僕も嬉しいです。
「大した手間もかけていませんが、野外で食べるとなんでも美味しく感じますよね」
俺も微笑みながらそう言う。
「そうか……、いや私はいままでそんな風に考えたことがなかった。野外の食事といえば、行軍のなかの短い休憩で味気ないパンを飲み込むように食べることしかしてこなかったから」
「騎士様ともなるとそうなのかもしれませんね。僕にはその苦労を察する事もできないかもしれませんが、一時、お茶を楽しんでもらえる時間をもって貰えたなら嬉しいです」
「思えば、普段の食事でさえ、こんなにも味や温度に有り難さを感じたことはなかったかもしれない。食事の前に、感謝の祈りは捧げるが私は本当の意味で感謝していたことはあったのだろうか……」
ジャムティー作ったら、なんだか難しいことを考え始めた。でもこういう時に口を開くのは無粋というものだ、俺は微笑んで黙ってお茶を飲む。【調理】が点灯したのはもう無視だ。
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