第11話 制限解除
「
剣を高々と掲げる。
すると、剣は僕の手を離れる。
1本から2本へ、2本から4本へ。
次々に剣が分裂していく。
これこそ、〈
〈分裂〉のスキルである。
分裂し、増えた剣は魔力で制御ができる。
もちろん制御には魔力が必要。
それも無数の剣となれば、必要量は膨大になる。
今までの僕なら絶対に出来ない芸当だっただろう。
だが今の僕には業魔のオーブによって増幅させた魔力がある。
その魔力を剣へと流し込み、僕とのパスを繋げる。
まずは、ゴルドーさんを助ける。
魔力をコントロールしながら、剣の挙動をイメージする。
すると、上空に浮かぶ剣が数本、ゴルドーに向けて放たれる。
魔力を得た剣のスピードは凄まじく、瞬時に嚙みついている腕を斬り飛ばした。
「これならっ!」
少し身動きが取れるようになったゴルドーが残りの腕を処理していく。
「助かった。これはカッコ悪いところを見られてしまったかな」
「いえ、それよりも無事で良かったです」
「無事か……そうでもないかもしれない」
よく見れば、先程よりゴルドーの息が荒い。
立っているのがやっと、というような雰囲気すら感じる。
「おそらく魔力を吸われたな。その証拠にほら」
ゴルドーの視線を追うと、そこには既に再生を済ませた怪物がいた。
疲労した様子など微塵も感じず、むしろ最初見た時よりも活気付いている気がする。
「そんな……回復してるなんて……」
ランが泣きそうな顔で膝をつく。
ランの方もかなり息が上がっており、限界の近さが目に見えてわかった。
きっとここが正念場だ。
「ここは僕が抑えます。2人は怪我人を連れて退いてください」
「1人でなんて無茶だ、ディノ君。奴は強い」
そんなことは分かっている。
簡単なことだとは思ってない。
「それでも、全員やられるよりはましです。幸いまだ僕は2人に比べて消耗は少ないですから。一度退いて体制を立て直してください」
最悪倒せはしなくても、時間を稼いでから逃げるくらいなら1人でもできる可能性は高い。
それにまだ色々と方法はある。
上手く行けば、倒すことだってできるかもしれない。
「さあ早く!」
事は一刻を争う。
怪我している軍人2人はどう見ても重症だ。
それに他の、反応が消えた場所でも怪我人がいるかもしれない。
こんな怪物なんかに足を止めている余裕はない。
「わかった。軍人として情けない限りだけど、この場はディノ君に任せた」
「任せてください」
「ランちゃん。俺はシンを連れて行くから、フィアを頼めるかな」
「わ、分かりました」
ゴルドーとランがそれぞれ1人ずつ担いで、出口へと向かう。
魔力も体力も少ない2人の足取りは重い。
それを怪物は見逃さなかった。
「ぐぎぎ? おまえ、にげる? えさ、にがさない」
一度迷い込んだ餌にご執心のようだ。
まだ床に散らばっていた手足を蠢かせ、2人を狙う。
「邪魔はさせない。〈
展開していた剣が数本回転を始める。
高速回転する剣は円盤のようになり、2人に飛びかかる手足を斬り飛ばしていく。
「うぅ、うぅぅぅぅ! おまえ、じゃま!」
怪物の矛先は僕へと変わった。
さっきまで執拗にゴルドーたちを狙っていた手足が一斉にこちらへと向かってくる。
随分と単純な思考をしているようだ。
僕は剣をこちらへと向かわせる。
魔力によって操作する剣の挙動は怪物の手足に比べて、遥かに速い。
あっという間に僕のもとへと舞い戻る。
「そんな鈍い動きで!」
真っ直ぐ向かってくるだけの単調な動き。
円輪刃で全て切り刻んでいく。
「ディノ君!」
戦闘の最中、ゴルドーの叫び声が聞こえた。
どうやら部屋の出口まで辿り着けたようだ。
これで少し安心できる。
「絶対死ぬな! 必ず......必ず戻ってくる!」
ゴルドーが拳を突き上げる。
その姿を見て、僕はコクリと頷く。
「ん、あぁぁぁ! にげた。にげた。にげた!」
獲物が逃げたことに激昂する怪物。
バタバタと手足を激しく動かし、地団駄を踏んでいる。
相当悔しかったと見える。
「ぜんぶ、おまえの、せい。おまえ! ころす!」
怒りが殺意へと変わる。
全身に浴びせられる圧倒的な殺意。
経験のない感覚に少し気圧される。
でも、それじゃダメだ。
奏者として導いてくれたヴァレットのため。
ここを任せてくれたゴルドーたちのため。
そして何より成長を望む自分のために。
ここは越えなくてはならない壁だ。
「今からは全力で行くよ、ブルー」
剣と一体となっている相棒に話しかける。
返ってくる言葉はない。
言葉はなくとも、剣からブルーの意思が伝わってきた。
たった1人と1匹でも越えてみせる。
「
僕の中で爆発的に魔力が膨れ上がる。
その魔力は身体だけに留まらず、この空間を魔力で満たしていく。
僕が持つこのオーブは無条件に魔力を増幅させる効果を持つ。
少しでも身体から魔力を流し続けることができれば、半永久的に膨大な魔力を扱うことができる。
しかし本当のところは少し違う。
確かにオーブは魔力を増幅させる。
それは流された魔力ではなく、所有者の魔力を吸い上げることによって。
オーブには魔力を吸い上げようとする意思があった。
そしてその意思はオーブに魔力が通り始めると、加速度的に大きくなっていく。
要求される魔力は止まることを知らず、あっという間に魔力欠乏に追い込まれてしまう危険があった。
そのため、魔道具によって抑えていたのだ。
今、魔道具による拘束を解き放ったことでオーブは僕の魔力を吸い上げ始めた。
次々に流れる魔力を増幅し、魔力が溢れかえっている。
迸る魔力は空間を満たし、稲妻を走らせる。
「
普通の人間なら、すぐに卒倒するほどの魔力濃度。
周りに誰もいなくて良かった。
「ぐぎ? なんだ、おまえ」
さすがに怪物も様子がおかしいことに気づいたようだ。
先程の激昂ぶりも鳴りを潜め、様子を伺っている。
「もう遅い。〈
この場を埋め尽くすばかりの剣が切先を向け、怪物を狙う。
「行っけぇぇぇぇぇぇ!!」
僕の合図で剣が容赦なく降り注ぐ。
もはや狙いなどない。
圧倒的な物量が怪物を斬り裂いていく。
断末魔のような叫びと地面を剣が打ちつける轟音が混じった混沌。
舞い上がる土煙が場を覆っていく。
「ぐ、ぎ、ぎぎ、が、ぎぃ」
次に目にした怪物は細切れになっていた。
だが、跡形もない肉塊でも再生が始まっている。
既に再生を終えた箇所から呻き声ともつかない声が発せられていた。
「凄い再生力だね。でも」
まだ土煙が残るこの場に再び稲妻が走る。
魔力は今なおも増幅されて流れ続けており、高濃度の魔力領域を形成している。
そして高濃度の魔力は扱いを誤ると簡単に暴走し、大規模な爆発を起こす。
「この場所はもう魔力が行き渡っている。分裂させた剣を媒介に爆発を起こせば、さすがに再生できない」
「ぐ、ぎぎ、おま、え、おで、が」
この短時間でもう半分ほど再生が済んでいる。
やはり完全に消滅させなければならない。
「これで終わりにしよう」
僕は近くに刺さっている剣を抜く。
魔力を剣が壊れない限界まで流し込み、怪物の側へと投げた。
剣は放物線を描き、再び床へと刺さる。
すると、魔力が床から浸透し、徐々に稲妻が激しさを増してきた。
「さよならだ」
数度稲妻が走った後、魔力は凄まじい爆発を起こす。
空間全体に及ぶ爆発に再生途中の怪物が抗えるはずもなく。
僕たちは初めての勝利を収めた。
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