T湖 【一緒】
「何とか言ってよっ」
環ちゃんの胸に、刃の部分がなくなった日本刀を突き付けて僕は言う。
「環ちゃんは今、一人じゃないんだっ、僕の上司で相棒だろう!? 僕は環ちゃんに何と言われようが、何をしてでも君を助ける。それが、君より年上で大人な……僕の仕事だ」
目は逸らさない。
僕は別に、子供は無条件に守られておけという気はない。
僕も環ちゃんに助けられたから。
でも……子供が出来ないところを手助けするのが、大人の仕事だと思うから。
だから、環ちゃんを見捨てて逃げようという気もない。
「一度逃げるなら、その時は環ちゃんも一緒。もし戦うなら、その時は僕も一緒だ」
内心緊張しているまま、僕は環ちゃんに宣言した。
「そっ……か。わかった。それが、君の本質かぁ……うん、ごめん。……戦おうか」
かっこよく言っておきながら震えている僕の手から、日本刀を引き抜いて受け取りながら……環ちゃんは、そう言って少し微笑んだ。
何かに納得して、それを喜ぶような……少し子供らしさが覗く笑みを見て、僕も僕の中で一番の笑顔を返す。
危険な霊がいるっていうのに、平和なものだ。
それでも……Sトンネルの時と同じように環ちゃんが隣にいてくれるだけで、何も怖くないと思えてしまう。
「盾くん……実は私、最初にあの霊に手を掴まれた時に過去を見てるんだよね。
だから【名付け】の条件は整ってるんだけどさ……せっかくだし、良いことを思いついちゃって。
今から君にあの霊の過去を見せるから、【名付け】……して見せてよ」
僕が胆力を使い切ってのほほんとしていると、環ちゃんが無表情……つまりいつも通りに戻って、急に無茶振りをかましてきた。
嫌な予感がして身を引いても、同じ分距離を詰められて手首を掴まれる。
「えっ!? ぅ……あ?」
驚いた僕は更に後ろに下がろうとして……急に体から力が抜けて、目の前にノイズがかかったように視界がブレる感覚に思わず膝を付いた。
『環様っ……それはっ』
「仁平、盾くんなら出来るよ。私の––––なんだから。少しの手助けは許すが、信じて待て。盾くん……いってらっしゃい。必ず、戻って来てね」
遠くで仁平さんの焦りに満ちた声と、環ちゃんの冷静な声が聞こえた気がして……確かめられぬまま目を閉じた僕が、気持ち悪さがある程度おさまって目を開けると。
『……は?』
僕は何故か、一人で家の中にいた。
ピンクのソファーが置かれた、広い家だ。
『どこだ、ここ……?』
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