第14話 合流、そして――

「何だ……?」


 地響きはしばらく続いた。

 部屋全体に瓦礫がパラパラと降ってくる。


 僕は咄嗟にブルーを剣へと収める。

 そして重たい身体を引きずり、部屋の隅へと移動した。


「……治まったな」


 壁に身を預けて、一息つく。


 だが、さっきの地響きで随分と部屋は荒れてしまった。


 ビーストとズゥメル。

 激しい戦闘を2度も繰り返したことで、かなり脆くなっていたようだ。

 降り注いだ瓦礫は散乱し、壁や天井にはヒビが所々に走っている。


「このままじゃ……まずいか」


 大きな地響きは治まったが、わずかな揺れは断続的に起こっている。

 あと数回、いや一回。

 大きな揺れが起これば、崩落を起こすかもしれない。


「ディノ君!」


 部屋に響く溌剌な声。


「ランさん!」


 入口から入ってきたのはランだった。

 その後ろにはゴルドーの姿も見える。


「身体は大丈夫かい?」

「はい……何とか、ですが」


 駆け寄ってきた2人に肩を借り、立ち上がる。


「少しですけど、回復しますね」


 ランは僕に向かって手をかざす。


「〈治癒ヒール〉」


 魔力光が僕を包む。

 すると、少し身体が軽くなった気がした。


「ありがとう、助かります」

「いえ。私も魔力が少ないので、少しだけですけど」

「それで、ディノ君。あの怪物はどうなったんだ?」


 僕はこれまで起こったことを話した。

 怪物、ビーストとの戦闘。

 そして、その後のズゥメルとの戦闘について。


「ビースト……あの怪物を倒してしまったとは……。君は凄いな」

「はい、それにズゥメルとも戦って追い返すなんて凄いです!」

「いえ……ズゥメルは自分から退いたんです。僕は手加減されていました。もし全力を出されていたら、僕は死んでいたと思います」


 脳裏にズゥメルとの戦闘が蘇る。

 あの時は夢中でただ目の前の力に抗うだけだった。

 改めて冷静に思い返せば、恐ろしい力だ。


「……そうか。ともかく生きていて良かった。こっちは無事に怪我をしていた2人を他のパーティに託すことができた。その他の怪我人も見つけて、同様に保護してもらっている。今頃は反応が生きていたパーティは撤退しているはずだ」

「なら、僕たちも撤退しましょう。さっきの揺れでこの辺りはかなり危険です」

「ああ……そのことなんだが」


 ゴルドーは言葉を詰まらせる。


「……私たちはあの地響きの後、退路の確認をしたんです」

「だが、上の階層へと続く階段は


 僕はゴルドーの言葉に違和感を覚えた。


 地響きで瓦礫が落ち、階段が塞がっているというなら分かる。

 しかし、ゴルドーは見当たらなかったと言った。


 この階層に降りてきた時、〈記録レコード〉によって階段の位置はマッピングデータに刻まれている。

 場所を見失うことはないはずだが……。


「どういうことですか?」

「言葉の通りだよ。何度も確認したけど、マッピングされた位置に階段はなかった。それどころか、この階層のどこにもね」

「そんな……」

「詳しく調べてみると、この一帯の空間が断絶していた。先の地響きでダンジョンコアが損傷したか――詳しい理由は分からないけどね」


 せっかく生き残ったのに、帰れないなんて。

 このままでは、階層の崩落に巻き込まれるのを待つだけだ。


「でも、大丈夫。ランちゃんが〈転移テレポート〉を使えるそうだ。ディノ君のいる空間まで切り離されていなくて良かったよ」

「とはいえ〈指定転移ハイテレポート〉じゃないので行き先の細かな指定はできません。それに空間が切り離されているので、大まかな場所を掴むこともできない。私ができるのは、とりあえずここから出る、ということだけですけどね」


 〈転移テレポート〉。

 自分が意図した場所に転移させるスキルだ。

 その精度は上位スキルである〈指定転移ハイテレポート〉に遠く及ばない。

 詳細な場所を指定できない上、想定通りの転移が成功する確率も良くて半分程度。

 実用性に欠けるギャンブル的なスキルであり、取得している人は少ないと聞いていたが……。


「今は出られるだけで十分だ。どこに出たとしても生きてさえいれば、何とかなるさ」

「……そうですね。ゴルドーさんにランさんも一緒ですし」

「ああ……! ランちゃん、準備を頼めるかな」

「はい!」


 ランは魔力を高め始める。


「ん……やっぱり行き先は掴めなさそうです。……どこに出ても恨みっ子なしですよ?」


 ランはそう言って軽く笑った。


「発動魔力自体は少なくて済むので、もう飛べますよ。私の周りに来てください」


 僕とゴルドーはランの近くへ移動する。

 さて、どこに飛ぶことになるやら。

 今できるのは、祈ることだけだ。


「〈転移テレポート〉!」


 その瞬間、僕たちは光に包まれた。


 まだ見ぬ行き先へとそれぞれが思いを馳せる。


 きっと大丈夫。

 そう可能性を信じて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る