第14話 移動
コンビニを出発したノーナ様は、東京湾に向かって、ひたすらにバイクを走らせていました。
後ろに乗ったわたくしも、時折飛び出してくるゾンビたちを排除することに専念しつつも、風を受けて進むスクーターを堪能していました。これ楽しいですね。
途中、わたくしたちは災害対応型ガソリンスタンドというものを発見し、給油することに致しました。
なんでもこのタイプのガソリンスタンドは、大きな地震や災害が起きた際に、地域の拠点となるべく建造された場所なんだそうです。もちろん停電にも対応していて、裏には大きな発電機がありました。
わたくしたちはここで休憩をすることに致しました。それからメインのスクーターと予備のスクーターに給油をします。さらに店内にあったガソリン専用の金属製のタンクをすべて開封し、そのすべてにガソリンをいっぱいに入れて、インベントリに収納しました。
赤いポリタンクにガソリンを入れようとしたところ、ノーナ様に怒られてしまいました。ポリタンクは静電気が起きて、引火の可能性があり危険だそうです。勉強になりますね。
余談ですが灯油を入れるポリタンクの色は、関西では水色、関東では赤だそうです。興味深いですね。
そして余っていたポリタンクに灯油を入れると、二人でインベントリに詰め込みました。ノーナ様曰くなんでも使える便利な油なのだそうです。わたくしには冬のストーブのイメージしかないですけど……。
「ああ、灯油ポンプも持っていかないといけないね!」
「灯油ポンプですか?」
わたくしは思わず聞き返してしまいました。名前からその物が想像できなかったからです。
「え? これだよ、これ!」
ノーナ様は手に持った灯油ポンプを見せてくださいました。灯油ポンプと呼ばれていたものは、二つに別れた透明のポリのチューブに赤い手で握るタイプのポンプが付いている物体でした。わたくしはそれの正しい名前を知っています。
「それは醤油チュルチュルですよ」
「……たまにホマレはおかしなこと言うね?」
わたくしは理不尽な扱いを受けながらも、物資の盗難を続けました。もうお金を払うこともできませんから、盗難という他ないのです。ドアも斬って破ってしまいましたし、完全に犯罪者です。
「あまり気にしても仕方がないよ、非常時だし。それにもう誰も取り締まってないよ」
「……それもそうですね」
再びスクーターに乗ったわたくしたちは、大きな国道を進みます。
「荷物が少なくていいのはありがたいね。このバイクだとポリタンク1つが限界だよ!」
「インベントリがなかったら、なかなか移動もできなかったかもしれませんね!」
ヘルメットを被った二人は走るスクーター上で大声で話し続けます。他愛もない話から家族の話、お仕事の話など話は多岐に渡りました。
「ノーナ様は軍人さんだったのですね! 通りで銃器や機械にお強いわけです!」
「これくらい軍人じゃなくてもできると思うけどね? ホマレが機械に弱すぎだよ!」
「それはそうかもしれませんが……」
「ま、待って! ダイホンのお店があるよ!?」
わたくしたちの進行方向に、大きなDのマークが描かれたガラス張りの店舗が見えてきました。店舗のガラスの一部は割られています。
ノーナ様は何も言わずにスクーターを駐車場に走らせます。そこには多数のバイクとゾンビが並んでおり、一部のバイクは倒れてしまっていました。
「ホマレ! お願い!」
「お任せください」
わたくしは飛び降りると、辺りのゾンビを神の御許へとお送りします。そしてノーナ様の指示に従い、店内へ突入しました。
中に入ると、そこはたくさんの機械やバイクが置いてある、バイクの整備をするスペースのようでした。
店内にゾンビは3名しかおらず、それを片付けると、わたくしたちは店内を物色し始めます。もう慣れたものですね。
「これこれ! これに乗りたかったんだ!」
身長170センチメートルのわたくしの目の高さまであり、ゴツゴツとしたマウンテンバイクのようなタイヤに、とても大きな車体です。車体は白青赤のカラフルな色をしています。とにかく大きいです。
「これこれ! ダカール1200ツイン! しかも限定モデルじゃないか!」
「ダカール……ですか?」
ダカールはアフリカ大陸北西に位置する国、セネガルの首都です。農業が盛んな国だったような気が致します。大変申し訳ないのですが、わたくしはそれくらいしか知りません。
「砂漠やオフロードを走るためのバイクなんだよ! 長距離を走るために作られているからきっとこれからの旅も快適だよ!」
「オフロードと言うのは未舗装路という意味ですか? これからそのような場所を走るのでしょうか?」
「……あんまりないかも? 日本はほとんど舗装されてるからね」
「えっ! ……なら何故……?」
わたくしは困惑してしまいました。どういうことなのでしょうか。なぜオフロードを走らないのに、オフロード用のタイヤが付いているバイクを求めるのでしょう?
「それはロマン……かな?」
「そ、そうですか。わたくしにはよくわかりませんが、すべてノーナ様にお任せ致します」
「ちょっと持って行く準備をするから待ってて!」
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