第5話 呪いの正体
蒼蘭の体の輪郭が、淡い光を発しながらぐにゃりと曲がる。
「グルルルゥゥ……」
そうしてみるみるうちに何かの動物のようなものに変化してしまった。
ピンとたった耳、縞々模様の毛皮、凛々しい瞳に、意外と長い尻尾。
「わあ、カッコいい……蒼蘭、あなた
人虎というのは、人が虎に変化したもので、一般的には妖怪扱いされている。
しかし本当は、生まれながら変化をしてしまう仙人の一種、つまり天仙なのだ。
今まで私は仙術について、死ぬほど勉強してきたので間違いない。
大学に通うような優秀な生徒たちも、きっと
だけど一般の人々にとっては、虎に変化する人というのは恐ろしいもののようで、虎に変化してしまう人間は長年迫害されてきた歴史がある。
まあこの大学には、既に仙人で人虎を羨ましがる人はいても、迫害する者はいないはずだ。
「初めて見た。その姿の時って、言葉は分かるの?」
『……分かる』
しぶしぶといったように、虎姿の蒼蘭が答えてくれた。
直接話すのではなく、念話のようなもので、思考が伝わってくる。
「それを今まで抑えつけて、隠していたの? この大学で、人虎を恐れる人なんていないでしょうに」
『どんなにエリートであろうと……エリートだからこそ、迫害する者達がいる』
「えー、嘘。そんな人どこにいるの?」
『俺の父親がそうだ。あの呪いをかけた本人』
「……そうなんだ」
私が知っているエリートと言えば、ムラでウロウロしていた仙人たちくらいだけど、のんびりお昼寝をしたり、釣り糸を垂らしている彼らからは、とても人虎を迫害している姿は想像できない。
だけどあれほどの呪いに苛まれて、それでも人虎であることを隠そうとしていた蒼蘭の様子から、そういうこともあるのだろうということは推測できた。
『すまないが、消耗が激しすぎて、朝まで人型に戻れそうにない。本来は人型と獣の姿になっている時間が半分ずつ必要なところを、この一か月間、人間の姿でい続けたから』
「そうなんだ。分かった、ゆっくり休んで」
『……俺が怖くないのか?』
「全然。可愛いし」
我慢ができなくなって、ついに虎の首元に手を伸ばす。
そのままカリカリと毛皮をかいてあげると、虎は気持ち良さそうに、目を細めた。
疲れすぎているのかぐったりしていて、されるがまま。反発する元気もないみたいだ。
今のうちに、たくさん触らせてもらっておこう。
『……あのなぁ。言っておくが、虎の嗅覚は、人間の一万倍以上なんだぞ』
「へえ、すごいね」
『すごいねって……はあ。もう知らん。俺は寝る』
「うん。お休み」
そう言って、蒼蘭は目をつぶり、すぐにスヤスヤと気持ちが良さそうに眠り始めた。
本当に限界だったのだろう。
幸せそうに眠る虎に、こちらまで幸せな気持ちになってしまうのだった。
*****
「起きろ。授業に遅刻するぞ」
「ん-、あれ? 明るい」
朝起きたら、既に虎は人間姿の蒼蘭に戻っていた。
もう既に着替えも済ませている。
一足先に寝た蒼蘭を撫でていたことは覚えているけれど、自分の寝台に戻った記憶がない。
けれどしっかりと自分の寝台に横になっていて、布団まで掛けられていた。
無意識に移動したのだろうか? それとも蒼蘭が運んでくれた?
「早起きだね、蒼蘭」
「
「え、今あなた翠って……」
初めて名前を呼んでくれた蒼蘭は、いつも通りかなり早めに、颯爽と部屋を出て行った。
蒼蘭が早めに部屋を出るタイプなおかげで、私は一人でゆっくりと着替えることができるのだった。
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