第2話 二兎を追うもの


右手の薬指には、異世界でもらった忘れな草の指輪がはまっている。

うーん、とれない!呪いの指輪?これじゃ結婚できないじゃん。

焼肉屋の帰り道。二兎にとはなんだかうれしそうに機嫌がいい。


「忘れな草の愛言葉は知ってるか?」


「知らないけど、なに?」


「真実の愛さ!」 手を広げて自分に酔ってるね。


「ふーん、アンタが愛を語るようになるとはね、わたしと愛を育みたいなら、働け!」


「ぐ…厳しいな」


ガチャ。 二兎の家の合鍵はもっている。


「ただいまー」


二兎の家に入ると、目に飛び込んでくるのはゴミの山。

ポテチの食べかす、ポテチの袋、週刊誌に洋服の山。

やるか、私はさっさと掃除を終わらせた。


さてPCで、二兎が書いた作品をよんでみるか。


「ねらわれない学園vsセーラー服と銃器」


おお、更新されてる! 前回の更新が10年前って歴史があるね。


最新話は。。

 なになに…異世界転生された二人が、愛の誓いをした。

 ギルドマスターは、二人の新婚生活の資金をあつめるために

 薬草取りのクエストを依頼しました。


私に、あんなはずかしい目をあわせたのに。

ウエディングドレスを着せるとか、ハワイ旅行にいきましたとか。

もっとハピハピなことかけるでしょうに!


「そんな小さい時の作品より、この新作を見てくれよ!今は異世界恋愛ザマァ系が流行ってるんだって!」


1話の書き出しから、ザマァぁぁ!勝った!って

うん、わたしならブラウザバック。


さてと、二兎家の仏壇に手を合わせる。

「二兎のパパママ、今日も二兎は元気でした」

帰るよ…って言っても隣の家だけどね。


お姉ちゃんがウキウキしながら楽しそうにしていた。


「お姉ちゃん、豪華なディナーどうだった?いいなぁ、私は二兎と焼肉だったよ」


「…ああ、焼肉臭いわ」


そこから始まったお姉ちゃんの自慢話を1時間聞かされる。


私も行ってみたいな…2万円か、二人で4万円。

ドレスコードとかあるのかな?もうすぐ二兎の誕生日だな。


あいつの小説がつまらないのはニートだからかも。

ちょっとお高いレストラン経験とか、

旅行を私と一緒すれば、もっと楽しい物語かけないかしら。


ん、ねえちゃんがスマホで二兎の小説をよんでる!


「あ…!二兎の初の小説が更新されてる。10年ぶりの更新、ふーん、あんたと二兎が冒険に出る話になってるね。ギャハハハ!二兎の最新作いつみてもうける!ひっひ!あと一歩だがんばれ!がんばれ!」


そんなに笑い転げる話かな?


「あっ、、モル、、その指輪、懐かしいなぁ~」


「えへへ、二兎にもらったんだ。どう?」


「なんか、焼肉食べたあとに異世界転生しちゃって、二兎とギルドでキスしたら戻ってきたんだ」


「ねえちゃんもそれ、10年前にやったよ、ナツイなぁ。。」


うそ! 驚愕の事実!やっぱりねえちゃんと二兎ってそういう関係だったんだ。結構怪しいと思ってたんだよね。まさかのねえちゃんのおさがりなのか。。って、10年前かずいぶんと子どものころだね。おさがりというのはちがうかな?


二兎の小説を読むときのねえちゃんは、本気で笑って、しんみりして、なんか昔の恋人を思い出してるような雰囲気になってる。


わたしにとって、二兎の小説はまったくわからないし、おもしろくない、二兎とねえちゃんお似合いだよ価値観が一緒なんだよ。そんなにココロから喜ばせてくれる彼氏なんてなかなかできないよ、ホントは二人のこといろいろ知ってるんだから。でも、経済的に考えると今の彼氏が最高だよね。


わたしは、うらやましい、ねえちゃんも努力するようになったし、いい彼氏だよ。がんばれ、ねえちゃん。くそくそ!もう、くやしさも枯れ果てた。。寝よう…


次の日。


「二兎~学校行くよ~おきて~!」


二兎の部屋に入った瞬間、胸がざわついた。いない。どうした?どこ行ったの?まさか、また異世界に…?


「おーい!」


薬指の指輪が消えかかってるじゃん。

まさか、失踪?いじめすぎた?って…

あ…あのWeb小説…「ねらわれない学園vsセーラー服と銃器」おお、また更新されてる。最新話…


「人生オワタ!」

オレは二兎。愛耳にフラレた。一世一代の賭けだった。最高の小説を書きたい気持ちで、書いた小説に彼女を招待することができたが、お互いに恋愛感情が芽生えることはなかった。オレはこの世界で生徒会長と結ばれることにした。これで異世界でフラれるのは2度目だ。もう心が折れた…あばよ!愛耳もる探さないでください。


――二兎


「はぁ、こんな手の込んだことして…」


ほんとに異世界にいったのかな?

放課後にでも、スーパーダーリンガチャを買いにいってみよう。。


売り切れか。どうやって二兎のいる異世界に行けばいいかな…。

この指輪、消えるようで消えてない、二兎はどこかにいる。

どうせ、わたしに追ってきてほしいだけなんでしょ。。


めんどくさいけど、ついにわたしも小説を書くことにした。

もしかしたら、二兎の気持ちが少しは分かるかもしれない。

あいつがいつも読んでる「小説の書き方」みたいな本も借りて、

ふむふむ…なるほど、こんな風に書くのか。


タイトルは考え抜いた結果、決まりだ。

「愛耳の憂鬱、スーパーダーリン育成大冒険!」

はずかしいけど、どうせ誰も見ないし、まあいいか。


さて、さっそく第一話を書き込む。


愛耳モルは、クソ彼氏に焼肉をおごらされ、スーパーダーリンガチャを引いたら、彼の書いた小説世界に転生させられ、まさかの結婚式!セクハラでしょ!指輪をもらってちょっとだけ嬉しかったけど、彼にはまだ早い。働いて、現実でちゃんと生きてみろって!プライドだけじゃ生きていけないし、家族を作るにはお金がかかるんだよ。天国でキミの両親も心配してるよ?そんなわけで、私は「ねらわれない学園vsセーラー服と銃器」の異世界で冒険を始めました・・・』


ふー、2500文字は結構時間かかるね。


二兎がこの文章を見たら、どんな顔をするんだろう。へたなラブレターより長いんじゃないの。。ふふふ、これであいつの気持ちも少しはわかるかもしれない。いや、むしろあいつに私の気持ちをわかってもらいたい。


感想欄にこう書いた。

「ギルドマスターと旅立ったり、ねーちゃんともキスしたこの浮気者!二兎、どこに隠れてるの?さっさと出てきて、あやまりなさい!隠れてるから、わたしも小説を書き始めたよ、あなたを追うために!だから続きを絶対書いてよね!」


これでよし、絶対に二兎を見つけて、続きを書かせるんだから。

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