第6話

父は高校生の頃から、世界選手権を含め数々の大会を制してきた柔道選手だった。

オリンピックで頂点に立つまでは喜ばないし泣かないと決め、表彰台の上でも常に厳しい表情をしていたという。

ハンサムで、美しい投げ技で一本を取る姿に多くの人が魅了され、絶大な人気を誇っていた。


オリンピックでも間違いなく金メダルを取ると誰もが信じていた。

ところが、代表選手に選ばれて少し経った頃、気分転換のため遊びに行った先で、酔っ払ってふざけていて電車にぶつかり、大きく飛ばされた。

病院に運ばれ生死の境を彷徨い、オリンピックの代表も他の人に譲らざるを得なかった。

事故のときだけでなく、意識不明の状態から意識を取り戻したときにもニュース速報が流れたそうだ。


皮肉にも代わりにオリンピックに出た人は金メダルを獲得、次の大会では連覇を達成した。


そのあと、父は何年かぶりに現役復帰したが、もう以前のように勝てなくなっていた。

ついには全国大会も出場を逃した。

いくらでもいた熱狂的なファンでさえ、次第に父から離れていった。


そんな中、いくら負けても熱心に応援してくれる女の人がいた。

父は引退して、その人と一緒になり、僕が産まれた。


父が僕に柔道をやらせたのは、自分の夢を僕に押し付けるためだと思っていた。

それなのに、僕は子供の頃から他の子より弱かった。

試合で負け、練習でも散々投げられると周りからは様々な声が聞こえてきた。


「あの子、お父さんは世界一に成ったのに、本人はすごく下手ね」

「何も考えずにやって、本当にあっさり負けているね」

「いつも練習で手を抜いて怒られているね。お父さんもかわいそうに」


そんな声が聞こえてくるたびに、ますます惨めな気持ちになった。

しかも、父は何度もテレビの取材を受け入れた。


小学校の途中からは祖母に迎えに頼らず、学校の近くからバスに乗って自分で道場に行くようになった。

だけど、道場の近くをウロウロして時間を過ごし、祖母が迎えに来る時間に合わせて何食わぬ顔で道場の前に立っていることが多かった。

取材が来る度にまずそれがバレて、父から厳しくしかも時間をかけて叱られた。

その様子は全て撮影されていた。


それだけではなく、テレビ局の人たちは僕が負けたり、先生に怒られている所を撮って、満足そうにしている。

カメラが入ると、先生たちもますます厳しくなった。

その番組を見た同じ学校の子たちからからかわれ、嫌味を言われた。

そうしてますます嫌になった。

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