Tダム 【禁足地】
『【禁足地】というのは、祓い屋が定めた……というよりも、正確には心霊スポットでのあまりの犠牲の多さを嘆いた神が、歴史に干渉して定めさせたもの。
生者が行くには危険な心霊スポットのことで、地獄での等級では上級以上に定められている場所は大抵これだ。
まぁ、特一級とかになると稀に例外があるけど。ともかく、そういう霊的に危険な場所を【足を踏み入れることを禁ず地】……すなわち【禁足地】と呼ぶ』
わぁお。
僕が獄卒になってから行った場所、どこも上級だから……全部【禁足地】だよ。
おい、生者の犠牲を嘆いた神サマよぉ……死者はいいのかよ、死者は。
僕、獄卒になってすぐに死にかけましたが?
死者には人権ないってか?
知ってるけどさぁ!?
日本国憲法は使者の人権を保護してくれないんだ……あと、ブラック企業に勤める人間の人権もな……。
やっぱ元上司の枕元に出るか。
昔のことについて少し思い出したからか、どんどん自分の中で話がズレていくのを自覚しながら……ほんの少し頭痛から回復した様子で、机に突っ伏しながら口を開く巫弥さんの話に耳を傾けた。
「そう。祓い屋には本家とか分家とかそういうのに合わせてそれぞれ担当地域が割り振られてて、その中で起こった霊現象やその中にある【禁足地】に関してはその地域の担当をしている家が死ぬ気で管理するのが普通。……少しでも不備があれば、他家からすっっっっっごく追及されるからね。万が一でもその失態の話が政府までいったら……最悪、家ごと秘密裏に消される可能性もあるし」
「え……消されるって、コレ?」
思ったよりもヘビーな話に、流石にソレは嘘でしょうと思って環ちゃんを見ながら首を斬る動作をしたら、頷かれてしまった。
マジやめて欲しい。
日本政府の闇を知りたくなかった……。
「何……祓い屋って、そんな大変なの? というか、そもそも何?」
上品な間接照明がある天井を仰ぎながら、僕は二人に訊く。
僕、観測係と似たような仕事をしているってことは前環ちゃんから聞いたけど……にしては二人とも、祓い屋を嫌いすぎじゃん?
『……』
「……そういえば、まだ自己紹介してなかったな。お前を環さんの相棒としては絶対に認めないけど、お互いのこと知らないと困るだろ」
首を傾げた僕に返ってきたのは、環ちゃんの沈黙と巫弥さんの露骨な話題変え。
どうやら、二人にとってあまり触れられたくない内容らしかった。
「私は巫弥。……【七特獄】の一人で、第
「御上盾、です。死因は過労死」
僕が考え事をしている間に、ものすごく嫌そうな顔をしながらも自己紹介されたので……僕も返す。
お互いに、よろしくとは言わなかった。
「御上盾? ……しかも過労死? Kマンションで?」
僕の自己紹介を聞いて何かに気付いたかのように、そして怪訝そうにしながら巫弥さんは環ちゃんの方を見る。
その表情を一言で表すには、驚愕という言葉が一番近いのではないかと思う。
『本当だ。Kマンションでは今まで、住民の十割……つまり全員が例外なく霊的現象による不審死を遂げていたが、その唯一の例外が盾くんだよ』
……は?
「……血縁は?」
『神羅さんが調べてたけど、どこにも気になる血はなかった。多分鍵は名だね』
ポンポンと進んでいく会話に、今度は僕が驚愕する番だった。
なになになになにっ。
僕に関する大事そうな話を、僕なしで進めないでっ!?
というか、僕が住んでたマンションってそんな危ないところだったの?
僕、住んでる時に全然霊現象に遭わなかったけど?
一回も変なこと起こらなかった!!
……そういえば、環ちゃんと初めて心霊スポットに行った時に、僕の霊感はゼロに近いって言われたけどさ。
もしかして、ゼロに近いどころか壊滅的だったりしたんだろうか……。
そういえば、同僚達が揃って幽霊を見たって言った時も僕は見なかった気が……?
いや、考えるのをやめよう。
なんかこれ以上考えるのは良くない気がする。
「っ……それでも、環さんに怪我をさせた事実は変わらない。
たとえ……たとえそうだったとしても、能力を使えなければ無能と一緒だ。
環さんの相棒としてなんて、絶対認めないから」
僕が生前の自分の能力の残念さから必死で目を逸らしていると、追い詰められたような表情で巫弥さんが呟いた。
僕は密かに、人と話す時は対象が不明瞭な指示語を出来るだけ避けるべきと習わなかったのだろうかと首を傾げたが……言うと、煽りになりそうだと思ったので黙っておいた。
さっき巫弥さんの怒声を浴びた今、万が一環ちゃんがいつもの優しい感じから稀に出る毒舌になってしまったら……僕はちゃんとダメージを受けてしまう気がする。
ただ……間の指示語の意味がわからなくて、巫弥さんのセリフを正確に理解出来ていないので……なんて言うべきかよくわからない僕は黙ることにした。
《口元は 災いのもとと 言うのなら 沈黙すれば 全て解決》
––––御上盾 心の俳句
……あれ、五・七・五・七・七って短歌だっけ?
いや、まぁどっちでもいいか。
僕は、そんな風にくだらないことを考えてリラックスしてから……巫弥さんに向かって口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます