第2話 目覚め

 ひやりとしたものが顔に当たったことで意識を取り戻せた。まだ体は不調を訴えているが、どうにか抗体は出来たようだ。少しだけだが手も動かせた。

 それに、先程まで体を縛られていた感覚が無くなっている。アラクネもそうだが、怪物が私を放置したとは思えない。やつらにあるのは生かすか殺すかのみ。それは私もそうだ。やつらを放っておけば何をするか分からないからだ。


 まだいるかもしれないと警戒しながらゆっくりと目を覚ますと、初めに見えたのは木の葉の間から見える晴天だった。森ではあるのだが、まわりも蜘蛛の巣だらけではなくなっている。誰かが移動させたのか?


 移動させてくれたのは助かるが、自身に違和感がある。いつもよりも視界が広いのだ。頭を右側に動かさなくても景色が見える。それに少しずつ感覚が戻ってきている手で地面の土を掴んでいるが、その量が少ない。気のせいだと思いたいが、小さくなっている気がするのだ。

 

 今すぐ確認したいが鏡などはもっていない。姿が確認できる水辺でも探すしかないときしむ体を自身で支えながら立ちあがろうとしたとき、地面につく自身の手を見て絶望するしかなかった。気のせいではなく本当に小さくなっていたのだ。ナイフを持ち続けた影響で出来たタコや今までの戦闘でついた傷がきれいさっぱり無くなっている。


「あれは毒ではなく呪いだったのか」


 しかし幼児退行する呪いなんてものがあるとは。不覚だ。もっと注意するべきだった。

 ん? 声が……。

 

「あ」

 

 いつも以上に高くなっている。まさか。


「子供になっているのか……。しかも、声変わりする前の」

 

 この頃の私は戦闘など出来ない。もちろん体力も少ない。今あるのは知識のみだ。

 この先どうすればいい。まさか小さくなるとは予想もしていなかった。毒が体中に回ったり、怪我をしているだけならば多くの対処法があるが、子供には戻ったことなどない。どうするべきだ? 体は小さくても生き残るには体力がいる。体力を付けるには食料がいる。だが、その食料を取るための技術が体に追いつかない。


 思考し続けているせいか、いつもより早くお腹が鳴った。そういえば、バーゲスト戦で負った傷も全てなくなっている。

 

「血は少ないままなのか……」


 傷と同様に戻ってくれれば良かったのだが。

 ダメだ、空腹とめまいでまた意識が飛ぶ。寝て少しでも体力を復活させるしかない。どこか安全なところがあるか……? 近くに落ちてあった長い木の棒で自身を支えながら移動しよう。


 ここかどこかはまだ分からないが、雨でも降ったら今ある分の体力が一気に持っていかれるな。どこか洞窟はないだろうか。

 

 

「遠い……」

 

 目覚めた場所からどれほど時間が経ったのか分からないが、景色が変わらない森の中でようやく見える範囲に洞窟を見つけた。だが、一向に近づいてる気配がない。大人の足ではすぐ辿り着いていた距離が子供になればこれほど遠くなるとは。


「きゃああああ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る