現代軍人、異世界いったら呪いでショタの姿に?!

やさか

第1話 異世界からの来訪者

「これで終わりか……」


 赤い目をした黒い犬『バーゲスト』。その最後の1匹がくさりをきしませながら地面に倒れた。私の周りの草木は死骸しがいから流れ出る血で、どす黒く染まっている。3日連続で戦い、どれほど多く倒したかもう覚えていない。


 こちらもずいぶんと体力を消費した。まれたところも消毒して、治療しなくては。腰に付けてある緊急用治療道具は昨日で無くなってしまったが、少しだけリュックの中にあったはずだ。


 リュックから取り出した包帯を怪我している所に巻き、ようやく終わりかとひと息ついたところで急に体が動かなくなった。自身を見下ろせば腕と体を縛り付けるように粘着ねんちゃく質なものが何重にも巻かれている。


 これは、蜘蛛くもの糸か。


 「はーい♡ 貴方がアーロ・ガルシアね。噂通り強いのね」


 急な浮遊感と強く打ちつけられた背中が痛む。場所的に木に縛り上げられたか。いつのまに近づいた……? 右目は眼帯を付けて死角にはなっているが、その分何かが来れば肌に触れる風で分かる。それすらも分からないほど疲労困憊ひろうこんぱいしていたということか。


 声がする方を見れば体が蜘蛛の女が私を見下ろしている。周りも木から木に蜘蛛の巣が張り巡らされていた。運よく糸を全て切って逃げたとしてもすぐ捕まる。対策してやがる。


 「体力がもうないんでしょ? 好機だと思ってね」

 

 足が蜘蛛で胴体が女の怪物は『アラクネ』。ここウェールズ領含め、英国全土で出てくる怪物ではない。となるとどこから。いや、今はどこかなど考えている場合ではない。この危機的状況ききてきじょうきょうをどうくぐり抜けるかだ。


 口角を上げ、獲物を最後まで逃がさないようにアラクネが焦らしながら降りてくる。こいつの対処法は不明。もし攻撃されたらただではすまない。それまでに糸を切らなくては。


 嫌な予感がする。


 バーゲストをさばくために持っていたステンレス製のナイフで糸が切れるか分からんが、少しずつ削ればどうにかいけるか? 腕は拘束されてるが手首は動く。

 プチプチと切れる音が微かに聞こえるが、幾重いくえに巻かれているせいかなかなか切れない。やっとのことで1本は切れたが、そのころには目線がまじわるところまでアラクネが降りてきていた。

 

 にやりと笑うアラクネ。逃げられるはずもないと笑っているのだろう。その通りだ。

 

「どうなるかは貴方次第ね。楽しみだわ」

 

 私の顔左半分をおおうほどの大きい手で押さえつけ、首筋をさらすかのように右に動かされた。

 

 まさか……!

 

 アラクネの顔が下に降りたと同時に、首筋の皮膚ひふを突き破ってやつの鋭利な歯が中に入ってくる感触が直に伝わる。

 頸動脈けいどうみゃく。人の急所は多くあるが、首は一番まれたらいけない所だ。バーゲストとの戦いでもそこだけは死守していた。その為にネックガードもつけていた。それを怪力で引き千切りみついてきたのだ。


 血とは違う液体が体の中を回っていく。咬まれてすぐおきたのは、強烈な吐き気に頭痛。めまい。体のしびれ。視界の歪み。手の震え、そして鼻からあごにかけて流れ出る鼻血。


 抵抗しようにも腕や体に力が入らない。


 「く……そ……」

 

 わたしのしらないどくだ……。はやく、こうたいを……。 このままでは……。

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