第16話 お酒は弱い

 次々と依頼書が剥がされ、受付に持ってくる冒険者達。とんでもなく多い。ただ怪物を狩るだけのことに、何故これほど多くの冒険者が現れるのだろうか。

 そして、1人1人と会話をしているユルリカ。なんのためにやっているのかわからん。


「人いっぱいだったね」

「いつもこれくらいよ」


 なるほど。毎日これほどの人数をさばいているのか。私には出来ない仕事だ。しかも毎回笑顔を相手に向けながら。


 次に来たのは、少しふっくらした男性だった。人が良さそうな顔をしている。この見た目で冒険者だったりするのだろうか。武器らしいものは何も見えないが。


「こんにちは。護衛依頼って受け付けてますか?」

「承っておりますよ。どちらまで?」

「レーソの街まで」

「そちらまででしたら、金貨1枚になります」

「ではそれで」


 ふくよかな男性がショルダーバッグから小さい麻袋を取り出し、金色に輝く硬貨をカウンターに置き、お辞儀して出ていった。なるほど、依頼者だったのか。そして、ああやって依頼が増えていくわけか。


「アーロ君、そろそろ休憩しようか」

「うん」


 次回手伝うとなったら何をするべきだろうか。受付は説明された通り許可がなければできない。依頼書を書くのもまだ出来ないだろう。


「ご飯食べ終わったら書類運びとかを手伝ってあげてね」

「わかった」


 受付の裏に戻り、従業員専用の部屋へと向かっていく。そこには食事が用意されていた。

 色は違うが穀物に野菜と海鮮が入っている。これはパエリアか。そして飲み物。中身はお酒か……?


「アーロ君のはミードだね」

「これ、お酒なの?」


 昨日飲んだのは紫色のヤツだったが、今度は薄いオレンジ色のやつが濁っている。これは飲めるものなのか? 木製ジョッキを持ちながらいぶかし気に見ていると、ユルリカが覗いてきた。


「サイザーね。すり潰したりんごが入っているミードよ」

「そうなんだ」


 りんごか。なら平気だな。一口飲んでみれば、確かにかすかな酸味と蜂蜜の甘さが口の中で広がっていく。ただ、飲み過ぎるわけにはいかないな。ミードとはいってもお酒に変わりはない。


「美味しいね」

「うん」


 木で作られたスプーンでパエリアらしきものを食べ、ミードで口を潤す。こんなにゆっくり食事を楽しむのは久しぶりだ。向こうではいつ襲われるか分からないうえに、食事も質素だった。基地でもゆっくりしながらしっかりと食べていたが、いつ任務に行けと言われるかわからなかったからな。楽しむどころではなかった。


「お腹いっぱい」


 満腹になったが、普段お酒を飲まないせいか、若干頬が熱い。酔っぱらったのかもしれない。


「眠そうね」

「この後もお仕事あるのに……」


 まぶたが重くなってきた。お酒を飲みなれないからかもな。


「普段お酒は?」

「ここにきて初めて飲んだ……」

「あら、そうなの」


 ここで寝るわけにはいかない。せめて、安全なところで。目を擦りながらなんとか食事を提供していたところに持っていき、朝あいさつしていたところに向かう。そこなら大丈夫な気がする。

 これは、ダメだ。食べ物と一緒にミードは飲むべきではない。これほど眠くなると今後に支障が出る。


「少し眠っておく?」

「でも……」

「言っておくわよ」

「いいの……?」

「ええ」

「ありがとー……」


 ユルリカが私の手を握り、誘導してくれている。もうほぼまぶたが降りていて周りは見えない。ただ、握られている感覚や歩いているのはまだ分かる。

 しばらく歩いていたが、途中で立ち止まり、ユルリカが何か話しているのが聞こえるが、何を話しているのかは分からない。

 また歩き始め、騒がしい所から少し静かな場所に移動した。


「ここで仮眠取ってね」

「うん……」


 横に寝かされ、布団をかけられたら先程まで我慢できていた眠気が一気に来て、眠りへと落ちた。

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