第3話 ノーナ=ロズリー
「何なのよ!?」
助手席で暴れるアンソニーの腕を蹴り飛ばしながら、なんとか機首を上げようとするが操縦棹の効きが弱いせいでまったく高度が上がらない。このままでは目の前のビルにぶつかってしまう!
「グゥ! グゥアアアァ!」
隣で暴れるアンソニーはまるでゾンビにでもなってしまったかのようだ。さっきまで後部座席にいたアジア系の観光客も、大暴れしたあと気がつけばヘリのドアを破壊して飛び降りてしまったらしい。その時に操縦桿の油圧がどこかに出掛けてしまったらしい。
せっかく今年起業した外国人観光客向けのヘリ遊覧サービスが軌道に乗ってきたところだっていうのに! こんなことなら積みゲーと積みアニメを消化しておけばよかった!!
「神よ!」
高度を上げられないままビル街の空をさまよう。赤かった空が紫から青に戻ろうとしている。私が最期に見る景色がこんなのだなんて……。
その時、目の前の巨大なビルの窓ガラスが割れたのが見えた。そして窓からは黒い学生服の少女が身投げしたのだ。きっとゾンビに襲われ逃げ場をなくして身投げをしたのだ。
「私もこいつに喰われるくらいなら!」
シートベルトをひきちぎらんばかりに暴れるアンソニーだったものから逃げるように、私はシートベルトを外し、ドアを開けようと……。
「ングァッ!!」
何かが潰れるような音がしたので振り返ると、助手席にいたアンソニーだったものが文字通りのミンチになっていた。そしてそのミンチはまるで蛍のように辺りに散っていく。吐き気が……。
口を押さえると同時にヘリコプターが縦に真っ二つになった。脳が理解をこばみ、バランスをくずしたヘリから私は空へと投げ出される……はずだった。
「ごきげんよう、しゃべってはいけませんよ? 舌を噛みますからね」
濡れたような黒髪に赤い瞳。黒い学生服を着ている少女は私を横抱きにすると、まるで空を飛んでいるかのように、走るように空を駆け上がっていく。この子は魔女?
学生服の少女は私を抱き抱えたままビルに着地……? するとそのまま足で垂直な壁面を登り始めた。彼女の駆け登った後に窓ガラスが割れて下に落ちていくのが見えた。
「あら? 割るつもりはなかったのですが……」
まったく悪びれる様子のない声を聞きながら、ガラスの落ちていく先を覗き込んでみると、真っ二つになった私のヘリが地上に墜落して爆発するのが見えた。ああ……私のすべてが……。
『トリスカリオンの神ネクタリウスの加護を得ました。レベルが2に上がりました。
スキル「インベントリ」を得ました。スキル「銃マスタリー」を得ました』
「なんなのこれぇ!?」
「あら、大丈夫ですか? もう着きますから落ち着いてくださいね」
まるでロケットが空に打ち上げられるように、壁面を疾走する少女の腕の中で、私は意識を手放した。
◇────────────────◇
「目が覚めました? 大丈夫ですか?」
「ここは……」
目が覚めた私はめちゃくちゃ高そうなソファーの上に寝かされていた。対面のソファーには先ほど私を助けてくれた少女が座っており、120インチはありそうな巨大なテレビを見ていた。
テレビにはワイドショーのスタジオをうろつくゾンビが映っている。ただただずっとそれだけが映されており、テレビからはずっとそのうめき声を垂れ流されていた。
「映る番組がこれだけなんです。ごめんなさい」
少女はリモコンでテレビを消すと、私に向き直る。
「大変申し上げにくいのですが、残念ながら世界は滅んでしまったようです」
私は告げられた言葉を咀嚼するのに、少し時間が必要だった。
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