第29話 成長
「受付の顔を覚えているか?」
「うん、ここにはいないけどお仕事の時会うから知ってる」
ギルドマスターの問いに頷く。その隣ではアレシアが首を傾げていた。いったいどうしたんだ。
「アーロ君、声が掠れてる気がする」
「まだ病気が?」
「あー」
ユルリカの心配する声に、まだ毒に慣れていないせいかと思ったが、体の不調はもうない。試しに声を出したら、確かにアレシアのいう通り声がかすれている。ということは。
「声変わりだね」
「病気じゃない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ、アレシアお姉ちゃん」
声変わりは12歳から15歳の間に起きる。ということは成長したのか。しかしなにでだ? 原因がわからない。
「しばらくこのかすれ声になりそう」
大きな声はださない方がいいな。しかし、体が小さくなって何かが原因で体が成長するとして、元の姿にそのまま戻るのだろうか。異世界にきたことで自分の中の何かが変わって別の姿になるかもしれない。今はまだわからないことだらけだが、成長とともに分かってくるのかもしれない。
「ユルリカお姉ちゃん、今日僕が出来る仕事ある?」
ベッドから起き上がり、いまだ心配そうに見ているユルリカを見る。立ち上がって分かったことだが、背も伸びているな。前までは見上げていた視線が少し顔を上げるくらいでよくなった。アレシアの隣に立ったら同じくらいの身長になっている。
「どうやら何かが原因で成長しているみたい」
「アーロ君がおっきく……」
「とは言ってもまだまだだけどね」
アレシアとユルリカがショックを受けている。成長するのは喜ばしいことだろ。なぜそんな顔をする。
「あの可愛かったアーロ君が」
「これからはかっこいところも見ていってほしいけどなぁ」
可愛い顔攻撃はもうできないが、これからは英国紳士として女性を相手していく。野蛮な男には変わらずそれ相応の対応をしていくがな。
「今日は案内はしなくて大丈夫よ。でも、受付に一緒に座っててくれる?」
「わかった」
成長するにしたがって言葉も変えていくか。タイミングが難しそうではあるが。
そろそろギルドが開く時間ということもあって、先に戻っていくユルリカを見送り、ここには私とアレシアしかいない。ギルドマスターはいつのまにか帰っていた。
「まぁ、なんだ。これからもよろしくな」
「うん、よろしく」
成長すると分かれば、その原因をどんどん探っていけばいい。しばらくはアレシアと共に行動することになるだろうがな。
アレシアのお腹が鳴り、朝食を食べていないことを思いだし、ギルドへ。食べ終わったらそのまま別れた。アレシアは依頼を受けに。私は受付へ。
さて、私をどこかへ連れて行こうとした受付の人と毒を飲ませた男を探さなくては。受付の顔はしっかりと覚えている。昨晩に『恨みを買ったな』と男に言われたが、何の恨みなのかはっきりとさせなくては。
ギルドが開き、冒険者が入ってくる。声を聞かないと分からないが、生きてここに座っている私を見れば動揺するかもしれん。それを目当てに探すとしよう。ただ睨みながらだと無関係の冒険者や依頼人が驚く。あくまで自然にだ。
「東の村で目撃されたゴブリンを討伐する依頼ですね」
アレシアと同じような革装備の女性と男性のペアが受付の前にいる。前もそうだったが、ゴブリン依頼がとても多い気がする。それほど困っているのだろうな。
しばらく受付で座って依頼を受ける冒険者を見ていると、明らかに私を見て目を見開いた男がいた。
そして慌てて去っていく冒険者の男に、ユルリカが不思議そうに見つめている。昨日関連の男とみて間違いないだろう。あの男から芋づる式に見つかればいいが。
「なんだったんだろうね」
不思議そうに首を傾げながら振り返ってくる。
「ユルリカお姉ちゃん、今の人の名前って分かる? あと一緒に組んでいる人とか」
「もしかして」
「うん、そのもしかしてだと思う。でもまだ判断材料がすくないから名前だけ知りたい」
「個人情報だから今は教えられないけれど、ギルドマスターに聞いてみるわね」
「お願い」
どう復讐してやろうか。この国に法があるかは分からんが、不服な判決をだしたら個人でしてやる。
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