第17話 魔法は便利

 どれくらい眠っただろうか、自然と目が覚めた。今朝まで見た悪夢のせいってわけではないが、少しだけすっきりとしている。やれる仕事はないかもしれないが、とりあえず、眠ったことに対して謝らなければ。


「起きたのね、よく眠れた?」


 耳が生えている女性。メリセントと名乗った女性がにっこりと笑っている。あれは怪物……ではないな。人、なのか? 確か冒険者の中にも獣の耳が付いているのがいたな。たぶん、それと同じなのだろう。朝の紹介のときにはいなかったが、昼に来たのだろうか。


「うん。お手伝いするって言ってたのに眠ってしまってごめんなさい」

「いいのよー! ただし、これからいっぱい働いてもらうわよ」

「僕がんばるよ」


 着いてきてと言われ、着いていった場所には木箱が多く積み上がっていた。上にあるものが何かはわからないが、全て同じ形の木箱に入れてある。中を見てみればフラスコ瓶が入っていた。これは……ポーションとやらか。形は違うが、アレシアが持っていたものと色が一緒だ。


「魔法は使える?」

「ううん」

「じゃあ上の取るから1箱持ってね」


 そう言うと、1番上にあった何個かの木箱がふわふわと降りてきた。私のところに1箱。メリセントのところに10箱漂っている。


「お姉ちゃんすごいね! 僕1個で限界なのに」

「ありがとね。でも、すごい人は30個持てたりするんだよー」


 中に入っている瓶の数は少ないが、中身が水なだけあって結構な重さをしている。横に並びながら移動し、受付前に着いた。何故受付に?


「回復薬持ってきましたー」

「ありがとうございます。いつもの場所にお願いしますね」

「はーい」


 いつもの場所。どこかはわからないのでとりあえず着いていくことに。受付の前を通りすぎ、左奥に入って行くと物が多く置いてあった。同じような木箱もあったが、樽や、完全に密封された箱もある。


「お姉ちゃん、ここでいいの?」

「そこでいいよー」


 同じ箱がある前に立ち、メリセントに聞く。回復薬とやらには一度助けられたことがある。慎重に置かなくては。もしかしたら今後使うかもしれんからな。


「あと5往復するからね」

「わかった」


 10箱置き終わったメリセントの後ろを付いていく。後は同じだ。運んで降ろしてまた戻っていく。

 そして、全て終わった頃には外は夕方になりかけていた。


「お疲れ様。今日はありがとうねー」

「これいつもしてるお姉ちゃんはすごいね」

「そんなに褒めたら恥ずかしくなっちゃうでしょ」


 乱暴に頭を撫でられた。獣だからなのか、手の平に柔らかいものが当たっている。なんだ、これ。とっさに掴んで驚かせてしまったが、手の平にあるものを許可を取って見させてもらった。


「すごく柔らかいね」

「くすぐったい」


 人の姿であっても耳が生えていると手の平に肉球が出来るのか。何とも言えない感覚でずっと触っていたいが、遠慮しておこう。くすぐったいと言っていたしな。なぜか張り付いてなかなか剥がせない。


「アーロ君?」

「あ、ごめんなさい。すごく柔らかくて」


 そろそろ離さないとな。手を離し、メリセントからも少し離れる。近くにいるとまた触ってしまいそうだ。


「今日はゆっくり休んでね」

「うん」


 手を振り返し、受付に向かうとそこにはアレシアがすでにいた。なににもやられてなかったか。


「怪我はしてないだろうな」

「もちろんだよ。今日も薬草採取だったから」

「それは自慢することなのか?」

「うん」


元気よく言っているが、本人が言うならそれでいいのだろう。

ギルドを出て、そのまま食事場へと向かっていく。







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