第40話 試練開始~ゴルドー編~

〈side ゴルドー〉


 みんな分かれて、それぞれが課題に取り込む。


 僕もまた、自分の課題と向き合っていた。


 僕の前に立ちはだかるのは、ミラーボールというモンスター。


 最初はスライムのような姿をしていたが、僕が触れてから、僕そっくりの姿になった。

 姿だけでなく、感じる魔力の気配までそっくり。

 自分がもう一人立っているのではないかと錯覚するほどだ。


「こうも似ていると、なんだか気味が悪いな……」


 若干の気持ち悪さを感じながら、僕はリーシェから渡された箱を開ける。

 武器の詰め合わせセットと言わんばかりのラインナップ。

 ほとんどの武器を網羅しているのではないだろうか。


 試しに剣を一本、取り出してみる。

 魔剣でこそないものの感じる重さや手触り、振ったときの感触。

 どれもがただの剣ではないことを思わせる。

 そして、その感覚は剣だけではなく、他の武器にも共通していた。


「まさか……」


 詰められている武器を全て取り出し、全てを〈鑑定アプリーズ〉にかけてみる。

 結果は全てが超級であることを示していた。

 超級の武器ともなれば、その道のエキスパートが持つレベルの装備だ。

 その武器を全て売却したなら、当分は遊んで暮らせるほどの金額が手に入る。


 そんな代物をポンと渡せるリーシェは、凄腕の鍛冶師ということなのだろう。


「全く……凄いことになったもんだ」


 おそらく数百万はくだらないであろう剣を握る。

 武器を理解するということにおいて、申し分ない装備。


 これで何も掴めなければ、この先の成長はないだろう。


「さて、相手はお待ちかねのようだね」


 僕が剣を持ったことを読み取ったのか、既にミラーボールの手には同じ剣が握られている。


 相手を見据え、剣を構える。


 少しの違和感。

 武器を持って、構えを取るのは軍の養成学校以来か。


 そんなことを考えながら、魔力を高めていく。


「行くぞ!」


 思いっきり地面を蹴って、ミラーボールへと斬りかかる。


 上段からの振り下ろし。

 それを向こうは真っ向から受ける構えだ。


 ガキンッ!

 剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。


 本気で振り下ろした一撃は相手を後ずさりさせる。

 わずかながら態勢も崩しており、完全な隙。

 これを見逃す手はない。


 すかさず距離を詰めて、連撃。

 三度ほど打ち合い、ミラーボールの態勢は大きく崩れた。


「これで終わりだ!」


 ガードの空いた胴体に一閃。

 我ながら見事なまでに真っ二つとなった。


 ドチャッという音と共に、分かたれたそれぞれの半身はスライムの姿へと戻っていく。


「なんだ……案外大したことはないな」


 あっけない終わりに拍子抜けする。

 もっと強いものかと思っていたが、そうではないようだ。

 

「さて……ここからどうするか……ん?」


 視界に捉えた異変。

 それは武器の入っていたボックスだった。

 ピカピカと発光を繰り返し、何かを示しているかのよう。


「おめでとうございます! 一回目の勝利です。次のレベルに移行します」


 突然発せられる声。

 間違いなく目の前のボックスから聞こえている。


「次?」


 僕が疑問を抱いた次の瞬間。

 視界の端で何かが動くのが見えた。


 先程までスライムだったものが、蠢き、形を再び形成していく。


「これより勝利数のカウントを開始します。対象武器、長剣。達成まであと九百九十九勝です」

「……なんだって?」


 僕の耳が壊れていなければ、達成まであと九百九十九勝と聞こえた。


 これを途方もない数を繰り返すというのか。

 あまりの数字に少し動揺してしまう。


 だが、そんな中でも容赦はないようで。

 既に態勢を整えていたミラーボールが斬りかかってきた。


「くっ……!」


 対応が遅れながらも何とか防ぐ。

 少しよろめきながらも、踏ん張って耐える。

 そこから顔を上げると、


「っ――――」


 そこには剣を振りかぶったミラーボールがいた。


「っ!」


 咄嗟に打ち合うが、完全に後手。

 僕は瞬く間に押し切られてしまう。


「(まずい――――)」


 甘くなったガードが完全に弾かれた。


 迫る剣。

 僕の剣はもう間に合わない。


「武装脚! 〈大盾シールド〉!」


 唯一動かせた足で武装拳の応用、武装脚を発動し、何とか受けきる。

 それでも勢いは殺しきれず、身体が大きく吹き飛ばされた。


「ぐっ……」


 地面に打ちつけられた痛みを感じながら、立ち上がる。


「指定された武器以外での戦闘行為を確認しました。指定武器での戦闘を行ってください。次回よりペナルティの付与を行います」


 ボックスは淡々と言葉を発する。

 

 今のは違反行為ということなのだろう。

 さすが、抜かりのない設定という訳だ。


「それにしても、今の動きは……」


 不意を突かれたとはいえ、態勢を崩させてからの追い込み。

 この動きは先程、僕がミラーボールを追い詰めた時と同じ。


「能力のコピーだけでなく、学習もするのか……?」


 そう考えると、ゾッとする。

 何せ、千勝するまでの間にその都度学習するのだ。

 見つけた勝ち筋もその次には相手の戦略となり得る。

 これほど恐ろしい敵はない。


「なるほど……。これは骨が折れそうだけど……確かにいい課題だ」


 一つの武器で千通りの勝ち筋を見つける。

 さらにその相手はこれまでの勝ち筋を学習し、容赦なくぶつけてくる。


 攻撃をする側と受ける側の双方の視点から戦い方を実感することができる。


 間違いなくこれを達成した時には、その武器のことは完全に理解することが出来ているだろう。

 その自分を想像して、少し笑みがこぼれる。


「みんなも頑張っているんだ。僕が音を上げる訳にはいかないな!」


 途方もない課題に面食らった自分を奮い立たせる。

 

 新しい仲間を迎え、冒険を始めたばかり。

 こんなところで屈している場合ではないのだ。


 そんな決意を胸に秘めて。


 僕は再び武器を構え、敵へと意識を集中させた。

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