第7話 そして朝
「温泉に向かいます!」
「それはいいね!」
ワイングラスを煽りながら、楽しそうに笑うノーナ様。どんどんとお顔が赤くなってきているような気が致します。
「場所は決まっているのかい?」
「そうですね……。瀬戸内海の島なんてどうでしょう? ゾンビの方も渡って来られないような隔絶された島がいいですね。もちろん温泉のある島です」
「意外と現実的に考えてるんだね。じゃあ西に向かうんだね……」
「ノーナ様はどうされるのですか?」
「そうだねぇ……」
ビーフジャーキーをはむはむと食べながら、ノーナ様は悩むように唸りました。
「とりあえず横須賀に行こうかな?」
「横須賀……ですか?」
「うん。以前働いていたところに行ってみようかなって。ここは六本木なんだよね? だったら50キロ以上あると思うんだけど……」
「ごめんなさい。わたくしはわからないです」
「ああ、いいんだよ。あとは移動手段をどうするかだね。この辺りで何か調達してもいいんだけど……ヘリはないだろうし」
「お車ですか?」
「それは道次第ってところかな? よかったら途中まで乗っていかない?」
「それは願ったり叶ったりです。その前に家に寄れると嬉しいのですが……」
確かに朝になってみたいないと道がどうなっているのかわかりません。赤い空になってからというもの至るところで煙が上がっていましたし、事故や火事がたくさん起きていそうでした。それにゾンビの方もたくさんいらっしゃるでしょうし、移動には手間がかかりそうです。
「私もホマレが着いて来てくれると心強いよ。移動手段と経路については明るくなってから考えることにしようか」
「そうですね。わたくしもそろそろ眠らせて頂こうと思います。ノーナ様もお好きなところで寝てくださいね」
「ありがとう、これを飲んだら私も寝るよ。おやすみなさい、ホマレ」
「はい、ノーナ様もおやすみなさいませ」
わたくしはランタンの前で酒盛りを続けるノーナ様に挨拶を致しますと、ベッドルームへと向かいました。
◇────────────────◇
翌朝、わたくしはとても驚きました。ゾンビの方や生存者の方が来る可能性も考えて、とても警戒しながら寝ていたはずなのですが、目を覚ますとわたくしの横にノーナ様が寝ていたのです。
「疲れていたからでしょうか? 確かにお好きなところで寝てくださいと言いましたけども……」
わたくしは寝ながらの警戒に自信がありました。それも以前モンゴルのゴビ砂漠を訪れた時のことです。わたくしと師匠が野営をしてテントで休んでいた時、不穏な地響きが……。
「ンン……」
その時、ノーナ様は暑かったのか寝返りをうちました。するとその拍子に掛けられていた布団がはらりとめくれました。
「……なぜ?」
思わず声が出てしまいましたが、なぜかノーナ様は裸でした。裸といってもパンツは穿いているのですが……。白いシーツの上に長い金の髪が広がっています。
昨日は髪を結い上げていたのでわからなかったのですが、ノーナ様の髪は腰の辺りまであり、わたくしと同じくらい長かったのです。そして上半身は何も着ていないので、その白くて大きなお胸が丸出しです。わたくしも小さくはないのですが、流石にこのサイズには勝てません。一体何を争っているのかはわかりませんが……。
上半身を起こしてみると、寝室のドアが開いていました。そしてそのドアの手前にはブラジャーが落ちています。そしてその手前には昨夜お召しになっていたジーンズ、シャツ、ジャンパーと点々と服が落ちています。
「やはりお酒の飲みすぎはよくないですね」
わたくしはそっとノーナ様に布団をかけ直すと、カーテンを開け、外を眺めました。東京の空はいつにも増して青く澄んでおり、そしてそのあちらこちらには、くすぶった煙がうっすらと立ち上っています。まさに旅立つにはもってこいの日ですね。
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