第14話 私の行動は私が決めていないのか?

 「今までのあらすじ」

 私の名前は鈴木愛衣(あい)、女性。工学部航空宇宙工学科の学生である。私は大学教授、川原知人(かずひと)、男性の夢の中の人物である。

 川原知人は夢の中では鈴木愛衣になる。愛衣のいる世界はかなり科学技術が発達した世界である。


  「第14話 私の行動は私が決めていないのか?」

 この世界は管理社会だ。

 全ての行動はスマホ等の位置情報が集められて、次の行動も予測されてしまう。

 例えば、電車の駅の方向に向かっていると、毎日の行動パターンのデータから、平日なら大学への通学だと予測され、私(愛衣)の視界の左上あたりに、大学までのルートが自動で表示される。その文字は空中に浮いているように見えるのだ。

 駅に向かっている途中で家に戻ろうとすると、忘れ物をしたと予測されて、自宅にある普段仕事で持っていくものが、自分の視界の左上に表示され、家に戻った場合、大学へ行くのに間に合うか等の情報が表示されるのだった。

 私は、こんな世界だと、自分が自分の頭で物事を考える1つの人格を持った人間だとは思えなくなる時がある。何か全ての行動は事前に決められていて、実は選択の余地はないのではないか。そう思う時は、わりと頻繁にある。


 学校の食堂で昼食を食べる時も、いつもA定食を注文して食べているので、蓄積されたデータから勝手にA定食が予約されてしまうのだ。もちろん、A定食じゃなくてB定食が食べたいと思って変える事もできるのだが、A定食が勝手に先に予約されてしまっているので、変更するのが面倒くさくて、そのままA定食を食べているのだった。そういう時に私は言いなりになっているなと思ってしまうのだ。

 

 私は、ここまで科学技術が発達する必要はなかったのではないかとよく思う。スマホとかそういうものが全部なければ、もっと良い世界になるのではないかと思うのだ。友人や知り合いの連絡先の情報の共有もしなくても良いと考えている。仲の良い友人とかあまりいないから、そもそもあまり情報の共有をしたくてもしてないのだが、全く連絡先を共有しない方が人生は気楽に過ごす事ができる。

 連絡先が分からなければ、相手も直接会った時しか連絡できないけど、そこまで不便ではないと思う。何か直接伝えたい事があった時は大学の授業の前とか後に直接言えば良いだけだ。普段、自宅にいる時にあまり会話とかしたくはない。もちろん、この世界は会話する時も、何を話せば仲良く会話できるか、自分の視界の左上に表示されて、それを選択してしゃべれば良いだけなので、全く会話の話題が浮かばない時も困る事はないのだ。例えば、ブロッコリーの話を相手がしている時は、自分の視界の左上におススメの会話の内容として「ブロッコリーが臭いのはイソチオシアネートが原因だね。硫黄を含む物質だよ。」等と表示され、それを選択して会話すれば良いのだ。

 私は個人的には「ブロッコリーの入った料理は美味しいよね。」「私は美味しいものが好き。」というような「情報量ゼロ」の会話をする事が多い。好きなものの基準が美味しく感じるものなので、「好きなものは好き」と言っているのに等しいのだ。 私はあまりファクト(事実)を元にした話をする事が少ない。でも、「イソチオシアネートとか言った方がカッコいいとも思うので、たまにそういうウンチクを話したくなる時がある。でも、相手に自分の知識をひけらかして、マウントを取りたいだけの人と思われたくないと思ってしまうので、「美味しいものが好きなんですよ。」みたいな会話をする事が多いのだった。

(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る