第9話 乗り物
「レベルが9になったのは嬉しいけど、いくら身体能力が上がっているとは言え疲れたよ……」
「お疲れ様でした。」
1階に降りた頃にはノーナ様はへとへとでした。思ったより時間がかかってしまいましたね。
「まだ地下があるのですが……」
「嘘だろ!? ちょっとは休憩しようよ!」
「やはり飛び降りた方が早かったのでは?」
「ほら! でも水とか手に入ったでしょ!?」
しかし時刻は16時です。あと2時間も経たないうちに、日が落ちてしまいます。
「移動手段を探すはずだったのに何もできていないね……。それに今日の寝床を探さないと」
「確か地下に警備部門の方のバイクがあったはずです。そこを見てみませんか?」
「行くしかないか……」
重い足取りでノーナ様は地下に向かいます。立ち塞がる鍵のかかった扉を蛍丸で斬り捨て、ゾンビはノーナ様が神の御許へと送ります。
ところでこの蛍丸、欠けてしまったと思いましたら、インベントリに入れて出すと欠けたところが直っているのですが、わたくしのスキルの力によるものなのでしょうか?
暗い地下を進むには懐中電灯とランタンだけが頼りです。地下2階のコンクリートでできた駐車場は、どこか冷たい雰囲気を漂わせていました。
「本当にホラー映画みたい……。物陰からゾンビが飛び出して来たら危ないかも」
「ではわたくしが先に進みます。危ないですから銃は仕舞っておいてください」
「ライティングとチアー担当として頑張るよ!」
「チアー……?」
そして警備部門の方たちがいつも乗っているバイクが見つかりました。小さめのスクーターというタイプのバイクのようで、後ろについた箱には受楽院綜合警備と書かれています。10台ほど並んでおり、どれもピカピカに磨かれていました。
「鍵はあるかな?」
「あそこの詰所じゃないでしょうか?」
ということで詰所の扉をぶち破って中を漁ります。警備部門の方のゾンビもいらっしゃったりしましたが、わたくしたちは無事に壁にかけられた鍵を見つけました。
「どれにします?」
「こういう時は全部持っていって、一番ガソリンが入っているやつを盗むんだよ?」
「妙に手慣れてますね……」
鍵を手に入れたノーナ様は、次々と停められていたスクーターに鍵を刺して行き、カチッと鍵を回していきます。ブーンと低い音が鳴り、ハンドルの中央部分についているスピードメーターにあるガソリンのメーターが動き始めます。
「うーん……大体半分以上入っているね。流石受楽院綜合警備」
「そういうものなのですか?」
「これが満タン入っているね。これをもらおうかな」
「……少し試してもいいですか?」
わたくしがバイクをインベントリに仕舞うと、ノーナ様が感嘆の声を上げました。そしてもう1台のバイクを仕舞ってみますが、残念ながら別のスタックになってしまいました。
「別のスタックでした。どうします? 全部持っていきますか?」
「この先ずっと2人で乗って行くには、このバイクはエンジンが小さいかな? もう少し大きいのを探そうか。1台だけ予備をお願いできる? あとは……はい、これ」
ノーナ様の指示に従って予備を1台インベントリに収納すると、ノーナ様はわたくしにヘルメットを手渡します。黒い半球状の形をしていて、耳の部分から革でアゴ紐が出ています。そしてヘルメットにはゴーグルがついていました。
「本当はもうちょっとちゃんとしたのがいいんだけどね。風で目が乾くからゴーグルをつけるといいよ」
「は、はい」
私は強制的にヘルメットを被せられて、バイクの二人乗り講座を受けることになりました。
ここに足を置いて、シートの後ろに座る。体を勝手に左右に倒さない。前の人に抱き着かない。手はグリップがあるのでそこを持つこと、完全に停車するまで降りたりしないこと、と一通りの講習を受けたわたくしは綜合警備と書かれたジャンパーを着せられ、バイクの後ろに乗せられてしまいました。
「スカートで乗るのってなんだか恥ずかしいですね」
「セーラー服じゃ危ないだろう? どこかで着替えを探そうか」
「この制服はわたくしのアイデンティティですから脱げません」
「そ、そうなんだ……」
そんな遣り取りをしつつ、わたしたちはそのままバイクで地下駐車場から脱出しました。
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