2話 燃える戦場

 敵はジェイクの首を取ったと自分の剣で切り刻みわずかな時間で皮膚や筋肉をそぎ落とし骨だけにして、自分の首として取り付けた。その頭蓋は元の顔の原型をとどめておらず、不気味さだけが残っていた。


 ヤバい。どうしよう。不規則に鼓動が鳴る。怒りで武器を持つ指が震えるのがわかる。

 そんな中隊長は微動だにせず静かに敵を睨み続ける。


「君たちは、僕と戦う気ある?大人しく降伏するならできるだけ痛めつけないであげるけど」

 

 ――コイツ、正気か?普通に俺らと会話できるみたいだし、意思?みたいなのもある。まるで人間じゃねぇか。指の震えを抑えるため力強く剣を握った。

 

 隊長は弱音を吐くわけでもなく静かに笑った。


「残念だけどそれはごめんだな。君はここで僕が倒すよ。」


 俺はその言葉に安堵した。さっきまで弱気な姿勢だった自分が馬鹿らしくなりもう一度剣を強く握り戦う姿勢に入る。しかし、そんな俺を見て言った。


「お前たちは別のところにいる他の仲間をここに集めてきてくれ」


 その言葉に俺は一瞬戸惑った。

 ……俺らは戦力として考えられてないのか?胸の奥が重くなり、不甲斐なさが込み上げてきた。

 しかし、真意は別のところにあることを知らされる。

 

「どうやらここら辺は通信が妨害されてるっぽいんだ。だから、頼むよ」


 何……?まさか、そんなはずは……

 ピーピピ、おい、誰か、応答してくれ。

 ザーッ……ザーッ……ザーッ……。


 敵に夢中になっていて気づかなかった。イヤホン型の通信機器で仲間に連絡しようとしたが繋がらない。


「繋がらないだろ?だからお前たちは行ってくれ」


 自分の戦力不足が原因でないことはよかったものの、簡単に指示に従える状況ではなかった。


「隊長。いくらなんでも危険すぎます。俺らも一緒に戦います」

「そうよ。私たちもいくらかは戦力になります」


 自分の力が過小評価されてると思ったのか、はかなが続いて言った。

 

「バカかお前ら。コイツはお前らが加わったとこで倒せる相手じゃない。ここで全滅は避けたい。わかってくれ」

「でも、」

「安心しろ、ここは俺が処理する。なぁに問題ない、俺はお前らの隊長だ。」


 その迷いのない背中には覚悟の重さとどこかにいってしまうよな死の予感が漂っていた。

 怖くなり俺も戦う準備をした。しかし、後ろから彼女が複雑な表情を浮かべて言った。

 

「わかりました。リアム隊長」

「何言ってんだはかな


 俺は、怒りを覚えた。 俺らを戦士に育ててくれたのはリアム隊長だ。そんな人を見捨てて置いてくなんてできない。

 でも、彼女はは差し迫った表情をしていた。


「ルーク、ここは戦場よ。それに言われたでしょ? 

"戦士に感情は存在しない。ただ機械のように従え"って。大丈夫、隊長は強い。そうでしょ?」


 訓練中俺たちを指導してくれた隊長の強さはもちろんわかっている。けど、相手は明らかに今までの相手とは比にならない何かを感じる。そんな相手にひとり残していいのか。どうする俺?どうすれば?


「ルーク、早く。悩んでる時間なんてないわよ」

「……わかった」


 残りたかったが、彼女の言うとおりここは戦場。隊長を信じて別の仲間のところへ行こうと思った時、不意に声が響いた。


「ちょっと待ってください。今、ルークと言いましたね?……そうですか、君がルークですか」

「どうして、俺のこと?……」

 

 初めて見たロボットに自分のことが知られていることに少し恐怖を覚えた。

 そして、そいつは含みのある口調で答えた。


「いえいえ、ちょっとこちらにも事情がありましてね。まぁいいでしょう」


 なんだこいつ。俺のこと知ってんのか?でも、どうして。やっぱり俺は残ってこいつと――

 ドン!、、、バン!


 さっきまで隊長の前にいたはずが一瞬で隊長に近づき蹴り飛ばした。

 ――速すぎる。全く見えなかった。


「隊長ーー」


 俺は隊長が吹き飛ばされた方を確認する。隊長は壁にぶつかり動けなくなっていた。


「ルーク、前」


 はかなの声で前を見たが遅かった。敵が俺に刃を向けてきていた。

 ギィン!、ヴォン!

 なんとか自分の剣で防いだが吹き飛ばされた。


 痛ててて、クソ。速すぎる。ん?どこだ?


「ルーク、上ー!」


 ん!ヤバい、今度は間に合わない。

 上から黒い影が、まるで雷のように向かって一直線に落ちてくる。

 

 ガン!キン、キン、キン!


 敵の刄とリアム隊長の刃がぶつかり合う。

 また互いに距離を取った。


「大丈夫か?」

「リアム隊長!隊長こそ大丈夫なんですか?」

「俺は問題ない」


「ルーク、無事?」

「おぅ。隊長のおかげでなんとか」


 それにしても俺はヤツの足元にも及ばないのか。速すぎて対抗する隙がない。

 それにやっぱり……


「隊長さんもなかなかやりますねぇ。てっきりさっきので死んだかと思ってました。それにいくら死んでると言ってもかつての教子の首をはめてる相手には多少の躊躇はあると思ったんですがね」

「さっき言ったでしょ。君は俺が倒すって」

「面白いことを言う方ですね。あなた方のような人間が私を倒すだなんて。まぁいいでしょう。もう少し遊んであげます」


 その言葉を聞くと、リアム隊長はS2《エスツー》スーツのモードを"二"に切り替えた。

 S2《エスツー》スーツとは戦闘隊の中で、たった5人ー俺の戦士候補生の時の仲間の班隊長たちーにしか与えられてない特別なスーツだ。


 詳しい仕組みはわからないが、特殊な素材が全身を覆っていて、そのスーツに組み込まれているセンサーが状況に応じスーツの硬さを調節するらしい。筋肉の動きに合わせ伸縮する柔軟性と全身の繊維が硬化し、ナイフや銃弾さえも寄せつけない防御性もうある。

 

 また、センサーが筋肉の動きを読み取り、無駄なく力を引き出してくれる。その力は人間の身体を何倍も強化するらしい。このスーツは、着るだけで筋肉そのものが変わったような感覚を与えてくれる。筋肉が動き出す瞬間を逃さず察知して、必要な場所に力を集中させる。素材が筋肉と一緒に動くことで、無駄なく力が引き出され、まるで自分が風になったかのように速く、軽く動けるのだ。

 

 ちなみにモードは"一"から"四"まである。

 "一"は俊敏さ重視

 "二"はバランス重視

 "三"は防御さ重視

 "四"は"一〜三"の全てが合わさっている。そのため、一時的にしか使えない上、疲労感がとてつもないので今まで誰も使ってないらしい。


 


 すげぇ。自分と同じ人間には思えないほどのオーラと仲間を殺された怒りが隊長からは感じられた。

 

「ほおぅ、スーツですか。これはまた大層なものを。」 


 敵は動揺せず、平然とした口調で話しているが顔はジェイクで、まるでジェイクが喋ってるようにも感じられ、再び恐怖と絶望に襲われる。

 しかし、そんな気持ちは関係なく戦い始まった。


 敵と隊長が同時に互いに向かって突き進んだ。剣とぶつかり合い激しい音がなり響く。二人の強さは拮抗していた。

 だが攻撃するのはヤツの方で隊長はそれを防いでる状態が続いていた。


「防ぐだけですか?攻撃をしないと勝てませんよ」


 ヤツは挑発するように言った。


「問題ない」



 敵の刃が空気を切る。その剣筋を読み己の剣で攻撃をいなす。そして壁に追い詰められ敵の剣が猛然と振り下ろされる。瞬時に反応し身体を左に傾ける。剣が壁を破壊し重たい音が響いた。しかし次の瞬間こっちに攻撃の隙を与えず右から刺突が迫ってくる。隊長はすかさず剣をいなし敵と距離を取る。

 その戦いは凄まじく、力の差を思い知らされる。まるでそこだけ別の空間のようだ。


「よし。もういいだろう。ここからは俺の時間だ」


 何かを確信したような余裕な表情を浮かべながら言った。


「何を言ってるんですか。さっきまでただ攻撃を受けていただけのあなたが」


 バカにするように言うヤツを無視して隊長は一直線に向かっていった。そして、戦況は一変した。

 さっきまで攻撃をしていた敵が今度は逆に防ぐことで精一杯になっている。


「やりますねぇ。まさかあの短時間で私の動きを読んだとは」


 どんどん剣筋が速くなりヤツを追い詰める。しかし、黒い骨に覆われている部分はとても硬く剣を弾いてしまう。これ以上攻めても無駄だと思ったのか、一度間合いを取り俺らのところに来た。


「ダメだ。この剣じゃヤツには対抗できないな」


 武器が効かなくて焦ると思ったら悔しいそうな表情をしていた。

 この人おかしい。こんな状況でもまだ余裕な感じを出している。どうやら恐怖というものをいつからか忘れたみたいだ。だが俺にそんな余裕はない。今ここにいる者でヤツに勝てそうな者はいない。悔しいが俺も……。

 もう、逃げるしかないのか……。そう考えていた時、


「あらあらお馬鹿さんたち。何をそこでぐずぐずしてるのかしら?」


 声のほうを見ると、家の瓦礫の山に立っているアスナ班の三人がいた。

 

 少し煽るような口調で言ってきたのが、隊長のアスナ・アレクサンドロス班長。

 助けに来てやったわよと、言わんばかりの目でこっちを見ながら赤い長髪をかきあげる。

 そして後ろで両腕を組んでいる二人の男――スキンヘッドで図体の大きい男がチャドウィック・カーター。俺らはチャドって呼んでいる。もう一人、――縮れ毛の黒髪で目が隠れている背の高い男がグラン・シュタール。


「さすがだねぇ、アスナ。ちょうどいいタイミングで来てくれた」


 予想していたような目つきで言った。まさかこの人、最初から勝つ気はなくて、通信が取れないことを不審に思った別の班が来ることを待つために時間を稼いだんじゃ。

 どうやらアスナ班長も分かっているようで、


「ふん、どうせ来ることくらい分かってたんでしょ。思ってもないのにいちいち褒めないでよね。逆にイラっとするわ」

「はいはい、ごめんねぇ」

 

 図星だったのか少し焦った表情を浮かべる。



「お前ら大丈夫か?」


 俺らのところに来て二人が言う。


「あぁ、なんとかな。」

「繋がんなくて、てっきりお前ら死んじまったかと思ったぜ」


 チャドが肩を組みながら言う。俺は胸を締め付けられるよな感じがした。今の言葉で候補生の時の仲間が一人死んだことを再確認させられる。

 もしこいつらに言ったらどうなる?……絶対動揺してまともに戦えなくなる。けど、いずれわかる時が来てしまう。その時に知らされたほうが、もっと苦しいきがする。

 自分がどっちの選択を取ればいいかわからなくなっていた。


「どうした。どこか怪我したのか?」


 俺を見て変に思ったのかグランが心配してきたので、とりあえずごまかすために何でもないと言った。


「おい、ルーク。あいつが敵か?」


 チャドが指を指して言った。

 自分なら倒せるだろうというような余裕の笑みを浮かべていた。

 実は、そいつは……。

 

「そうだ。あの化け物に俺らはてこずってたってわけ。だって、この剣じゃ効かないんだもん」


 軽い口調で何事もなかったように言ったその目には、罪悪感などなく純粋な子供の目のようだった。

 ――この人最低だ。

 まったく何を考えてるかわからない。だから真意を問い詰めようと声をかけた時、


 「黙っとけ」という無言の圧力を帯びた鋭い目。まるで別人のような冷たい表情で俺を見てきた。

 体が一瞬で凍り付き震える。隊長の、いや……戦場の恐ろしさを突き付けられた気がした。

 

「リアムさん、俺らに任せてください!」


 自信満々にチャドが大きなハンマーを担ぎながら言った。それに続いて二人も前に出る。―ちなみにグランは銃器を使いアスナ隊長は特殊な剣を使う。


「行くわよ!チャド、グラン」


 先頭に隊長。両サイドに二人がいる陣形で全速力で走り出した。

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