第4話 邂逅
混乱する女性が落ち着くまでの間に、残念ながら電力が断たれてしまったようです。今この六本木グレーター受楽院ビルは……いえ、この辺り一帯が停電してしまっています。もしかしたら先ほどまで予備電源で動いていたのかもしれません。地下に発電機があったはずですし。
テーブルの上に置かれた非常用のランタンの向こうに見える女性。彼女は名をノーナ=ロズリーと名乗りました。かなり混乱していた様子でしたが、少し経つとようやく落ち着きを取り戻し、わたくしとお話をしてくれました。
「どこから取り出したの? 手品?」
わたくしが『インベントリ』から取り出した防災用の水のペットボトルを見て、不思議そうにノーナ様は金の髪を揺らしています。防災用品は倉庫に備蓄されていたので、当分の食料と水は問題ありません。
「『インベントリ』という魔法のようなものを覚えたんです」
「アー……私もさっき女の人の声が頭に響いて覚えたかもしれない……。それ魔法なの?」
「魔法かどうかは知りませんが、そうとしか説明できない気がします。御爺様の首を刎ねた時から使えるようになったんですよ」
「オゥ……なんかそっちも色々あったんだね」
「はい。御爺様もきっと草葉の陰で喜んでくださっています」
「そういうもんなの? ……日本の文化は奥深いね。それでどうやって使うの?」
それからノーナ様に少し『インベントリ』の使い方をレクチャーすると、彼女もすぐに使えるようになりました。とても簡単ですから彼女もすぐに使えるようになりました。
『インベントリ』の使い方は思い浮かべるだけです。すると頭の中に横12マス縦4マスのイラスト付きの目録が現れます。あとは念じるだけで収納、取り出すことができます。とても便利でいいですね。ただノーナ様は横が12マス、縦が1マスしかなかったようです。ノーナ様曰くレベルが10毎に増えていくのかもしれないとのことでした。
「これは便利だね! 遅くなったけど、さっきは助けてくれてありがとう。君は……」
「私は受楽院誉玲と申します。助けたのは偶然ですのでお気になさらなくて大丈夫ですよ」
「偶然?」
「はい。ヘリコプターがわたくしの居たところに突っ込んで来そうでしたので、叩き落としたんです。そこに偶々ノーナ様が乗っていらしただけなんですよ」
「アー……そう……ハハ……よく空を飛ぼうと思ったね……」
「なんとなくいける気がしたんです。不思議ですよね」
それからは情報交換をしました。といってもわたくしから出せる情報なんて限られたものでしたが……。
ノーナさんはこういったことにも詳しいようで、魔法やスキルについても話してくださいました。わたくしは詳しくないので頼もしい限りです。
「オタクしててよかったよ。でも日本に居る時に『銃マスタリー』なんてもらっても困っちゃうよね。折角なら私も刀を振り回してみたかったなぁ」
「色々教えて頂きましたし、
「いいの!?」
「ええ、どうせもう風化していくだけのものですから是非」
オフィスの本棚にある隠し扉、その奥に御爺様のコレクションルームがあります。しかしドアが電動だったため開かなくなってしまっていました。仕方ありません。
「この中に欲しい本はありますか?」
「え? ないと思うけど……」
本は大切にしなければいけませんが、今は非常事態です。お許しください。
「ごめんなさい!」
インベントリから取り出した蛍丸を振るうと、本棚とその奥にある鋼鉄製の扉を断ちます。大きな音を建てて、コレクションルームの扉が開きました。『刀マスタリー』のおかげでしょうか? 蛍丸は欠けることなくすべてを断ち切ってくれます。最高ですね。
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