第38話 試練開始~ルーシェ編~
〈side ルーシェ〉
各々が試練に取り組み出した頃。
私は魔力の鳥、エレメントバードと相対していた。
本来、エレメントバードは手に乗せられるようなサイズのモンスターである。
だが、私の前で翼を羽ばたかせるそれは、巨鳥そのものであった。
それもそのはず。
このエレメントバードは姉、リーシェの特別製。
魔力濃度が10倍になった代物だ。
身体が魔力そのものである魔力生物は魔力の性質を反映させる。
そのため、濃度が高くなっていることで身体の大きさを巨大化させているという訳だ。
ちなみに構成する魔力が炎や雷など属性を帯びていれば、その属性も付与されたりする。
「さて、どうするか」
魔力の巨鳥を目の前にして、私は思い悩む。
リーシェが言っていた通り、魔力生物は物理攻撃ではダメージを受けない。
魔力による攻撃が唯一の攻撃手段となる。
なので、魔力による直接攻撃もしくは魔力を帯びた武器等で攻撃すればよい。
ただ問題なのは、自分より魔力が少ない攻撃を受けた場合にその魔力を吸収してしまうという特性である。
私の弱点は攻撃の軽さ。
すなわち、攻撃に込められた魔力量の少なさにある。
これは先のレガノスとの戦いやメカワームとの戦いで感じていたことでもある。
どうしても魔力をコントロールし、技として高い精度で繰り出すことに意識が取られてしまう。
レガノス戦でディノが見せた、コントロールは二の次でとにかく大きな魔力を扱うという戦い方とは全くの真逆。
それに今更、全開の魔力をぶつけろと言われても、その方法のイメージがつかない。
だからこそ、思い悩んでいるのである。
「しかし……このままでも埒があかん」
私は剣を抜く。
魔力の熾りと共に僅かな風を感じる。
とりあえずは自分の目一杯をぶつける。
「ウェント……」
魔力を高め、剣に込める。
その高まりに呼応して、剣の周りには風が渦巻いていく。
「ストライク!」
真っ直ぐ突き出された剣から竜巻が伸びていく。
風音を轟かせながら、伸びる竜巻。
それはエレメントバードを飲み込んでいく。
「……ダメか」
ウェント・ストライクを放ちながら、抱く違和感。
攻撃は確実に命中しているはずなのに、その反応は全く衰える様子を見せない。
それどころか、徐々に反応が大きくなっている気すらする。
「……やはり今のままではどうにもならんか」
攻撃を止め、剣を収める。
エレメントバードは僅かに大きさを増し、元気に羽ばたいている。
どうしたものか。
魔力の出力を上げる。
その方法について再び思案する。
しばらくの熟考の後。
考えに考えて、捻り出した案。
実用的というにはあまりにも程遠いものであった。
その案とは、反転化。
代々伝えるエルフの特性のようなものである。
エルフは自身の魔力が過剰に高まると、魔力が反転する。
リーシェの試験でディノと戦った際に本意ではないものの見せた姿がそれだ。
反転化すれば、魔力の属性を失う代わりに魔力量が一気に増大する。
しかし、それは本来の魔力の波長を狂わせてしまうため、制御は難しい上に暴走の危険性も高くなる。
反転化に至る者も少なからずいるが、まず使おうと思うエルフはいない。
「だが……もはやこれしか……」
正直なところ気は進まない。
とはいえ、他の手段が思いつかない以上、状況を打開するにはこれに頼る他ないのが現実なのだろう。
そうなると残る問題は魔力だ。
反転化に至る程までに魔力を高めなければならない。
今の私では自力でそこまでの魔力を上げることは不可能。
だから外部から魔力を調達する必要がある。
私の目の前には濃厚な魔力を持ったものがちょうどいる。
「お前を倒すため、お前から魔力を貰うぞ」
エレメントバードは魔力そのもの。
であれば、これを取り込むことが出来れば活用できるのではないか。
「〈
私はエレメントバードに向けて、スキルを発動させる。
〈
今回の用途は少しそこからは外れるが、同じ魔力を対象とするなら、問題ないだろう。
事実、スキルは支障なく発動している。
ただ誤算だったのは、エレメントバードが持つ魔力の性質だ。
「これは…………なんという濃度だ」
私たちが使用する魔力とは比べ物にならないほどの魔力濃度。
それは魔力自体に生命力が宿っているためだ。
想定はしていたが、リーシェの調整も相乗して、とんでもない濃度になっている。
人間や魔力の乏しい魔族なら、一瞬で中毒症状を引き起こしてしまうだろう。
煌魔を使う幻想種の私ですら、頭がクラクラして気分が悪くなっている。
「これほど、とは、な」
吐き気を堪えながら、魔力を吸収し続ける。
もう少し。もう少し。
自分にそう言い聞かせながら、意識を保つ。
そして、その時は訪れる。
「くっ……つ、くぁ……」
限界まで吸収した魔力が私の中で暴れている。
魔力を抑え込みながら、何かが内から込み上げてくるのを感じる。
「く、あああああああ!」
叫び声と共に、これまで抑えてきたものが飛び出してしまうような感覚。
激流の如き、魔力の流れを感じながら、必死に落ち着かせる。
「ふぅ…………はぁはぁ…………」
やっとのことで暴れ回る魔力を抑え込む。
だが、抑え込むことが限界だ。
この魔力を使用するために少しでも解放してしまえば、もう私には手に負えない。
肌の変色や魔力の量を見るに、反転化は成功しているようだが、これでは使い物にならない。
「これを、制御する…………か」
そんな言葉を口にしながら。
少しの気の緩みだろうか。
それとも体力の限界か。
膝が抜け、倒れ込んでしまう。
倒れ込むと同時に徐々に意識が薄れていく。
今まで張りつめていたものが全て解けていくように。
薄れゆく意識の中、ただ脱力感を感じていた。
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