第23話 何の毒?
「私は戦えないからな」
「が、頑張る!」
入口に向かって走ってはいるが、敵はアレシアに任せている。といっても、すべてを倒せるとは限らない。やり損ねた敵を壁に向かって蹴ったり、
「もう少しで外だ」
「きゃあ!」
洞窟入り口前で転んだアレシア。蜘蛛の巣で引っかかったか。入る時はゴブリンだたが、今は違う敵の蜘蛛が押し寄せている。
「ほら、立てるか」
「ありがとう」
蜘蛛の巣をナイフで切り、アレシアに手を差し出す。その間にも蜘蛛が押し寄せてくる。階段の前まで迫ってきたが、アレシアが階段に足をかけるとその蜘蛛は消えた。階段を上がるまではダンジョンという判定になるのか。
「うぇ……」
階段を登り切った途端に急に吐き気が。それにめまいもする。疲れるほど動いていたわけではないはずだが。
熱い。苦しい。痛い。いつくらった? 戦闘には参加していないし、怪物からの攻撃も受けていない。毒の霧が発生していたのならばアレシアもかかっているはずだ。それなのに平気そうだ。
「アーロ君!」
「ごぽ……」
ダメだ。何も見えん。
「誰か……しょんを」
何も聞こえない。
《また一歩近づいたな》
この声、どこかで……。
《忘れたのなら思い出させてやろう》
闇が迫ってくる。なにも出来ないまま、沈んでいく感覚だけはある。
「ここは……」
毒に適応したか。もう気持ち悪さもない。
「また会ったなアーロ・ガルシア」
真っ暗な闇が一気に明るくなり、一瞬だけ眩しくなったが次第に目も慣れ、向かい側に男が座っているのが見えた。ここは前夢で見た場所。あの時に見た時と何も変わっていない。
「楽しみに待っていたぞ」
立ち上がり、一歩ずつ近づいてくる。前はあいつが一歩動いただけでこちらは何も出来なかった。だが、今回は声が出る。
「……こ……こは」
「ほう、声が出せるのか」
感嘆な声を出して、拍手までしている。この男はなんなんだ。
「我は――――」
なにか言っていたが、最後が聞き取れなかった。おそらく名前だろう。しかし何故この男は二度も私の夢に。
「ここは夢であって夢ではない」
頭で考えていることが筒抜けか。なら何も考えない方が。そう思った瞬間に目の前の男が口角を上げた。
「な、んだ……その、笑い、は」
「いや、何」
喉の奥で押し殺すように笑う男に、背筋が凍る。ダメだ。こいつの前で何も考えないというのは危険すぎる。
「お前はいつも考え事ばかりだな。疲れんのか?」
「つ、かれ……ない」
「そうかそうか。なるいてし応適に調順」
最後の言葉がわからない。気になるが、知ろうと思えば思うほど嫌な予感がする。どんどん沼に入っていくような感覚だ。
「今は、まだ」のようだな」
そう言って男が手の平を向けると、急に眠気が発生した。夢の中なのに眠気とはな。
「アーロ君!」
目覚めると木目の天井が見えた。どこかに移動したんだろう。ダンジョンから出たのは覚えているが、その後がまったくだ。
「ここは」
「良かった! 起きたんだね! ここはダンジョン近くの宿だよ」
「確か、毒で」
「うん。受付の人から解毒のポーションを貰ってかけたの」
若干の体のだるさはあるが、吐き気なんかはない。ポーションとやらはすごいな。解毒するためにいろいろと研究しなくてはならないのに、ここではポーションをかけるか飲むかだけで解毒する。欲しいな。あっちに持って帰って複製できないだろうか。
「起きて大丈夫なの?」
「少しぐらいなら平気だ」
そもそもどういう環境で育つかもわからないものを、持って帰って栽培できるとも限らん。少しでも環境が違えば枯れるかもしれないからな。
「どうしたの?」
「いや、解毒のポーションとやらはすごいなって思ってな。私がいた国ではその毒を解析してからじゃないと解毒薬が作れなかったからな」
ベッドから起き上がり、窓を見る。今は昼ぐらいだろうか。街の声が聞こえてくる。
「そうなの?」
「ああ」
「なんか、変わってるね」
「変わってる、か」
確かにこの世界の住人からすれば変わってるな。私にとっては普通のことではあったが、解毒だけでもこんなに違うとは。
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