第5話 銃と女子高生

「ジーザス……」


 瓦礫をどけて入った御爺様のコレクションルームには、様々なものがありました。西洋の剣と……フルプレートと言うのでしょうか? 洋館にありそうな金属の鎧や日本の甲冑もあります。そして大半が木でできている古い銃。高価そうなアクセサリーや腕時計。宝石や貴金属もありました。金の延べ棒なんてわたくし初めて見ました。


「好きなものを持っていってくださってかまいませんよ」


「あ、ありがとう……」


 ノーナ様はふらふらとたくさんの銃が架けられている壁の前に向かうと、じっくりと銃を選び始めました。


WW2第二次世界大戦以前の時代のものだね……。昔の日本軍のものは弾の規格が違うんだったっけ?」


「ごめんなさい、わたくしはわからないです。機械がとても苦手で……」


「ああごめんね、独り言だよ。ああ、これはドイツの……マウザーのライフルだね。……弾も今でも手に入りそうだ。これ、貰っても?」


「ええ、もちろん。弾はありますか?」


 ノーナ様は銃身と銃底、引き金の部分以外はほぼ木でできたライフル銃を嬉しそうに手に取りました。そして隣の棚にあった鍵のかかっていない金庫のようなものを開けると、中から紙の箱に入った銃弾を取り出します。


「ワオ、弾をドライボックスで管理してるなんて、ホマレのおじい様は几帳面な人なんだね」


「見た目はいわおのようでしたが、意外と繊細な方でしたね。アンティークなものが好きで、たくさん集めてらっしゃいました」


「受楽院の総帥ってそんな人だったんだ。なんだか意外だね」


「面白い方だったんですよ。御爺様もノーナ様に使って頂いて喜んでいると思います」


「ノーナ様って……ノーナでいいよ」


「……な、慣れたら呼ばせて頂きますね?」


 よく考えたらわたくしは他人を呼び捨てにしたことがないかもしれません。そもそもまともに学校にも行っていませんので、お友達も居ませんし……。


 使えそうなものを二人でインベントリに突っ込むと、わたくしたちはランタンを持ってフロアの探索を始めました。わたくしたちには今日寝る場所が必要です。ソファーでもいいのですが、あの部屋は窓ガラスが割れていますし、可能ならベッドで寝たいですよね。


 その道中には正気を失った近衛の方や受楽院グループの従業員の方が居ました。残念ながらわたくしたちは襲い掛かって来る彼ら、彼女らを神の御許へ送ることしかできませんでした。わたくしは特に神は信じていないのですが、ノーナ様がそう仰っておりましたので、わたくしもそれに倣うことに致しました。


 最初はわたくしが蛍丸で対処していたのですが、途中からノーナ様も参加するようになりました。彼女の持ってきたライフルは古いもので、ボルトアクション式というものらしく、1発撃つたびにレバーを引いて薬莢を排出しなければいけません。弾を込めるのも1発ずつライフルの上から押し込むのです。古いものって不便ですね。


 ドンと低い音がして、目の前の男性の頭が吹き飛びました。そして光の粒子となって消えていきます。死体が消えるようになってしまいますと、犯罪の立証なんかも大変そうですね。問題は恐らく警察も機能していないことでしょうか。もうすっかり風通しのよくなった六本木グレーター受楽院ビルの外からは、サイレンの音は聞こえてきませんから。


「やった! レベルが3になったよ!」


「おめでとうございます」


「ありがとう。本当にゲームみたいだよね……。力が湧き上がってくるみたいだよ」


「そうなんですか? わたくしにはよくわかりませんでしたが……」


「レベル46になってもこの感覚がわからないものなのかい!? ホマレは鈍感なのかな?」


 少しからかうような口ぶりなのですが、まったく嫌な気分にはなりませんでした。これはひとえにノーナ様の人柄によるものでしょう。


「私が言うのも何なんだけどさ、ホマレは人を殺すことに抵抗とかないのかい?」


「人……ですか? 無辜の民を殺すのには抵抗がありますが……」


「ムコノタミって一般市民ってこと? でも今殺したのもムコノタミじゃないの?」


「ええ……? 無辜の民は焦点の合わない濁った目をしながら、よだれを垂らして襲い掛かって来ないと思いますよ?」


「そうだけどさ。皆さっきまでムコノタミだったんじゃないかな?」


「そうかもしれませんが、それこそ神の御許に……という話になるのではありませんか?」


「そうだけどさ! ホマレはおかしいよ!?」


 話しながらも物陰から飛び出してきた元無辜の民の頭を吹き飛ばすノーナ様。ノーナ様こそ何も思っていなさそうですが……。


 ボルトアクションのレバーをカシャンと引くと、カランと薬莢が床に落ちました。


「ホマレは本当に女子高生なんだよね?」


「はい。来週から謎の転校生として高校に転入するところだったんです」


「謎の転校生……? じゃあ今までは何をしてたんだい?」


「……帝王学と剣術を少々」


「多分、私の知ってる女子高生とは違うね。何かネイティブにしかわからない言い回しだったりする?」

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