第7話 過去を越えて

 振り返ると、そこには、かつてのパーティメンバーの姿があった。


 声をかけてきたのはリーダーのハヤト。

 その後ろには、リオとギースもいる。


「……ハヤト。リオとギースも。久しぶりだね」


 あのダンジョンで見捨て、当然ヘルタイガーに殺されたと思っていたのだろう。

 3人の顔には驚きの色が見える。


「お前もなんとか逃げてたんだな。良かったよ」


 ハヤトは僕の手を取り、握手を交わす。

 よくもまあ、ここまで白々しい態度が取れるものだ。

 ある意味感心すらしてしまう。


「まあ……なんとか、ね」

「俺はてっきり、ヘルタイガーに食われたかと思ってたぜ。なあリオ」


 薄ら笑いを浮かべながら、悪態をつくギース。

 その横でリオはいかにも気まずそうな顔をして立っていた。


「え、ええ。でも生きていたのなら良かった」

「そうかぁ? 別に俺はどっちでも良かったけどな」

「ギース。それは言い過ぎ」


 ハヤトがギースを窘める。

 だが、その表情は笑っていた。


「いい子ぶるなよ、ハヤト。お前も散々お荷物だとか言ってただろうよ」

「それは同じパーティで事実お荷物だったからさ。そうじゃないなら、別に貶す必要もないだろ? もう関係ないんだから」


 ピシャリと言い放つハヤト。

 このやり取りに感じる、どこにも居場所のない息苦しさ。

 パーティにいた頃を嫌でも思い出す。


「ドライだねえ。それはそれで怖えけどな」

「あっ、そうそう。ディノ、僕たちのパーティに君の代わりが入ったんだ。紹介するよ」


 ハヤトに促されて、リオの後ろから小さな女の子がひょこっと顔を出した。

「彼女は、僧侶のリリィだ。こう見えても、上級回復魔法を使う凄腕だよ。どこかのお荷物とは違って、とてもいい活躍をしてくれてるんだ」

「……そう」


 とげのある紹介に心底うんざりしながら、言葉を返す。


 ハヤトはこういうやつだ。

 表面上は優しそうな顔をしながら、自分にとって都合の悪い奴には容赦がない。


 ある意味、あからさまなギースよりたちが悪い。


「ところで君のパーティメンバーは? 良ければ紹介してもらいたいな」


 ハヤトは辺りを見回しながら、聞いてくる。


「......パーティメンバーはいない。僕は一人で参加したんだ」

「一人? またまた冗談だろう? 君はモンスターテイマーだろ。あの貧弱なスライム一匹で戦えるとでも? それとも新しいモンスターでもテイムしたのかい? それにしても――」

「ごめん、時間だ。また後で」


 横目でギルドのスタッフがバタバタと動き出したのを見て、その場を離れた。


 どうせ、あいつらは僕が一人で戦えないと思っている。

 それをなじることで楽しみたいだけだ。


 ハヤトたちが見えなくなったあたりで足を止める。

 それと同じタイミングでギルドスタッフからの説明が始まった。


「皆さん、この度はお集まりいただきありがとうございます。今回の仕事はこの地、ステイルの遺跡調査になります。内部構造、生息モンスターを基本として、どんなことでも構いません。皆さんにはここを踏破する勢いで調査していただければと思います。調査の名目ではありますが、ここで発見したアイテムは全て持って帰っていただいても構いません。さらに調査が成功した暁には別途報酬もお支払い致します。どうかよろしくお願い致します」


 報酬の話を聞き、冒険者たちは大いに湧き立った。

 何せここは未開の遺跡。

 財宝があるなら発見されていない可能性は高い。


 それからもスタッフの説明は続く。


 今回集まった冒険者の数はざっと四十人ほど。

 四人一組とし、そこに各国から集まった軍事組織である統合軍の軍人が二名つく形で調査が行われるとのことだった。


 僕が今回組むことになったのは、三人で活動している冒険者パーティ。

 魔法剣士のラン、盗賊のレイ、弓使いのミアの三人。

 そして、統合軍から派遣されているゼンジ、ゴルドーの二人である。


「この隊のリーダーを任されたゴルドー・リアネルです。この調査では全員が仲間だということを忘れずに。団結なくして成功はない。協力して頑張りましょう!」


 顔合わせを済ませ、ゴルドーが全体の挨拶を行っている。

 少し暑苦しい気もするが、グループのまとまりがあるのは良いことだ。


 チクリと以前のパーティの記憶が甦る。

 グループ、パーティというものに僕はいい思い出がない。

 そんなこともあってか、少し身構えてしまう自分がいた。


 だが、今回のメンバーたちは、ハヤトたちとは違っていた。


「モンスターテイマーなんですか! 凄い!」


 僕の職業を聞き、はしゃぐのはランだ。

 彼女は剣士からグレードアップした魔法剣士。剣術だけでなく、魔法の素養も問われる上級職である。

 凄いのはランのほうだと思うが、彼女は無邪気にはしゃぎまくる。


「てことは、モンスターがいるってことですよね。でもさっきから見当たらないんですけど……」


 そう聞いてくるのはレイ。

 キョロキョロと僕の周りを見回している。


「今はここにいないんです。戦闘になったら、こうやって出すんですよ」


 僕は、腰に携えた剣を抜き、念じる。

 すると剣が光を帯びたかと思うと、一筋の光が伸び、そこからブルーの姿が現れた。


 ぽちゃんと音を立てて、着地するブルー。

 その動作はミアに刺さったようだった。


「か、かわいい……」


 興味津々といった様子で、かがみこんでブルーを眺めるミア。

 少しつついたり、なでてみたり、随分と楽しそうだ。

 心なしかブルーも喜んでいる感じがする。


「……不思議な剣だ。少し見せてもらえるか?」


 そう言って、話しかけてきたのは、連合軍人のゼンジ。

 先程まで、静かだった彼がいつの間にかすぐ近くにいた。


「え? ええ、大丈夫ですよ」


 僕が剣を鞘に納め、差し出す。

 ゼンジは失礼、と剣を受け取ると、ウインドウを開いて、何か操作をし始めた。

 数分、ウインドウとにらめっこをした後、無表情だったゼンジの顔が驚きに変わった。


「ありがとう。その剣はまさか伝説級か?」


 剣を僕に返しがてら、ゼンジはそう聞いてきた。


 その問いに少しヒヤリとした。


 駆け出し冒険者である僕が伝説級のアイテムを持っていることを怪しんでいるのでは?

 もしかして、取り上げられたり?


 そんな妄想が瞬間的によぎった。


「そ、そうです。それが何か?」

「やはりか。いや、俺の鑑定スキルが効かなかったものでな。そうか……にしても見たことのない剣だが……」


 僕の手の中にある剣をまじまじと見ながら、思案するゼンジ。


 そこにゴルドーが飛び込んできた。


「おや、ゼンジが珍しい。人と話をしているなんてね」

「離れろ、ゴルドー。暑苦しい」


 ゴルドーは嫌がるゼンジをよそにじゃれつく。


「んー? ああ、また剣を見せてもらっていたのか。ほんとに好きだなぁ」


「……っと。ふう。聞け、ゴルドー。この剣は伝説級だそうだ」


 ゴルドーからするりと逃れるゼンジ。ゴルドーを警戒しながら、乱れた服を整えている。


「へえ……。確かによく見るとただならぬ気配がある。ゼンジ、彼との相性はどうだい?」

「先程、剣の能力と思われる力を使っていた。悪くはないだろうな」

「相性?」


 気になる話につい口を挟んでしまった。


「そう、相性。一部の超級もそうだけど、伝説級、神話級のアイテムは使い手を選ぶんだ。アイテムの意思とでも言うのかな。誰が使っても効果を発揮するわけじゃないんだよ」

「そう……なんですね」

「それでね。一応言っておくと、僕たちの任務にはそういったアイテムの保管、管理も含まれているんだけど……」


 ゴルドーはちらりとゼンジの顔色を伺う。


「はっきり言え、ゴルドー。出会って間もない奴の装備を取り上げるほど、俺たちは鬼畜ではない、などとお前は言うんだろう」

「流石、長い付き合いなだけあるね。その通り。大切にしなよ、ディノ君。悪用した時には、僕たちの責任問題になるからね」


 その言葉を聞いてちょっとホッとする。


「は、はい。気を付けます」


 うん、と声を弾ませ、ゴルドーは僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。


 そうこうしているうちに調査開始の時間を迎える。

 この時を待っていたとばかりに、順番に調査隊が遺跡へと入っていく。


 僕たちもその流れに続き、遺跡へと向かっていった。

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