#22 のんびりと
「今日も快晴ハミング日和。Project étoileの1期生、旅する歌唄いのMele(メレ) だよ〜。
今日も今日とて、定期歌枠。の特別回としてコラボ配信をお届けするよ。ゲストは、このお二人〜」
「本日も満開笑顔でお届けします♪ Project étoileの0期生。桜花サキと」
「は、はい。声優事務所ダイヤモンドダスト所属。é4clat(エクラ)の霜月冬羽です。宜しくお願いいたします」
私は緊張で震えながら挨拶をする。今日は通話アプリ越しでは無い、所謂オフコラボという物。先輩との配信ということもあり、心臓はドクドクと脈打っていた。
すると、そんな様子が気に掛かったようで、メレさんが不思議そうに首を傾げる。
「んー? 冬羽、いつもの挨拶は? 冬空に舞い降りた〜、って言うの。あ、もしかして緊張してる? リラックスリラックス〜」
「ハハハ、ハイ」
急いで返事をしなければと思っていたら、すっかりカタコトになってしまった。それを見たサキさんはクスッと笑った。
「メレちゃん、それ逆効果。余計に緊張させちゃってるじゃん」
「おっと。これは失敬。冬羽と一緒に歌えるのが嬉しくて、つい。
それじゃあ、気を取り直して今日ものんびり歌うから、ゆったりした気分で聴いてってね〜。まずは、この曲から──」
メレさんの目配せを合図に早速、3人の歌声が響き渡る。有名なアニメソングで盛り上がった後、各々がソロで歌唱していく。
まずはメレさんのしっとりソングで涙目になり、サキさんにぴったりなカラオケで絶対に盛り上がるであろう選曲に合わせて、マラカスで合いの手を入れる。そして、私も悩んだ末に選んだ、最近流行りの曲を歌う。
アウトロが終わると、コメント欄が拍手で埋まる。メレさんからも「リハーサルの時よりも上手になってる。これからは冬羽の時代かな〜」と褒めてもらえた。大変、身に余る言葉だが、歌を主軸とするメレさんに言われるのは素直に嬉しい。
その言葉を噛み締めつつ、3人で曲の振り返りを終えると、次のコーナーへ移る。
「ここで休憩タ〜イム。事前に募集してた質問に答えていくよ。まずは、これ〜」
メレさんの振りに合わせて、パソコン操作を担当しているスタッフさんが画面に質問を表示させる。
「『どこからが浮気ですか?』だって。うわー、いきなり恋バナだ〜」
「けど、質問の順番はメレちゃんが決めたんじゃないの」
「んー、そうだったかも〜」
サキさんからの言葉に
「浮気。冬羽ちゃんはどこからが浮気だなって思う?」
「そうですね。浮気、か。それは本命の人以外を好きになったら、とかですかね」
「ふーん。そうなんだ」
何とかして捻り出した回答にサキさんはニヤニヤしながら相槌を打った。それを見たメレさんは、更に彼女を問い詰める。
「ほほぉ。サキ、その反応をするということは彼女は、まだ甘いとお考えで?」
「いや〜。若いって、いいなって思っただけだよ」
「じゃあ、そういうサキの浮気はどこから?」
「ズバリ、私はキスから」
「キ、キス……」
CMで見たことがあるような会話をする2人。特にサキさんの具体的な回答にはドキッとしてしまった。
メレさんも、その答えには驚いた表情を浮かべていた。
「ほー、そう来たか。まぁチューは流石にアウトだよね〜」
「だって気があるじゃん、もう。海外だと唇以外にも手の甲とか頬っぺたにして、ご挨拶♪ みたいなこともあるけどさぁ。それは私には無理。耐えられない。好きな人がしてるの見たら嫉妬どころじゃ済まないよ……そうなったら、もう。別れるしかないよね」
「サキは優しいね。私だったら……ただじゃ済まさないかも」
低くなった声に背筋が寒くなっていくのを感じながら、そう言えば、まだメレさんの回答は聞いていなかったと思って、彼女に話を振る。
「あの。メレさんは」
「んー、私はね。手を繋いだらかな〜」
「えぇー。でも、手を繋ぐくらい友達でもするじゃん」
「ふっふっふっー。サキちゃんのその考え、マシュマロより甘い。甘すぎる。私の研究結果によるとですね、手を繋ぎたいと思う時点で心は既に向こうに傾いている。
それ即ち、浮気なのです!」
わざわざ溜めてから言ったメレさんの発言は終始大袈裟な口調で、最後には効果音が付きそうな勢いであった。
そんなこんなでウキウキで浮気を飛び越して恋愛について語り始めた2人に適度に相槌を入れていると、ふと時間が気になって、会話に割り込む。
「あのー、お2人共。そろそろ次に移った方がいいかもです。時間が……」
「わぁ。冬羽ー、教えてくれてありがとう。本当に良いお時間だ。質問1つしか答えられなかったけど、こんな日もあるよね。
それじゃあ、お歌コーナーに戻るよ。次は誰かな〜」
こうして、最後まで笑顔が絶えない約1時間半に渡る先輩との初コラボ配信は、あっという間に過ぎていった。
翌日。ファン有志にアップロードされた切り抜き動画によって、どんな時でも落ち着いている振る舞いから、視聴者から
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます