第36話 進展
魔力修行を始めて、2日目、3日目とあっという間に日は過ぎていく。
そして、二週間が経ったある日。
転機が訪れた。
来る日も来る日も魔力に向き合う毎日。
やればできるという言葉は伊達ではないようで。
最初は半分も捉えられなかった魔力の流れも今では七割近くまで捉えられるようになっていた。
ただ、問題だったのは七割から伸び悩んでいるということだ。
毎日少しずつでも魔力を捉えられる量は増えていた。
だが、七割に達してから早一週間。
一向に進んでいる気配が得られていなかった。
「はぁ……」
今日こそと思いながら挑み、また同じ結果にため息が出る。
方法はあるのだとしても、こうも進展がないと不安が募る。
どうすれば。
そんな考えが頭を埋め尽くす。
前向きだった気持ちにも暗雲が差す。
「……良くないね」
気持ちが沈みそうになるのを何とかこらえる。
こんな時は頭を一回リセットしよう。
もう一度最初から考えてみることにする。
今、僕の目の前には一体のゴーレム。
防御は強固で力ずくでの破壊は不可能。
破壊のための方法は一つ。
体内にあるコアに魔力を届かせること。
そのためには――――。
そこまで考えて、ふとあることに気づく。
僕の目的はゴーレムの破壊。
すなわち魔力をコアに届かせることで破壊できればいい。
であれば、何も魔力の流れを
コアの位置とそこまで魔力を通す経路が分かればそれでいい。
僕はもう一度ゴーレムに意識を向ける。
捉えきった流れの中にぼうっと浮かんでくる、他とは違う反応。
今まで気づかなかったが、間違いなくコアの反応だ。
おそらく今までよりも魔力をより多く、より細かく捉えられるようになったことで見えてきたのだろう。
後はコアに通じる経路だ。
それも既に七割近くの流れを掴みきった今なら、探し出せるはずだ。
「ブルー! 〈
僕は横で見守る相棒を呼んで、その姿を蒼鎌へと変化させる。
「これで……!」
鎌の刃先に魔力を込めて、ゴーレムへと走る。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
構えた蒼鎌を思い切り振り下ろす。
キンッという音が響いて、魔力がゴーレムへと撃ち込まれる。
流れていく魔力を感じながら、その反応を見守る。
「……どう、なった?」
込めた魔力が流れきり、僕は鎌をゴーレムから離す。
外見からは何も変化は起きていない。
ダメだったのか……?
そう思って、ゴーレムから目を離そうとした時。
ゴゴゴゴゴゴとゴーレムが小刻みに震え始めた。
そして体中に、光が灯っていく。
「……魔力浸透率が三十パーセント以上を感知しました。これより第二形態へと移行します」
「え?」
突如としてゴーレムから発せられる声。
それに続くようにゴーレムの身体が変化していく。
先程の二足歩行の形から四足歩行へ。
さらに体の尾部と思われる場所には何やら噴射口のようなものがついている。
「戦闘中の挑戦者に警告します。これより十秒後に攻撃を開始します。十、九、八――――」
「え、ちょ――――」
いきなり始められたカウントダウンに思考が追いつかない。
それに十秒なんてあっという間に終わって――――。
「三、二、一。攻撃を開始します」
「え」
その瞬間、ゴーレムの魔力が一気に高まっていく。
まるで爆発のような音を発しながら、後ろの噴射口から魔力を噴射したかと思うと。
ゴーレムは真っ直ぐに僕へと突進してきた。
「うわっ――――」
魔力によって加速されたゴーレムの巨体。
咄嗟に防御の構えを取るが、いとも簡単に吹き飛ばされる。
「いった……」
思いっきり尻餅をつき、鈍い痛みがお尻に響く。
「一体、何なんだ……」
僕を吹き飛ばしたゴーレムは今も魔力を噴かしながら、こっちも見ている。
完全に臨戦態勢といった感じである。
さっきまで置物のようにピクリとも動かなかったのが、噓みたいだ。
「……とにかく、進んだってことかな」
ここにきてやっと得られた変化。
さっきの一撃でゴーレムを破壊できなかったのは残念だが、進捗を感じられたのは少し嬉しくもある。
僕は武器を構え直す。
ゴーレムを警戒しながら、さっきの出来事を振り返る。
ゴーレムが発した言葉だ。
気になることが多分に含まれていたが、特に魔力浸透率という単語。
ゴーレムは三十パーセント以上と言っていた。
僕は確かにコアを捉えて、破壊するに十分な魔力を撃ち込んだはずだった。
それで三十パーセント。
あまりに少なくはないだろうか。
理由が何かある。
そう考えを巡らせて、一つのことに思い至る。
最初のリーシェの説明。
身体を形作る物質には魔力伝導を減衰させる反魔法物質を混ぜ込んでいる。
確かそんなことを言っていた気がする。
だから、全力で放った一撃もコアに届くことはなかった。
コアを破壊するにはさらに魔力を収束させて、出来るだけ分散によるロスを防ぐ。
魔力を捉えやすくなったことで自分の魔力もまた引き出しやすくなっている。
魔力量は十分。
後はそれを届かせるだけだ。
「もう少し……」
意識を今度は自分の魔力に集中する。
「魔力収束……確認。妨害を開始します」
ゴーレムから無機的な声が発せられたかと思うと、体中の継ぎ目から魔力光が見える。
「魔力砲、広域放射」
魔力光はさらに強まって、一斉に僕へと放たれる。
「なっ――――」
僕は自分の魔力から意識を切って、回避に専念する。
多方面から押し寄せる魔力レーザーは容赦なく、こちらを狙ってくる。
さらに質の悪いことに、このレーザーは追尾式ときた。
回避しては、鎌で打ち払う。
一発の威力は大したことはないが、連続でくるとかなり堪える。
「これで……最後!」
放たれた最後のレーザーを打ち払う。
さて、これで――――。
再びゴーレムを捉えようとして気づく。
いない。
あれほどの巨体、見失うはずなどない。
一体、どこに。
辺りは見回しても、その姿はどこにも見当たらない。
ともかく、少し休める。
構えた武器を下ろそうとして、
「――――っ!」
突然、膨れ上がる魔力の反応。
咄嗟に振り返ると、そこには銃口。
「うわぁぁぁ!」
考える間もなく、横に飛びのく。
その瞬間、さっきまで僕が立っていたところを魔力レーザーが通過した。
「一体どこから……」
どこからともなく現れたゴーレムを見る。
すると、ゴーレムはゆっくりと背景に溶け込むように消えていった。
「まさか……〈
さっきまで感じられていたゴーレムの反応が次第に消えていく。
「くっ――――」
ただでさえ、コアへの道筋を捉え、収束させた魔力を撃ち出すだけでも大変なのに。
高速移動、魔力砲による攻撃に〈
こうも次から次へと出てくる厄介な要素に感心すらしてしまう。
だが、確かに感じる。
このゴーレムとの戦闘で明らかに僕は強くなっている。
ここを越えれば、僕は皆を守れるだけの力を掴み取れる。
そんな確信が僕の中に芽生え始めていた。
「さあ、ここで決めるよ……!」
敵は強い。
しかし、倒す道筋は見えた。
僕は再び武器を構え直す。
そして、魔力の収束を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます