#7 輝きのプレリュード
「すみません。お話中、失礼します。
初めまして。この度、皆さんのマネジメントを担当します。
会議室のような殺風景な部屋で、いつの間にか一ノ瀬さんと席を変わっていた彼女は、ぺこりとお辞儀をする。ポニーテールの髪型やカメラの前で両手でガッツポーズをする様子から、真面目な印象だけで無く、活発な雰囲気を漂わせる。
既にユニット内のムードメーカーとして確立し始めた春風さんは「彩花さん宜しくね〜」などと言っている。いきなり相手を名前で呼んでしまうとは。春風さんのコミュニケーション力は、すっかり会話が苦手になってしまった私にとって、凄く参考になる。
そんな考えを膨らませていると、再びマイクは一ノ瀬さんに戻される。
「佐藤は僕が声優マネジメント部門にいた頃の直属の後輩でね。プロジェクトメンバーの担当は初めてだけど、ついこの間までサキの元で勉強してたから心配無い。それに佐藤の仕事ぶりを間近で見ていた僕が太鼓判を押すよ。きっと君達の力になってくれる筈だ」
彼の隣で見切れている佐藤さんが親指を立ててグッドサインをする。それを横目で見た一ノ瀬さんから思わず笑みが溢れる。
「さて。自己紹介も終わったことだし、ここからは君達が目指す輝きについて、話していこうか」
カメラを真っ直ぐに見据える一ノ瀬さんを受けて、空気感がガラッと変わる。私は再度気を引き締め、一ノ瀬さんの話に耳を傾けた。
「まずは、Project étoile(プロジェクト エトワール)の目的について、話さなければならないね。
──それは自分でも見つけられない程、小さな輝きかもしれない。そんな誰もが持っている可能性を思い切り解き放つ場所を作る為、Project étoileは始動した。
そのきっかけとなったのが、Project étoileの0期生。
このように無慈悲に潰えていく光をただ傍観するのでは無く、救いたい。そんな想いは増していき、僕達は新たな挑戦が必要だと考えた。
それがプロジェクトでは初となるバーチャルを主軸とした活動だ。勿論、リアルでの活動や声優業を制限するつもりは無くて、適宜検討していければと考えてる。だから、
ふと宮秋さんが映っている画面を見ると、無言で深く頷く彼の姿があった。因みにその横に映る天倉さんは首が取れるんじゃないかという程、何度も頷いていた。
「それじゃ、最後に。肝心のユニット名を発表するね」
彼の言葉で皆に緊張が走り、固唾を呑む。そして、充分な間を置いて、一ノ瀬さんは口を開いた。
「君達のユニット名は──『é4clat(エクラ)』だ」
エクラ……その名前を口に馴染ませるように何度も呟く。同時にチャットに流れたユニット名の表記を確認すると、メンバー全員の人数である4が入っていたり、étoileとの繋がりも感じて、期待という形のプレッシャーがひしひしと伝わってきた。
しかし、ここにはそれに応えられるメンバーが勢揃いしている。
(……この中で輝かなくちゃいけないんだ)
この時、やっと自覚した。本気で頑張らなければ、あっという間に埋もれてしまう。そうならないようにするには、自身に怯えること無く、ユニットメンバーにも兄の輝きにも負けない光を放ち続けなければならない。
それは今までの自分を振り返れば、容易く無いのは明確だ。
それでも私は、もう止まりたくない。逃げたくない。諦めたくない。絶対に
私は一ノ瀬さんの話を聴きながら、心の中でそのような誓いを立てた。
こうして、覚悟を決めた初めての全員集合ミーティングは幕を閉じ、新星『é4clat(エクラ)』は生まれた。
そして、運命の4月1日が訪れる。
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