間章
第15話 つかの間の……
ステイル遺跡から〈
気づけば、真っ白な空間の中にいた。
上も下も右も左もない、ただ白いだけの場所。
その白さはかつての魔王との思い出を彷彿とさせた。
思い出というには物々しいかもしれないが。
そんなことを思いながら、これまでのことを振り返る。
ステイル遺跡。
遺跡調査に参加した僕たちは統合軍の脅威認定を受けた怪物〈幻魔〉ズゥメルと遭遇した。
その後、パーティの反応が半分消失していることに気づき、事態を重く見たゴルドーは他の調査グループとの合流を決めた。
僕とゴルドー、ランはゼンジ、ミア、レイと別れ、反応が消えたパーティの調査に向かう。
その先で見たのは、重傷の連合軍人シン、フィアの2人とゴゥメルの配下、ビーストだった。
怒りに燃えるゴルドーが戦うも魔力を吸われたことによって窮地に陥り、ランと共に離脱。
他のパーティの調査に向かった。
後を任された僕は激闘の末、ビーストを倒したが、その直後、ゴゥメルとの戦闘に突入。
圧倒的な実力差に苦しむ中、僕は〈
戦闘の後、ランとゴルドーと合流し、空間が切り離された遺跡から脱出するため、ランは〈
そして今に至るという訳だ。
辺りには何も見えない。
ゴルドーやランたちはどうなったのだろう。
もしや転移に失敗したのだろうか。
最悪の想定が頭によぎる。
「全く、お主はこんなところで何をしておるのじゃ?」
懐かしい声がした。
ずっと頭が覚えていたその声の主は――。
「……ヴァレット?」
そこにいたのは、原初の魔王ヴァレット。
白の空間は黒き魔王をより強調させている。
「久しいなディノよ。意外にも早い再会じゃったの」
「あ……うん」
「ま、これが再会と言えるかどうかは分からんがの」
うん、ヴァレットだ。
ズゥメルの戦闘の最中、声が聞こえたが、姿までは見えなかった。
半年ぶりに見る、その姿に少し気分が高揚する。
話したいことが沢山ある。
聞きたいことが沢山ある。
再会したら、したいことが色々あったはずなのに、頭が真っ白になって何も出てこない。
「それにしても中々面白い場所に迷い込んだようじゃの。ふふっ、これはもう一波乱ありそうじゃ」
ヴァレットは無邪気な笑みを見せる。
「……どういうこと?」
「ん? そうか……お主は分かっておらんのか。遺跡から〈
幻楼郷――――。
その名は僕も聞いたことがある。
といっても噂話の中で、だが。
なんでも大地から魔力が溢れ、見たことのないモンスターが生息する秘境があるのだという。
入ることができた者は更なる力を手に入れられるとか願いが叶うとか眉唾物の噂話は後を絶たない。
その時はただの与太話と思っていたが、まさか実在したとは。
場所のことはともかく、転移先で死んでいるという最悪の展開は避けられたようだ。
「本来は立ち入れないって……でも僕らは入っているんだよね……?」
「そうじゃな。お主たちは全員気を失っているようじゃが」
「それって……大丈夫なの?」
人間が立ち入れない場所が人間にとって安全な保証はない。
遺跡から抜け出した、その矢先。
危険にさらされたのではたまらない。
「ふむ……通常なら問題はない。人間が立ち入れないのは場所の特殊さ故。幻楼郷は争いとは無縁でな。基本的に暮らす魔族は温厚じゃ」
ヴァレットは、“通常なら”と付けた。
含みのある言い方に不安しかないのだが。
「今の幻楼郷は少々厄介事に巻き込まれていての」
「厄介事って?」
「現魔王の強引な侵略によって軍が派遣されているところでな。警戒が強まっておるという訳じゃ」
「そんな……」
「温厚とはいえ、幻想種の魔力は一線を画す。お主らが束でかかっても、まず無事では済まんじゃろうなぁ」
ヴァレットはケタケタと笑う。
「ちょっと、笑ってる場合じゃ……」
「ふっ、少し冗談が過ぎたの。安心せい。幻楼郷の長は旧知の仲じゃ。ヴァレットの名を聞けば力になってくれるじゃろうて」
「……そんなに話が上手くいくかなぁ」
本来、来るはずのない人間が来ているだけで、もう既に怪しい。
さらには自分の知り合いの名前を出してくると来た。
怪しさは満点。
こんな人物を初対面で信じろという方が無茶ではないだろうか。
「何を言う。お前は余のあれを持っておるじゃろ?」
そう言って、僕の懐を指差す。
しばらく考えて、一つの答えにたどり着く。
「もしかして……これのこと?」
僕が取り出したのは業魔のオーブ。
このオーブは魔王ヴァレットのドロップアイテムだ。
ヴァレットとの繋がりがある、何よりの証拠になる。
「その通り。それを見せれば、余の関係者であることは疑いようがない」
「うーん」
ヴァレットはそう言うが、懸念点が1つ。
ドロップアイテムは基本的にモンスターを倒した際に落とす物。
つまり、オーブはヴァレットを倒したという意味合いを持つ。
知り合いを倒した者など敵以外の何者でもないような気がするが……。
とはいえ、僕の前にいるのは、かつて魔王と呼ばれた魔族だ。
その程度のことに気づかないヴァレットではないだろう。
「呑気にしている時間はないぞ。ほれ、そろそろ夢からは覚める時じゃ」
ぼんやりと視界が霞み始める。
まるで突然濃い霧が立ち込めてきたようだ。
「……最後に一つ、良いか」
さっきとは少し違うヴァレットの声。
咄嗟にヴァレットの方を向くが、視界は霞みきってしまっている。
「成長したな」
それは厳かな魔王とはかけ離れた優しい声で。
全く見えない視界の中でヴァレットは笑っていた気がした。
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