第30話 疑い

 今日は受付に座っているだけで何もすることがなかった。何かしようかと問いかけても動かないでと言われてしまう。

 何もすることがなく、ずっと冒険者の中から昨日の奴を探すだけになっていたが、昼休憩になり、ギルドの裏に行くことに。そこで昨日声をかけてきた受付の女性を見つけた。

 さりげなく近づき表情を見る。それで顔を歪めればすぐわかる。


「アーロ君、私はギルドマスターのところに行っているから1人で食べられる?」

「大丈夫」

「じゃあ、ゆっくり食べててね」


 そう言ってユルリカがギルドマスターのところに向かった。いまだに場所は知らないのだが、いつか行くかもしれん。


「ねぇ、お姉ちゃん。一緒にお昼食べていい?」

「いいよ。隣座る?」


 名前も知らない受付の女性の隣の立ち、隣に座っていいか聞く。笑顔は忘れずに。これで表情が崩れれば後でユルリカに言える。

 だが、目の前の女性は私が思っていた表情はしなかった上に、笑顔で席を開けてくれた。


「ありがと」


 ずっと笑顔を浮かべながら受付をしているからか、表情に変化がない。何故だ。確実にこの女性で間違いないのに。顔も間違いない。


「これ、つけて食べたらはしたないかな?」

「たまに冒険者の人でもやっている人いるから大丈夫」


 今日の昼食はシチューとパンであった。シチューというと赤ワインを使ったものを想像するが、ここは赤ワインを使った赤茶色ではなく白色のシチューだった。匂いでは分からないが、食べてみれば何を使っているか分かるかもしれない。

 黒パンを千切り、少しつけて食べる。案の定硬いが、シチューのお陰が少しだけ柔らかくて食べやすくなっている。


「ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんってお仕事終わった日は何してるの?」

「普段? 普段は何もせずそのまま帰っているよ。たまに帰りで買い物することもあるけど」


 食べながら質問する。

 ん? シチューから牛乳の味がするな。英国や発祥のフランスのではなく、これは日本風のシチューだな。一度、司令が作ってくれたものを食べたことがある。彼は日本と英国のハーフだ。普段の食事はフィッシュアンドチップスが多いが、たまに日本の食事を作ってくれたりする。その時の味と同じだ。何故ここにあるのかは知らんが。


「そうなんだ。お仕事が遅くなって帰る時っていつも1人?」

「月の光があるとはいっても、夜道は暗いから家が近い同僚と帰ったりするよ」

「ちなみに昨日は?」

「昨日? 昨日はそのまま家に帰ってゆっくりしてたよ」


 これが本当なのかどうかの判断がつかない。つかないが、あの水晶を使ったら分かるのではないか? 冒険者の今の力を見るために使われるものだが、ギルド職員に使っても大丈夫なら使ってみるのが一番いい。


「そっか」


 かすかに匂わせながら問い詰めてみても表情は変わらない。確かに目の前の女性に誘われて宿の外に出たはずなんだが。

 直接聞くのは少し怖いが、ここでいうべきなんだろうか? もしかしたらまた襲われるかもしれない。他に職員がいる中で襲われることはないかもしれないが、久しぶりに恐怖を感じている。


「……僕、昨日、男に襲われて毒入りポーションを飲まされたんだ。その男が『恨みを買ったな』って言って、その犯人探しているんだけどまだ見つからなくて」

「大丈夫?」


 目を見開いてとてつもなく驚いた顔をしている。そしてその後心配そうに眉尻を下げ、私の頬を両手で優しく挟み、目を見てきた。その動作に少しだけ自身の肩が揺れる。昨日のことが少しだけトラウマになっているかもしれない。

 しかし、作るとしてもこの表情は本当に心配してくれているのかもしれない。分からない。


「もう毒消しポーションをかけてもらったから平気。それでね、お姉ちゃん。後で質があるんだけど、いい? もしかしたら不快な思いをさせてしまうかもしれない質問だけど」

「え、ええ」


 私の頬を挟んでいる受付の女性の手をそっと外し、真剣に見る。私の真剣さが伝わったのか、緊張した顔をしながら頷いた。

 そして、ちょうどいいタイミングでユルリカが食事場の入口に入ってきて、私を見つけると手招きしている。


「こっち」


 食べ終わった食器を戻し、受付の女性の手を掴みながら食事場を出る。後ろにいて表情は見えないが、掴んでいる手が緊張で強張り、少しだけ力が強くなった。








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