第18話 順番待ち

 荷物運びなどの仕事に慣れ始めて数日。受付の仕事はできないとわかった私は、受付前に立っていた。そして数日やって分かったことがある。


 冒険者たちは並ばないということ。


 全員というわけではないが、我が強いものが多かった。それのせいか受付の人たちが毎回忙しそうに動いていた。そして、試しで区分けをしたらどうかと提案した。提案しただけでまさかやってくれるとは思わなかったが、一日だけ試しでやってくれることに。


「依頼を受ける人はこっちに並んでー!」


 いつもごった返しているギルド内で大声を上げる。そうしなければ声が届かない。そして冒険者たちには大柄な者が多い。その場で飛びながら案内するしかない。


「ハンマー持ってるお姉ちゃん、こっちが依頼受付だよ」

「助かった」


 今までとは少し違ったことをやっているせいか迷っている冒険者も多くいる。ハンマー持ちの冒険者も周りを見渡していたから服を掴んで案内した。


「依頼頑張ってね。あ、槍持ちのお兄ちゃん順番だよ!」

「わりぃわりぃ」


 女性を案内し終わった後、槍持ちの冒険者が割り込んできたが、頬を膨らませながら服を引っ張る。やはり体格差や力の差があるせいか、なかなか引っ張れない。


「動いてくんない? いたずらとかしなくていいから」


 手を離し、不機嫌そうに見上げる。槍の男はへらへらと笑っているが、こんな奴に構う必要もない。背が小さいからとおちょくっているのだろう。ふんと鼻を鳴らし、他のところに向かった。元の姿のときであれば引っ張っていけたんだがな。覚えていろよ。


「アレシアお姉ちゃん」

「あ、アーロ君」

「迷っているの?」

「そうなの。依頼完了したんだけど、どこでしたらいいかわかんなくて」

「こっちだよ」


 アレシアの服を掴みながら受付へと向かう。朝帰りの冒険者が多く、結構並んでいたが、受付完了だけだからかわりと早く列が進んでいる。


「僕、他の人の案内もしないといけないから」

「頑張ってね」

「うん」


 並んだアレシアから離れ、他のところに向かうと一番最初に突っかかってきた大男がいた。足の怪我は治ったようだ。そしてまた騒いでいる。


「ですから順番に」

「急いでんだよ、早くしろ」


 前突っかかってきたときは1人だったが、他にも仲間が2人いた。そして同調しているようで受付さんと大男達、1対3の構図になっている。力は弱いが、知識はある。それでもう一度脅かした方がいいだろう。二度とあんな態度はとらせないように。


「ねえおじさん。そんな恫喝どうかつしてて楽しいの?」

「お前!」


 ただ、今回は酔っぱらっていない。慎重に見極めて攻撃などを避けなければ。大きな声で呼びかければ、私を見つけた大男が荒い足音で近づいてくる。


「我が強いのはいいことだけどさ、1人騒がしくしてるから目立ってるよ」


 腰と肌のところにナイフを隠す。いつ襲い掛かってきてもいいようにと対策して。大男の足元を見てみれば、前回足に木製フォークが刺さったことで学んだのか、今回は足にガードを付けている。何製かわからないが、金属類だということだけはわかる。となると、狙い目は足首の付け根なのだが、一歩間違えれば靭帯じんたいを切ってしまう可能性もある。さすがにそこまでの責任は負えない。隠し持っているが、ナイフは脅し用に使うか。


「この前の復讐だ!」

「子供相手に必死だね」


 今回も殴りかかってくるかと思ったが、私のお腹目掛けて足で蹴ろうとしている。受け止めることは出来ない。だから最小限の動きで横にずれ、距離を取る。次に回し蹴りが来る可能性もあるからな。避けられた大男はそのまま私の頭めがけて蹴ろうとしたが、しゃがんで避け、ナイフの柄でくるぶしを強く殴った。


「ぎゃあ」


 情けない声を出して、またしゃがみ込む大男。足の甲やすねは守れてもくるぶしが出たままじゃ狙われるぞ。


「おじさん、また痛い目に遭いたくなかったらギルドの言いつけを守るんだよ」


 大男の前に立ち、腕を組みながら見下ろす。返事はない。もとより返ってくるとは期待していないが。

いまだうなっている大男を無視して、冒険者たちを並ばすためにまた大声で言った。


「依頼受付は手前側。受注は真ん中でやってるよ! そこ! ちゃんと並んで!」

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