第15話 仕事の手伝い

「ミード以外の飲み物が欲しいな」


 これから仕事をするのにお酒を呑んで眠たくなるわけにはいかない。そうならないために、今目の前にいる食事を提供してくれる女性に困り顔で要求する。


「困ったね、ミードか酒以外置いてないよ」

「すぐじゃなくてもいいから準備しておいて欲しいな」

「考えてみるよ」

「お願い」


 しばらくは飲み物無しで食べるしかないようだが、今のところ不便だとは思っていないから大したことではない。ミードは水分が欲しくなった時か、1日もうやることがないって時に飲めばいい。


 朝食は堅いパンと豆入りスープ。昨日と似たような食事だな。肉がないだけだ。しかし、この後どんなことをするのか分からないが、これで足りるのだろうか。


「慣れないことが多いかもしれないけど、頑張ってね」

「そっちこそ、簡単に死ぬなよ」


 食べ終わった頃、他にいる冒険者たちがぞろぞろとギルド内に入ってきた。ここでアレシアとは一旦お別れ。今日の分の依頼書が壁に貼られていくのを横目に、昨日話をした受付の人がいた。その人のところに向かい、話しかけた。


「おはよう、アーロ君。よく眠れた?」

「ばっちり!」


 サムズアップをしようと思ったのだが、ここがタブーになるところかどうか分からず、中途半端に片腕を上げた状態になってしまった。私の様子を不思議そうに見る受付の人。なんでもないよと言い、受付の裏側に入って行くのをただついて行った。

 中には女性が数名と男性が何人かいたが、私のように子供は居なかった。何歳からとか決められているのだろうか。


「今日から手伝ってくれるアーロ君よ」

「アーロです。よろしくお願いします!」


 子供らしく元気にあいさつし、頭を下げた。何人かがよろしくねーと声をかけてきた。


「まずはお仕事を覚えるよりも、お姉ちゃんとお兄ちゃんでいっぱいだから名前知りたいな」

「それもそうね。私はユルリカよ」


 昨日からずっと私とアレシアの対応していた黒い長髪で、途中からみつあみにしている女性がユルリカ。次々と自己紹介していく女性たち。一気に覚えることは難しいが、何か尋ねるたびに聞いていくか。


「ユルリカお姉ちゃん、よろしくね」

「よろしくね。まずは受付から始めましょう」


 付いてきてと言われ、表に出る。ギルド内はすでに冒険者でいっぱいになっていた。まずは受付ということでだ。ここで人の習性なんかも見ることが出来るかもしれない。誰と仲良くし、誰とは敵対しないようにするなんかをな。


「まずはどう受付しているか見ててね」

「わかった」


 イスを持ってきて、隣に座るよう言ったあと、早速紙を持った冒険者が近づいてきた。そして、私を物珍しそうに見ている。どうやら男女五人でともに活動している者達のようだ。


「受付さん、その子は?」

「今日から手伝いをしてくれることになった子です」

「アーロです。よろしくお願いします」


 机にぶつからないように頭を下げてあいさつする。今の行動に女性たちが黄色い声をあげたが、どこにそんな様子があったのだろうか。


「よろしくね、アーロ君」


 世の中を何も知らなそうな青年が私に向けてにこりと笑った。細い体格のわりにとてつもなく大きい剣を持っている。与えられたものなのか、それとも買ったものなのかは分からないが、それで何事もなければいいが。まぁ、私が心配するものではないな。それで、死のうが生き残ろうが私には関係のないことだ。


「今日はゴブリン討伐ですね。集落が出来ているみたいなので、くれぐれもお気をつけて」


 ゴブリン。確か洞窟に住まう妖精だったか? 集落をつくるというのは初めて聞いたが、討伐するほどのものなのだろうか。元のだと、いたずらをする程度の妖精だった気がするが、


 ユルリカが依頼書と呼ばれていた紙に何か書いている。


「お姉ちゃん、今これは何してるの?」

「受付を承認しましたよってサインを書いてるの」


 いまだ文字は読めないが、赤いインクがついた筆で何かしらの文字を書き終わると、その文字が空に浮き、消えていく。これも魔法とやらか? そして、依頼書を冒険者達に渡し、出ていくのを見送った。


「文字が消えた」

「消えた文字が依頼者のところに紙として送られるのよ」

「すごい」


 だが、これだと不正し放題なのではないか? そう問うと、ユルリカは首を横にゆっくりと振った。


「これが出来るのは、厳しい筆記と領主の許可をもらった人だけよ」

「ユルリカお姉ちゃんや受付の人たち、みんなすごいんだね」

「ふふ、ありがとう」


 私の頭を優しく撫でながら、微笑むユルリカ。ひとしきり撫でた後、大きい手帳にまた文字を書いている。今度はなんだろうか。


「これはなに」

「これは記録書。今どの人たちがどの依頼を受けたかを記録しているのよ」

「忘れ防止?」

「そうね」


 魔法だけに頼らず、文字も書く。二重で大変だが、いいことだと思う。

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