第23話 中央の偉い官吏様
お店の人が削氷様を見て、恭しくお辞儀をし、案内をしてくれる。
何も言わずとも、奥の個室に通された。きっと削氷様はこの店の上得意なのだろう。
「二人とも、何か苦手な食べ物はありますか?」
「私は何でも食べられます」
「俺もです」
「分かりました。では私のおすすめを頼んでいきますね」
席に着くなり削氷様は、次々と料理の注文を済ませてしまう。
火を通さない料理から順にすぐに届き始め、テーブルの上はあっという間に豪華な料理で埋め尽くされた。
色とりどりの果物に、青菜炒めに、揚げパン、高級そうな肉の入ったスープに、饅頭などが、所狭しと並んでいる。
「すごい! 美味しそう」
何やら怪しげな、
「食に関してはここ、国の都である
料理が全て届くと、ニッコリと微笑んだ削氷様は、店員さんに「しばらくは入ってこないように」と伝えた。
「それで? 先ほどの入学試験の話、もう少し詳しく教えていただけますか。
「詳しくと言いましても。先ほどお話ししたことでほぼ全てです」
「そうですか。……そちらの彼は誰ですか?」
「
「ああ、あの。飢饉のときに来ていたとかいう……初めまして、削氷様。私は梓翔と申します」
「はい、よろしくお願いいたします。」
今更ながらに自己紹介をする二人。
「翠玲、梓翔はあなたが女性であることを知っているのですね? 他には誰か知っている者はいますか?」
「いいえ、いません」
「では梓翔が寮で同室なのですか?」
「いいえ、同室の相手は
とはいえ蒼蘭は部屋では普通に話をしてくれるし、最近は授業中も、他の生徒達とも少しずつだけど話すようになってきているのだけど。
「……本当に? 一緒の部屋で生活していて、気が付かないなんてこと、あり得ます?」
「幸い蒼蘭は、朝早くに部屋を出ていくんです。授業の後も自習をしてから部屋に帰ってくるので、私が一人になれる時間が多くて。おかげで着替えるにも困りません」
「あー……なるほど。大体様子が分かりました」
「蒼蘭……あいつマジですごい良いヤツだな……」
いつもは穏やかだけれど、やり手と恐れられる削氷様と、一見浮ついた天才肌に見せて、実は努力家の梓翔。全くタイプの違う二人が、なぜだか意気投合して分かり合っているように、視線を交わして頷き合っている。
「分かりました。現状のままで問題なさそうなので、私が調査を終えるまでは、とりあえずそのままでいてください。梓翔君、何か翠玲に困ったことがありそうだったら、すぐに私に知らせてくださいね。あとで連絡手段を教えます」
「分かりました」
「翠玲、申し訳ございませんでした。私の監督責任でもあります。私が大学に通っていた時代は、女性の道士も何人かいたものですが。いつの間にそのようなことになっていたのか……」
「……なぜ削氷様の責任なのでしょうか? 削氷様は大学の学長でもありませんし。教育関係の官吏をされていらっしゃるのですか?」
まさか削氷様に謝られるとは思わなかったので、驚いてしまった。
削氷様がムラにいらっしゃる時は、飢饉や災害、妖怪が発生した時だったので、
それとも最近、担当が変わったとか。
「おや、翠玲は知らなかったんですか。私は
――宰相。宰相とは一体なんだったか。
確か
中央行政は更に人事や土木、教育や軍事、司法などに分かれている。
そうしてそれらの地方行政、中央行政の全ての官吏を取りまとめる、官吏の中で一番偉い官吏が宰相。
宰相!?
「宰相!? 削氷様がですか!」
「まさか本当に知らなかったとは……。翠玲は一体私のことを何だと思っていたんです」
「中央行政の、山東地方担当の官吏様かと」
「なるほど」
仙人は見た目と実年齢が関係ないとはいえ、二十代にも見える好青年であるこの人が、まさかこの国の宰相様とは。
小さな頃憧れていたお兄さんが、宰相様。考えたこともなかった。
「女性を大学に入学させないなんて馬鹿なこと、一体いつからやっていたのやら。これはとんでもないことですよ。分かっていてやっていた者達は全員、仙籍から
「じょ、除籍……ひえっ」
仙籍から除籍された仙人は、直ちに肉体が実年齢に戻る。
仙人になってから三~四十年しか経っていないならばまだ生きていられるだろうが、百年以上経っているような者は即ミイラ化するだろう。つまり実質死刑ということだ。
「さ、削氷様。なにもそこまでしなくても……」
「翠玲、仙人は不老不死です。役職についた仙人が道を踏み外しても、老いや死による交代が永遠にこない。永遠に国が腐り続けてしまう。だからこそ、処分に甘えは禁物なのですよ」
「……分かりました。よろしくお願いいたします」
削氷様が怒ると怖いと言われていた理由が少し分かった気がする。
でもきっと、これが宰相様として必要なご判断なのだろう。
――ところで一国の宰相様が相談に訪れる、私のムラの仙人様たちって、一体何者なんだろう……。
なんだか聞いたらとんでもない答えが返ってくるような気がして、怖くて聞けないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます