Another Story 3
そらと
第1話
「雨、まだ結構降ってるね。」
言葉を口に出しながら傘を開いた。
昨日衝動買いした、1番新しい傘に話し掛けたのだ。
やっぱり可愛いなぁ!
雨降りが嬉しくて、ついニヤけてしまう。
実家にいた頃、姉の深冬に、
「また傘買ったの!?腕は2本しかないよ?
まぁ…2本同時に使う人は見たことないけどさ…」と呆れられていたが、服やバッグよりも私には傘が大事。
気に入った柄に出会えた時は、色違いでも買ってしまう程だ。
(選びきれず、買っちゃえ!という事でもある。)
公園の中にある図書館は、緑が多くて空気もおいしく感じられ、園内で咲く植物で四季を感じられる。
勤務が決まる前にもこの公園にお花見をしに訪れていたので、この図書館で働けるとわかった時、とても嬉しかったのを覚えている。
お弁当を持参して、公園でランチをとる事も多いが
、今日は嬉しい雨降りなので、駅前の商店街へと足を向けた。
!!彰吾さん!!??
普段からメガネ男子にはつい反応してしまう凪桜だったが、今日の反応は、相当早かった。
先日のお稽古で偶然にも彰吾さんに会い、紗友里先生、紗季さんと4人でお茶をして、(勘違いでなければ)一気に距離が縮まり、
早く会いたいなぁと思っていたからだ。
彰吾さんも、私に気が付いたようだった。
何か…すごく驚いた表情をしている事が気に掛かるが、会釈をした。
「これからお昼休みなんです。…良かったら、どこかでランチしませんか?」
言ってしまってから、そんな自分に驚く。
楽しかったお茶会の記憶が、背中を押したのだ。
幸いにも断られなかったので、きっと同じ様に思っていたのかもしれない。
「それ、アニメソングでしたっけ?」
「えっ!?
あっ、歌ってましたかっ、恥ずかしい!」
「はい、かなり大きく…」
「私、ものすごく雨女なんです。
大事な日は、必ずと言っていいほど雨降りで。
だから雨を楽しむ事にしています。
この傘は、昨日、すごく可愛いのを見つけて買いました。それが嬉しくて、つい…。」
「すごく楽しそうに歌っていましたよ。」
と笑う彰吾さんは、最高に素敵だ。
笑顔に見惚れていたために
急に足元に現れた大きな水たまりをどう避けるか考えていると、
「…凪桜さん、これから敬語はやめませんか?」
そんな言葉が耳に入って来た。
えっ!?
そんな言葉を聞いて、水たまりを避けられるはずもなく、水たまりにはまる。
敬語をやめるって事は、
そんな時は、相手に丸投げしてしまう小心者。
「彰吾さんが先にやめてください。」
「じゃあ、、、ハンバーグ食べたい!」
おちゃめな顔をした彰吾さんがいた。
初恋の人・煌太くんといい、私はどうもこういうタイプに弱いらしい。
そして私の言葉に続く。
「店がこの先なのはわかったけど、いつまで水たまりにはまっているの?」
2人でのランチは、とても楽しかった。
そしてなんと連絡先を交換してしまった。
今はちゃんと繋がったかの確認で送り合ったスタンプと既読の文字しかない。
ふふふっ、ふふふふふふふふふっ…午後の勤務から、ニヤニヤが止まらない。
家に帰り、やっと誰にも憚られる事なくニヤニヤ出来た。
連絡を取りたいと思うけれど、彰吾さんのペースに合わせようと決めお風呂に入った。
あれから3日…彰吾さんからの連絡はなく、ため息ばかりの日々を送っていた。
もうこちらから連絡をしようかとしていた時、
彰吾さんからのメッセージが届いた。
〝こんにちは。今日のお昼ご飯は豚カツ!〟
美味しそうな写真付きのメッセージ!
〝こんにちは。わぁ〜美味しそう!いいな。〟
〝大学の学食だから安くて早くて美味しいよ〟
〝安くてそのボリュームは、すごく魅力的ー〟
そして仕事をしている姿のスタンプを送る。
名残り惜しいがここでタイムアップ。
ほんの少しのやり取りで、ほんわかしてくる。
こういうのっていいな。
何か幸せ。
この数ヶ月、やり取りの間隔が少しずつ狭くなり始めたように思う。
でも、いい感じ♪と思っているのに、急に返信が途絶える時がある。
忙しいのかな…
彰吾さんは、薬剤師になる為に大学へ進学したばかりなのだ。
「凪桜、ごめんね、ちょっと遅れちゃった。」
相変わらずふわふわ髪で可愛らしい服装だ。
「ううん。そんなに待ってないよ。」
今日は、姉の深冬と夜ご飯に行き、私の疎いジャンル〈恋愛〉をさり気なく聞き出そうという下心を持っている。
深冬は、〈煌太くんの彼女〉という、恋愛勝ち組であり、洞察力の塊なのだ。
社内の恋愛事情を把握しており、依頼があれば恋の橋渡しもしているという。
時折、橋渡しに巻き込まれている煌太くんから聞く情報では、かなりの成功率らしい。
何とも頼もしいではないか!
はやる気持ちを隠しながら、サラダを取り分ける。
「ありがと。…凪桜、髪色少し明るくなった?」
「えっ、うん。少し明るくしてみた。」
「何か良い事があったんだ?」
「いやっ、別にいつも通りだよ。ねぇ、この店長おすすめ鬼盛り唐揚げも頼もうよ。」
「いいね。」
その後は、ひたすらに同僚からの恋愛相談話として深冬に恋愛指南を求めた。
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