第2話

お昼休みを利用して、ある雑誌を手に取ってみた。

実はその雑誌を館内に並べた時から読んでみたいと思っていたのだ。

今までなら気にも止めていなかった雑誌だったが、彰吾さんと連絡を取るようになってから急に表紙の文字が気になるようになった。


相手の行動から自分への気持ちを推測したり、

占いや、どのように行動したら良いかなど、不安な気持ちを救ってくれるのだと感じた。

こうやって冷静に分析する私は、女子っぽくないのかもしれない。

相手はその人だけであって、どう思うかはその人だけのものだと思うからだ。

でも、女子がこぞって読む気持ちは理解できた。


もしかして大学の美しい先輩に〈誘惑〉されていたりして…

いやいや、深冬の分析では、

『彰吾さんは、密やかにモテるタイプ』らしい。

『あからさまにモーションを掛けてくるような女子は近付いてこないし、相手にもしない』らしいから、大丈夫かな。

『自分を貫き、浮気せずブレなそう』らしいし。

まだ彰吾さんと付き合ってもいないのに、恋愛の事となると、どこまでも先走る姉だから仕方ない。

けれど、今はそんな姉に救われている。


先月の夜ご飯の後に電話が来て、

彰吾さんの事を白状させられた。

『ランチ行こう。姉として大切な妹に近付く男子を確認しない訳にいかない〈♪〉』

『どんな男子か探ってあげるから〈♪〉』

と、抑えてはいるけれど好奇心が隠せない姉の声に負け、月初に3人でランチをしたのだ。


『2人を見ていると、良い感じだと思うよ。連絡してそれとなく聞いてみれば?』と姉は言うが、

付き合っていないし。

何より、年上女子が焦っているかのように見えないだろうか。

文字だけでは表情もわからないし、誤解を生む可能性もあると思う。

次に会った時にそれとなく聞き出すのが賢明だろう。

また耐え忍ぶ事を選択して、ため息をついた。



『内藤さん、今日は何か雰囲気が違うね。』

そう話し掛けてきたのは、先輩の八木さんだった。

『そうですか?』

『うん。何だか…ふわっとしてる。』

『…通常運転ですよ。

すみません。今日は午後からお休みをいただきます。』

『そうだったね、いつもご苦労さま。』

ニコリと会釈して、お互いに持ち場に向かった。


貸出カウンターで開館準備を始める。

わぁぁ~私、今日は浮ついているのがバレバレなのか。ちゃんとしなきゃ!


八木さんには、‘’通常運転‘’と返事をしたが、

実は、彰吾さんのお宅にお呼ばれされているのだ。

彰吾さんから電話があり、御両親が‘’気楽に遊びに来てください‘’と仰っていると聞いたが、そういう事が初めてなので、ものすごく驚いた。


図書館を後にしてしばらく歩く。

噴水近くのベンチに、彰吾さんは腰掛けていた。

そして、ふと顔を上げて立ち上がる。

いつも気配を察知するのが早くて不思議だ。


『彰吾さん、いつもすぐに私に気付くね。』

『…うん?いつもバタバタ足音がするから。』

『えっ、うそっ!』

『うそ。何となくだよ。』と笑う。


『どうしよう、緊張する…。』

『大丈夫。でも急でごめん。

電話で話したけれど、2人とも凪桜さんに会うのを楽しみにしてるよ。…特に母親が1人盛り上がっていて、張りきってご馳走を作っているみたい…』

『…うん。』

(大丈夫かな…。今日の格好、変じゃないよね?)

そう思いながら、珍しく着たワンピースを触る。


さっき見掛けた小学校が、通っていた小学校だそう。

その通学路を歩くのは、何だか面白かった。

小さな彰吾さんが見えるような気がした。


『あの、裏にちょっと木が見える所わかる?あそこだよ。』

その言葉に緊張が戻ってくる。

『うん。もうすぐだね。』


ふと彰吾さんが立ち止まった。

『ん?』同じく立ち止まり彰吾さんを見上げる。

『可愛いから自信もって!ワンピースも変じゃないから。』

『!』私の返事を待たず、彰吾さんは歩き出す。

(こんな時にそういう事を言う?でも嬉しい。ちょっと勇気をもらったかも。)


『ただいま〜』と言う彰吾さんに続き、お店に入ると、御両親の姿があった。

『初めまして。内藤凪桜と申します。』

『いらっしゃい。初めまして、彰吾の父です。』

『初めまして、彰吾の母です。お会い出来て嬉しいわ。』

『今日はあいにく、店の営業があって。申し訳ないが裏からまわってください。』

『はい。』


雰囲気のある裏門をくぐり、裏庭にまわる。

手入れが行き届いた素敵なお庭だ。


お母様は、とても可愛らしい少女のような方で、笑顔の中に彰吾さんをすぐに探せた。

このお母様に彰吾さんあり、だ。

御両親の雰囲気はよく似ているけれど、

彰吾さんの雰囲気は、よりお父様に似ているみたい。

(どちらに似ても麗しい事にかわりはない。お父様も間違いなく‘’麗しいメガネ男子‘’だっただろう。)


小さい頃の彰吾さんのエピソードをたくさん教えて

くださったお母様の手料理は、とても美味しかった。

お父様は店番をしながらも、ちょこちょこと顔を出してくださった。

楽しい時間はあっという間に過ぎた。


電車に揺られながら、あの御両親とならば、うまく過ごしていけそうな気がした。

でも…私はただのガールフレンドなのだ。

勘違いしてはいけない。






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