第6話 スイートルーム
雑談しながらゾンビ──これもノーナ様に倣うことにしました──を神の御許へ帰しながらフロアを1つ降りて行きますと、御爺様の仮眠室があります。ここは幸いにも鍵で開ける扉でしたので、御爺様の机の引き出しから持ってきた鍵で開けることができました。
「ワーオ……流石受楽院グループ総帥の部屋……。まるで5つ星ホテルのスイートだね」
「そうなんですか? わたくしは生憎と泊まったことがありませんので……」
「……ホマレは庶民派なのかい?」
「どうなんでしょうか? そもそもホテルにあまり泊まったことがありません。でも野宿はたくさん致しましたよ」
「……わ、私もスイートは初めてだから一緒だね! 部屋はどうなっているんだろうな~?」
ランタンを持ったノーナ様とは、ぎこちない笑みを浮かべながら部屋を詳しく見て回ることにしたようです。ゾンビが居ないかの確認をしておかなければなりませんので、わたくしも後を着いて行くことにしました。
中はとても豪華で広い部屋でした。運動会だってできそうです。なぜベッドが4台にバスルームが2つもあるのでしょうか? ファミリールームなのでしょうか?
ガラス張りの大きなリビングルームに月明かりが差し込んでいます。窓から見える風景は真っ暗で、星の輝く夜空に無数のビルが建ち並んでいます。けれど、そのどこにも灯りが点いていない光景はあまりに非現実的すぎて、どこか夢の中のようでした。
「何も居なくてよかったね」
「そうですね。食事はどうしましょうか?」
「この部屋に何かあるかな? 私は非常用のレ-ションでも構わないよ」
「日持ちするものはあとで食べた方がよろしいですよね。探してみましょう」
防災用品に混ざっていたお米やレトルト食品は後回しにして、わたくしたちは部屋を物色し始めました。しかし残念ながら部屋にはワインクーラーとおつまみしかありませんでした。
「こ、これ本当に食べてもいいのかい? これ確か1袋5000円くらいするやつなんだけど……。それにワインも普通なら飲めないようなものばっかりだよ?」
「ええ、ノーナ様のお好きにしてくださって結構ですよ。わたくしお酒は飲みませんのでそちらもお好きにしてください」
「ホマレ愛してるよ!! 20グラムで5000円のコーベビーフのジャーキーなんて一生食べる機会がないと思ってたよ! ……このワイン、インベントリに入るかな?」
ビーフジャーキーの袋をわたくしに渡したあと、ノーナ様はワインクーラーの前でうんうんと唸り始めました。まだインベントリに12種類の物しか入らないのでお悩みのようです。わたくしのインベントリは空いているので、一部をお預かりしてもいいかもしれません。
それからノーナ様はインベントリで色々と実験されていたのですが、同じ種類なら999個まで収納することができるそうです。そのままの銃弾は999発を超えると次のインベントリのマスにいってしまい、規格の揃った箱や袋に入っていると、同じマスを使用できるようです。スタックがどうこうと仰っていましたが、わたくしにはあまり関係なさそうですね。わたくしのインベントリには水のペットボトルと食料類、金の延べ棒と蛍丸しか入っていません。延べ棒は別にいらないのですが、ノーナ様が必要だと仰いましたので……。
「んんんん!! 美味いよ!!」
「それはよかったです。きっと御爺様も草葉の陰で喜んでくださっています」
「アハハ! ホマレのグランパはずっと覗いているね!」
「覗いてるわけではないと思いますが……」
ワインを開けてすっかりご機嫌なノーナ様とわたくしはビーフジャーキーをかじりながら、作戦会議を始めることと致しました。
最初に行われたのは情報の擦り合わせでした。
「それじゃあゾンビの上位種のようなのが居るって言うのかい?」
「はい。御爺様に取り憑いていた黒いモノは、他のゾンビとは違って意志持っていました。何かを新世界で成し遂げると言っていましたが……」
「フムム。何か目的がありそうなんだね? 一体どうしてこんなことになってしまったのか……。新世界、成し遂げる……。まだまだ情報が足りないね」
「しかし情報を増やすと言いましても、どうすればいいんでしょうか?」
「そうだねぇ……。その上位種にインタビューするか、他の生存者と情報交換するか……」
「なるほど……。次に会った時には殺さないように致しますね」
「アハハ! 是非お願いするね!」
ワイングラス片手に楽しそうに笑うノーナ様。段々と顔が赤くなってきているような気が致します。ちなみにわたくしは水道水を飲んでいます。恐らくですが屋上に貯水タンクがあって、それが空になるまでは水道が使えるのだと思います。液体は何かに詰めないとインベントリに入れられないのが残念ですね。
「それでこれからどうするつもりなんだい? 何か当てはあるのかい?」
「急にこんな話をしてもノーナ様も驚かれると思うのですが、わたくしは幼い頃から色んな場所を旅してきました。そして14歳の時に初めて日本に戻ってきたのですが、1つ感動したことがありました」
「それは?」
「お風呂です!」
「オー……」
「ですから、もしこれから人類が滅んでしまうとしても、わたくしはお風呂に入りたいのです!」
「端的に言うと?」
「わたくしは温泉に向かいます!」
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