#24 聖なる夜に響く音
12月24日、クリスマスイブの夜。とあるステージの裏側ではスタッフの声が響く。
「本番5分前ー」
この幕の前には大勢のリスナーさんがいる。その事実は、いよいよé4clat(エクラ)の3Dお披露目も兼ねた初ライブが近付いてきていることを認識させ、私の緊張は一気に高まった。
また、現場も張り詰めた空気となり、プレッシャーで押し潰されそうになった時だった。
「──よし。円陣でもするか。é4clat集合」
邪魔にならない舞台袖で、ぎりぎりまで様子を見守ってくれていた一ノ瀬さんは、突如メンバーを招集した。
リップロールやストレッチをしたりなど、思い思いの準備をしていたメンバーが動きを止めて一ノ瀬さんの元に集まると、誰からともなく、自然と円になって肩を組んだ。
「今日は君達にとっても、プロジェクトとしても大切な分岐点となるだろう。
だからこそ、君達には今まで見つけてきた輝きを思う存分解き放ってほしい。そして、見つけるんだ。新たな輝きを。
あれを見て。これだけの人達がステージの前で君達を待ってる」
観客席を映したモニターには会場に流れるBGMに合わせて、無数の光がライブの開幕を今か今かと楽しみにするように、ゆらゆらと揺れていた。
「1つの光だと頼りないのかもしれない。だけど、多くの光が。4人が揃ったら、無敵の輝きになれるんだ」
「それなら。4人じゃなくて6人、でしょ」
日向は一ノ瀬さんを見て、穏やかに微笑みながら言った。彼が発言した6人とは、一ノ瀬さんとマネージャーの佐藤さんを含めてのことだ。
佐藤さんは、ステージ裏までの移動に付き添った後、今日は、いち観客として観たいと言っていたので、きっと今頃は関係者席でお客さんと共に開幕を待ってくれてるだろう。
一ノ瀬さんは日向の言葉を受けて、納得した顔で頷いた。
「そうだったね。確かに僕達は、6人で1つのチームだ。
それじゃ、大切なことを思い出させてくれた
「え〜。そういうのは
む〜、と不機嫌な猫のような口をした日向は、続けてハッとした表情で夏樹の方を見た。
「ねぇねぇ。折角だしさ、例の言葉で言ってみない? ね、夏樹くん」
「あぁ。前のオフコラボで話してた奴のことか。よっしゃ、やるぞ」
そういえば、前にユニットでの決め台詞を決めようなんて話もしていたな、と思い出した私は、一ノ瀬さんは把握していないと思って、急いで自分達が言う言葉を教えた。
コクンと頷いた一ノ瀬さんを横目に、
夏樹は皆んなの顔を見回した後、顔を下に向けて息を吸い、勢いよく空気を吐き出した。
「眩しい光となって全てを照らせ。俺達の名前は」
「「「「「é4clat!!!!!!」」」」」
* * * * *
定刻となり、観客席を照らしていた照明が消えて暗闇に包まれる。いよいよ始まるのだと期待する観客の悲鳴に似た声が会場に響く。
メインの液晶モニターには、é4clatのメンバーのビジュアルと名前が1人ずつ現れていく。今回の為に作られた映像は、ライブへのボルテージを徐々に上げていく。また、オープニングを飾るように大きくライブタイトルが出ると、再び観客席から歓声が響いた。
観客席正面にある画面には薄っすらと4人の姿が映り、ライブ用の特殊なイントロが流れて、順番にスポットライトが彼等を照らした。
玲・日向「今、始めよう」
夏樹・冬羽「夢の続きを」
照らされた表情と共にビシッと手を前に出せば、客席からキャ〜と黄色い悲鳴が上がった。そして、Aメロが始まる前のイントロで、日向から順に観客に言葉を投げかける。
「é4clat 1st Liveに来てくれてありがとう〜」
「配信のコメントも見えている。共に盛り上がっていこう」
「オレ達の輝きから目を離すなよ!」
「それでは、聴いてください。『Reboot』」
本来、é4clatが担当する予定だったTechnical Nova-テクニカルノヴァ-のアニメエンディング曲『Reboot』。完全なメンバーが揃わずに夏樹と玲のユニット『Soare(ソアレ)』で歌うこの曲。以前、エピソードトークで4人想定で制作されたと話したことはあったが、こうやって本来のメンバーが揃って歌唱するのは初めてだ。
改めて、一度完成された曲を追加で歌うことは怖かった。しかし玲が「夏樹と歌った時から感じてはいたが、やはり、この曲は4人で歌うことで完成する。だから、お前は正々堂々と歌え」と言ってくれたことで、恐怖心が解れたように思う。
私は練習の成果を見せるべく、一生懸命に体と口を動かす。日向にはダンス、玲には歌、夏樹にはカッコいい決めポーズを教えてもらい、練習する日々を思い出しながら。
あっという間に時間は過ぎ去って、カバー曲メドレーも終わり、MCタイムに入った。
ステージには4人が勢揃いし、1人ずつ簡単な自己紹介をしていく。同時にコンサートライトの色が変わり、特にステージから見えた景色は圧巻だった。こんなにも綺麗に一色だけの世界など見たことが無い。
私が光に目を奪われて言葉を失なうが、夏樹の言葉で、ふと我に帰った。
「よし。これで自己紹介も終わった訳だが、オレと玲は早速、次の準備をしなくちゃな。ということで、日向と冬羽にMCを任せた!」
「もちろん。たっぷり準備してきてね。いってらっしゃ〜い。
さて。2人とも捌けたけど……冬羽ちゃん。この隙に何かしておきたいことってある?」
日向の振りに対して、私は事前に打ち合わせておいた通りの提案を返す。
「この隙に、って。それじゃ、こんなに沢山の人がいるならコールアンドレスポンスとか、どうかな」
「うん、いいね。やっちゃお」
まずは僕から、と言って日向が観客席に向かって質問を投げかける。
「今日を楽しみにしてた人〜」
500人を超える観客は声を揃えて「イェーイ」と応える。
「次は冬羽ちゃん」
「うん。えっと、朝ご飯、何食べましたかー」
ワンテンポ遅れて、観客席からポツポツと声が聴こえた。私の所には「食パン」と応えた声が届いて、反抗した訳では無いが、語気を強めて応えてしまう。
「私はご飯を食べました」
「いやいや。朝ご飯じゃなくて、もっと一体感が生まれるような質問にしなくちゃ。ていうか、冬羽ちゃんリハーサルでも、その質問だったよね」
「リハーサルのことまでバラさなくても……」
日向によるツッコミと突然の裏側公開に狼狽えていると、彼は気を取り直してコールアンドレスポンスを続けていく。そんな日向の横で、私はレスポンスに合わせて拳を振り上げ、お客さんの反応を煽ってみる。
少し経って、スタッフさんからのカンペが出て、日向が締めの言葉を言った。
「それじゃあ、みんな。この調子で最後まで盛り上がっていこうね。次は、お待ちかね。あの2人の登場だよ」
「それでは、どうぞ」
言い終わった瞬間、ステージのライトが消えて寒色の光が一面を照らす。その奥から、ジャーンとギターの音が会場を揺らした。
「ここからはSoareの時間だ!」
「俺達に着いてこい」
ライブにぴったりなロック調の楽曲は、2人の生演奏によって、更に熱を増していく。
夏樹と玲が組むユニット『Soare(ソアレ)』は玲がエレキギターを嗜んでいることもあり、ロック調の楽曲を中心に展開している。
また、夏樹は今回のライブに向けて、こっそり玲にギターの弾き方を教わっていたらしく、リハーサルで弾き始めた時には驚いた。特に日向は「楽器始めたのなんで教えてくれなかったの」と夏樹を問い詰めたが、「ヒーローはカッコよく登場するだろ。だから、お前達にはカッコ悪い所は見せたくないと思った」などと言い返され、本番を通して、まさに彼のこだわりを見せつけられた。
主に歌で魅せる2人のパフォーマンスが終わると、次は私達の出番だ。歓声が少しずつ止み、今度は暖色系のライトが会場を照らしてイントロが流れ始める。
「次は僕たち『アオハル倶楽部』だよ。一緒に楽しんでいこうね」
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