#5 引き立て役

「──ハハッ。新ユニット、中々面白くなってきたじゃないか。

 一ノ瀬。やはり、君をプロデューサーにして正解だったよ」


「お褒めいただき恐縮です。社長」


 社長と呼ばれた彼女は書類を一ノ瀬に返し、賞賛の言葉を贈った。

 顔には真っ赤な口紅と厚化粧を施し、縦巻きにしたロング髪を手で払う。そして、足元を赤いハイヒールで飾る彼女──三ツ星 望夢のぞむは、これでも大御所と呼ばれる元声優で、声優事務所ダイヤモンドダストを大手声優事務所と呼ばれるまでに成長させた張本人だ。

 彼女からの辞令により、マネージャーからプロデューサーになった一ノ瀬だが、手腕に関しては昔馴染みということもあって、かなり信頼している。それ故に、ニヤッとした彼女の表情から何を言おうとしているか、予測もお手のものだ。


「それにしても、これからが楽しみだ。特に、霜月しもつき冬羽とわ。まさか霜月遥の妹とは驚いたが……彼女、至って普通だろ。本当に彼女で良かったのか」


 疑うような鋭い眼差しと共に予想通りに告げられた言葉は、これまで多くの人達が試された一方で、進むべき道を照らしてきた。一ノ瀬は、それが目に見える形となったのが『Project étoile』であると、感じていた。

 一ノ瀬は彼女から目を逸らさず、真っ直ぐに見つめる。


「三ツ星社長が仰られることも分かります。まさに彼女は何処にでもいる普通の女の子で、兄である遥が存在する限り、一筋縄にはいかない。

 だけど、僕には見えたんです。彼女を見た瞬間、そこには確かにがあった」


 一ノ瀬が自信満々に告げると、三ツ星は彼から視線を遮るように瞼を下ろす。そして、ゆっくりと開けて、昔を思い出すように遠い目をしながら、呟いた。


「輝き、か。君が霜月遥を担当したいと言い出した時を思い出すよ。

 しかし、我が社の一世一代のプロジェクトを任せる者としては、相応しい答えじゃないか。

 では、精々頑張ってくれよ。君?」


「えぇ。ご期待に添えるよう、誠心誠意努めてまいります」

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