第37話 蒼海砲

 魔力収束に反応してゴーレムがおそらくゴーレムが動き出す。


 姿を見せないゴーレムを警戒しながら、魔力をどんどん収束させていく。


 より濃く、より強く。

 収束すればするほど、反魔法への対抗力は上がる。


 来た。


 意識を上ってくるゴーレムの反応。


 ゴーレムは…………背後!


 放たれるレーザーを回避しながら、次の動作の準備に入る。

 収束した魔力はまだ保てている。


「収束率の上昇を確認。攻撃を継続します」


 ゴーレムの音声と共に、再び全方位からレーザーが放射される。


「そんなもので……!」


 一度は見た攻撃。

 それに迷うことなく、僕を狙ってくる直線的な起動。


 もう驚きはしない。

 回避と迎撃をこなしながら、ゴーレムとの距離を詰めていく。


 握られた蒼鎌には、はちきれんばかりの収束した魔力が込められている。


 ゴーレムも負けじとレーザーを連続発射するが、もはや時間稼ぎにすらならない。


「終わりだ」


 間合いを詰め、鎌を振りかぶる。


「……さらなる収束率の上昇を確認。最終形態に移行します」

「させるか……!」


 挙動を変化させ始めるゴーレムに攻撃のタイミングを早める。


 繰り出される一撃。


 鎌は確かにゴーレムを捉えた。


「くっ…………」


 撃ち込んだ魔力は申し分なく、コアを破壊するに足るものだった。


 しかし。


「コアの損傷を確認。損傷率三十七パーセント。最終形態の維持に問題ありません」


 外した。

 いや外されたというべきか。


 あの瞬間で不穏な挙動を始めたゴーレムに僕は攻撃のタイミングを早めた。

 それによって、本来撃ち込むべき経路からわずかにずれてしまった。


 ただズレと言っても、精々が数ミリ。

 その程度のズレでは致命的な損傷は防げない。


 故にゴーレムが健在である理由はそれだけではない。

 

 もう一つの理由は形態の変化だ。

 ゴーレムの形態が変わり始めていたことでそもそもの標的が移動した。

 一秒にも満たない時間での変化だが、それが僕自身のズレと重なって、コアを破壊し損ねてしまったのだ。


「最終形態、完全起動。攻撃制限を解除。目標を排除します」


 ゴーレムの目が僕を捉える。


 最終形態と称したゴーレムは再び人型へと戻った。

 二本の足は短くなり、そこからは絶えず魔力が噴出して身体を宙に浮かしている。


「くる……!」


 目の前にはゴーレムの拳。

 さっきよりもスピードが上がっている。


 しかし……対応できないほどじゃない。


「ふっ!」


 鎌の一振りで拳をいなす。


 ゴーレムはすぐに態勢を立て直し、追撃の構えを取っている。


「魔力砲、広域放射」


 こちらに突撃しながら、レーザーがまき散らされる。


 高速機動による攻撃とレーザーによる無差別攻撃。

 スピードと手数で向こうは勝負してくるようだ。


「受けて立つ……!」


 全力で魔力を熾す。

 身体中から漲ってくる魔力に今までとは違う感覚を覚える。


 魔力がどこから湧いてきて、どこへ流れていくのか。

 それが手に取るように分かる。


 今なら僕の魔力を完全に引き出せる気さえする。


「はああああああ!」


 迫りくるゴーレムと打ち合いながら、降り注ぐレーザーを払っていく。


 圧倒されそうな手数を前にしても、全く恐れを感じない。

 それどころか漲る魔力が僕に自信をくれる。


「(これが僕の力――――)」


 息をつく間さえない攻撃の応酬と対峙する中。

 熾した魔力が自分の身体に馴染んでいく感覚が身体中に広がっていく。


 やがて、その感覚が全身を満たす頃には、もはやゴーレムとの力量差は明らかとなっていた。


「……目標の損傷、軽微。魔力反応、増大。殲滅兵装での排除を実施します」


 ゴーレムは動きを止めると、両腕を合わせて前へ突き出す。


「魔力……臨界。発射準備」


 突き出された両腕の先には魔法陣が展開され、ゴーレムの魔力がそこに注がれていくのが分かった。


「それが最後の奥の手なんだね。なら僕も」


 ゴーレムと真っ向から睨み合い、蒼鎌を構える。


「……〈収束セット〉」


 僕の中で魔力を収束させる術式が展開する。

 収束させた魔力はよどみなく、構えた武器へと流れ込んでいく。


 あまりの魔力濃度に魔力を帯びた鎌からは稲妻が走る。


「発射準備完了。 これより収束魔力砲の照射を開始します。 挑戦者以外は直ちに退避してください」


 ゴーレムからの警告音が周囲に響き渡る。

 どうやら向こうは準備が整った様子だ。


「警告終了。 収束魔力砲、発射」


 その瞬間、一気にゴーレムの魔力が膨れ上がる。

 そして、展開された魔法陣からその場を激しく照らす光が放たれた。


 怒涛のような魔力の奔流を前に、僕は一つ息を吐く。


「……僕も行くよ!」


 強く握りこまれた両手の先には限界まで溜めた魔力の刃。

 稲妻すら纏う刃が今、放たれる。


「蒼海砲!!」


 振るわれた刃先から伸びるは、蒼き光。

 光は僕たちの行き先を照らすが如く、真っ直ぐ進んでいく。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ぶつかり合う二つの光。

 ほんの一瞬、拮抗した後に。


 蒼き光は全てを飲み込んだ。


「…………出力、想定外。迎撃ふの――――」


 ゴーレムの声がかき消えると同時に蒼海砲が直撃した。


 その威力は凄まじく、コアを破壊するどころか、上半身をほとんど消し飛ばした。

 放った僕でさえ、その光景には目を疑うほど。


 今、僕の目の前には足だけのゴーレムが無惨にも残されていた。

 コアを失ったことで魔力も失い、次第にパラパラと崩れかけている。


「……やりすぎた気もするけど、とにかくクリアだ……!」


 やり遂げた達成感に後ろから倒れ込む。


 その瞬間に〈魔核再製ミスエイト〉が解除されたブルーが上から降ってきた。


「ブルー、やったね!」


 倒れ込んだまま、ブルーを抱きしめる。

 ブルーもまた僕の顔に身体を擦り付け、喜びを表してくれている。


 まだ、最後の仕上げは残っているけれど。


 この瞬間だけは全て忘れて、勝利の余韻に浸るのだった。

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